生ぬるい、けれど背筋を凍らせる力を持つ濁った空気が、世界を覆うかのように蔓延っていた。

重い空気に溶け込む血のニオイに刺激され、頭がクラクラと揺れる。

内臓を吐き出したくなるほどに不快だった。


「裏切るのか?」

「違います。私は……私がなすべきことをするだけです」

「それを裏切りと呼ぶのだ」

「私からすれば、あなたが裏切っているように思えますが?」

「ハッ、裏切りだと? 裏切ってなどいない。元からこれが目的だ」

「まさか……!」


二人の間を漂う空気が一瞬姿を変えた。

一方は笑い声を響かせ、一方は唇を噛んだ。

反響していた声が止む。

刹那の静寂。

それは嵐の前の静けさ。


「お前は生かしてやった恩を仇で返すのか」

「そのことは感謝しています。ですが……」


刃を構え合う二つの影。

鈍い光が、炎のようにぽつりと浮かんで見えた。


「わかりやすい答えだ。私にはもうお前は必要ない。不要品は始末せねばな。……ここで死ね!!」


重い剣を受ける。

痺れる両腕、耐えられないほどの衝撃。

奥歯を噛みしめ、降り注ぐ雨のような攻撃を受ける。

そんな中で、今すべきことを考えた。

それは、ここで「彼」を倒すことではない。

生きて、この場から逃れること。

剣を持ち変えて、己が得意とする技を突破口にした。



守りたいと思った。
それは嘘偽りない気持ち。


それは何故だ?


居場所だったから。
居ても許される場所だったから。


自分のためか。


そうだ。
自分のためだ。
まだ人を守ると公言できるほど、強くない。


言葉にはしないのか。
弱いな。


ああ、弱いんだ。
だから、強くなりたい。
あの方を傷つけるすべての刃を受け止められるほど強く。



Shout the song of the start.

(始まりの歌を叫べ)

 

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