噎せ返るような白煙の向こうに、
ざあざあと窓に打ちつけられる雨。
肩にかけられたコートにふと顔をあげれば、シャワーから出たクロコダイルがいた。
「そんな薄っぺらい格好でいたら風邪ひくだろうが」
「ん...ありがとう」
バスローブを纏いがしがしと頭を拭くクロコダイルはソファに座り込んだ。手招きされたので隣に座ると、肩を引き寄せられる。
「また変なこと思い出してんじゃねェだろうな」
「なによ、変なことって」
「その葉巻、いつになったらやめんだ」
「そうね....そのうち」
ナマエは吸いかけの葉巻をすうっと吸い、深く白煙を吐き出した。するとクロコダイルは嫌そうに顔を背け、その匂いを消すように自分の葉巻をカットし、火をつけた。
「新世界はどうだ」
「なんだか、高みへ近付いた気分」
「クハハ..!この程度で高みたァ、まだまだだな」
「見てよ、また懸賞金だってあがったのよ」
「生意気に、ルーキーの仲間入りか」
ぴらりと見せる手配書には、葉巻をふかすナマエの横顔。
「これいいアングルよね。
部屋に飾る?」
「めでてェ頭だ」
着替えてくる。そういって立ち上がったクロコダイルを見届け、また手配書に目を落とす。
私も、大人になったわ。
もう夢見るだけの少女じゃない。
手配書を置き、ざあざあとうるさい窓際に立ち黒く交わった空と海を眺める。
スモーカー、
あれからもう六年経ったのね。
私は今年で25歳、
あの頃のあなたよりはまだ若いこど、私も随分大人になったの。
あなたは知っているだろうけど、懸賞金もあがって、立派にルーキーの仲間入りもしたわ。
年を重ねるたび上がっていく懸賞金に、あなたは怒ってるかしら?
それとも、呆れたように笑う?
きっとあなたも、強くなってるんでしょうね。
私は、結局クロコダイルの女になってしまったけど、あなたの事、忘れたことはないわ。
彼には内緒だけど、
あなたの優しさ、指先の温度、たくましい胸、心地いい声。
なにもかも、鮮明に思い出すわ。
クロコダイルも見かけによらず紳士的で優しいし、愛してるわ。
でもね、やっぱりあなたには敵わない。
たったひと月も過ごさず、あなたとは別れてしまったけど
あの時が、1番幸せだったの。
ねえスモーカー、
もしいつかどこかで出会ったら、
嘘でもいいから、会いたかったと抱き締めて。
嘘でもいいから、またあの時みたいに好きだと言って。
おかしいでしょ?
海軍のあなたが、そんなことするはずもないのに、貴方のぬくもりを心で感じるの。
胸いっぱいに貴方の香りを吸い込む。
ふう、っと深く吐き出せば、この暗い暗い海の向こうに、あなたの背中を見た気がした。
噎せ返るような白煙の向こうに、
ただ目を瞑っては思い出すだけ
end.
mae tugi
booktop