マリアは何度目になるのかわからない時間の確認をした。
約束の時間は午後4時。
現在4時15分。
約束に遅れることはほとんどないし、遅れそうになると必ず連絡を入れる弟にしては珍しい。
何か事件や事故に巻き込まれたのだろうかと不安になる。
このご時世何が起きるかわからない。
携帯の画面を睨むように見つめていたら着信があった。
画面に映るのは弟の名前。
だが、マリアが連絡を待っている相手ではなかった。
「もしもし?」
『姉さん、すみません』
「いきなりどうしたの? 謝られるようなことに心当たりがないんだけど」
『兄さんがまだそちらに着いていませんよね?』
確信を持った質問にマリアは小さなため息一つこぼしてから答えた。
『やっぱり……。だから、ぼくはあれほど……』
どうやらヒューバートはアスベルが遅れている事情を知っているらしい。
「で、アスベルに何があったの?」
『ぼくの口からは言えません』
「じゃあ、何で連絡してきたの?」
『姉さんが兄さんのことで心配してるかと……』
「全然」
嘘をついた。
不安な気持ちはヒューバートからの電話で綺麗に消えていた。
事故や事件に巻き込まれていないのなら問題ない。
過保護に心配したりはしない。
「あと10分して来なかったら帰るよ」
『姉さんが言いたいこともわかりますが、も……』
「あっ、アスベル」
息を切らし走って来る弟の姿が、人混みの中でもはっきり見えた。
『どうやら間に合ったようですね』
電話の向こうで安堵の声が聞こえる。
はっきり言わせてもらえば、全然間に合っていない。
そう思ったけれど、言わないことにした。
「じゃあ、切るよ。電話ありがと」
『いえ。ではまた』
プツリと切れた電話を鞄へ突っ込んで、マリアの前で呼吸を整えている弟へ目をやった。
「姉、貴……遅くなっ、て……ごめん……」
ぜぇぜぇと荒い呼吸の中、アスベルはそれだけ言った。
取り敢えず、合格点かなと少し偉そうなことを思う。
遅れてきた理由を聞いて彼は答えるだろうか。
聞かない方が優しさのような気もする。
そこには触れないように、けれどマリアだって待たされて笑っていられるほど精神的に大人ではない。
「じゃあ、アスベルのおごりね」
「……今月ヤバいんだけど」
「そんなの知らない。無断で遅れる方が悪い」
「ごめん」
シュンと落ち込んだ弟の様子が可愛かったから、退屈と不安が織り交ぜられた待ち時間はなかったことにした。
事実、無事にここに来てくれただけで心は随分軽くなっているのだから。
「アスベル」
「何だ?」
「フルーツパフェ食べようよ」
「フルーツパフェ?」
季節の果物がたっぷり乗ったそれを想像してみれば、それだけで幸福感に包まれる。
甘いものの力は偉大だと思った。
「行こう、アスベル。早く行かないと夕飯入らなくなる」
「いや、もうやめておいた方が……」
「誰のせいで遅くなったと思ってるの?」
「……うん。食べるか」
弟をおもちゃにした自覚はある。
けれど、アスベルと一緒に食べるフルーツパフェは美味しいに決まっている。
ならば、選ぶべき道は簡単に開いた。
「さっ、早く行こ」
アスベルの腕を掴み、マリアは意気揚々と歩き出した。
フルーツパフェにてランデブー2013/11/23
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