卒業写真
そうじ中の本棚から出てきた一冊の本。ついつい懐かしくなって表紙をひらいてしまう。
もうすぐ私はこの部屋を出る。25年っていう長い時を過ごしたこの部屋。小学校も中学校も、もちろん高校も。
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教室内はにぎやか。式も無事に終了し、あとはもう解散するだけだ。
けど、3年間もいたこの校舎にも、友だちにもさよならというのがイヤなようで。こうして教室に残っておしゃべり中というわけ。私も心残りがあって結局ここに残ってしまった。
同じような話が繰り返される教室を出て裏庭に行くと、案の定そこには誰もいない。春が一歩ずつ近付いているせいか、花壇はちょっとずつ緑が増えている。桜のつぼみもふくらんでいた。
「あ、れ?」
声が聞こえてぱっとふりむくと、同じ式用の花を学生服につけた男子が立っていた。しかも私のよく知った顔。
(たっ、高橋く・・・)
私が3年間見続けてきた人。
「・・・・きみも卒業生?」
「あ、うん・・・・」
「ごめん、よくは・・・知らないんだけど」
「しょうがないよ、うちの学校はクラス多いもん」
むこうが知らないのはあたりまえ。うちの学校は生徒数がとんでもない。一学年10クラスはあたりまえで、この時代に少子化を感じさせない学校だ。もちろんクラスメイト以外はほとんど知らない人ばかり。おそらく3年間で知らない人の数のほうが多いだろう。
「ここで会ったのも何かの縁だし、自己紹介くらいしとく?」
「え、あ・・・・うん。私は宮下真尋・・・」
「俺は高橋彰」
(・・・知ってるけど)
そんなことを頭で考えながらでも内心はバクバク。
心残りは彼のことだった。卒業式といえばやっぱり第2ボタン。朝の段階でもらっている子もいた。私もボタンだけでもって思ったのだが。まさかこんなところで会うとは思わなかった。
でもせっかくのチャンス。きっと神さまがくれたんだ。
「・・・・あのっ!」
「うん?」
にっこりと笑ってうなづく。あ〜それだけでもまぶしすぎる。でもここでやめたらもうチャンスはないから。
「だ、第2ボタン、くれませんかっ!?」
「え・・・・っ」
自分でもよく言えたと思う。あたりまえのように彼はびっくりしているけど。
「・・・・俺ので、よければ・・・・」
そう言いながらまた彼は照れたように笑った。今付いているボタンを丁寧にはずし、はいっと私の手におく。はっきり言ってこんなにあっさりくれると思わなくて、さっきの彼のように少しびっくりしたけど。
うれしくてうれしくて、つい笑った。
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そんなことを今さら思い出した。
卒業アルバムをめくりながら。文集はクラスごとだったけど、アルバムは全クラス共通。卒業したばかりのころはもらったボタンを横に置いて、毎日のようにアルバムを見ていた。いつかそのきもちに区切りがついて、アルバムをめくらなくなった頃、電話がかかってきたんだ。
「真尋〜、高橋くんから電話〜」
「は〜い」
そう、今のように。
私はもうすぐ家を出ます。名字が変わるのです。
「ありがとう、またしばらくお別れだね」
そう言ってアルバムを棚に戻し、電話にむかった。
きっとあのボタンとアルバムにはしばらく会うことはないと思う。それでも二人をつなげたのは間違いなくあの時だから。
卒業写真
(今でも生き続けるあの日の青春)
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歌詞にならって終わった恋を書こうと思ったんですが、いつの間にかハッピーエンドに・・・!
これはこれでいいけどさ;うちの女の子はみんな勇気ありますね。管理人の願望か・・・・?
song by:Yumi Arai
08/3/4 up
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