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馬鹿みたいだが、十も年下のガキに心を奪われた。


若くして両親を亡くし、一人酒場を切り盛りする美しい女だ。





長いブロンドの髪に深い碧の瞳。
確かに目を引く美しい容姿、正直最初はそれに惹かれた。


だが話すにつれ、彼女を知るにつれ段々とその中身に惹かれて行った。

辛い境遇にも関わらず、強く、逞しい女にすっかり入れ込んでいた。


大人びてはいるがまだ少女といっても過言ではない。
所々見せる弱さや子供っぽさ。
挙句の果てには海賊になりたいなどと言い出す始末。


そんな細っちい身体で、海に出たらすぐに下卑た男どもに捕らえられて終わりだろう。







目の前ですやすや眠るナマエの頬を撫でる。






女に 好きだ なんて言ったのは初めてだ。今迄まともに恋愛なんてしたことない。

良くも悪くもナマエは今迄とは違う女で、情けないことに振り回されている自覚がある。






さらりとした髪をなでれば、
くぐもった声を出して気持ちよさそうに微笑んだ。


その寝顔を見ていると、次第に自分の視界も霞んでくる。






なあ、ナマエ、
海賊になんかならなくても
おれがお前に海に連れて行ってやる。
この広い世界を、隅から隅まで見せてやる。
お前はもう、一人じゃねェんだ。


おれは、お前を...













はっと目が覚める。
窓から見える雨空はもうすぐ朝日が昇るというところか。ざあざあと雨が窓に打ちつけられている。
柄にもなく爆睡してしまったようで、スモーカーは頭をかく。
ふと隣を見ればナマエはいない。


便所でも行ってるのか、と再びベッドに背中を預けるが、何か違和感を覚え起き上がる。







物が減っている。


オフィーリアの写真や花瓶がおいてあったはずのテーブルの上にはなにもない。
クローゼットからは服が乱雑に出され、カバンや色々な物が明らかに減っていた。





まさか、





そう思い電々虫を取ると同時に、腑抜けた声で電々虫が鳴いた。



「なんだ...!」




「スモーカー軍曹!東の港にクロコダイルと傘下の仲間達が...!!」




「だから、なんだ」




海賊には違いないが、あいつは七武海。海軍は手出し出来ない相手だ。



「ですが!!軍曹がよく行ってたバーの、ナマエさんが!攫われてるんです!」




「なんだと...?」






受話器を乱暴に置き、急いで着替えバーを飛び出す。
ざあざあと降り注ぐ雨が衣服を濡らす。






「あのガキ....!」






行く必要はねェ、
自ら悪党に成り下がる必要なんかねェんだ、
お前の望む世界なら、おれが..









東の港に着けば、海軍に囲まれたナマエとクロコダイルが立っていた。
その背後には出向準備ができたのであろう船が海賊旗をはためかせている。






「ナマエ....!」





部下たちを押し退け、1番前に踊り出れば、スモーカーを捉えたナマエの瞳が揺れた。






「ごめんなさい、スモーカー...」





「行くな..!
世界が見てェなら、海に出てェならおれが叶えてやる...!」




「...スモーカー、」




「お前が海賊になるなら、おれ達は敵同士だ....わかってんだろうが..!」




「わかってる....

わかってるわ、でも!」





「でもじゃねェ!
お前みてェな弱っちい女が海賊になったって、すぐ死ぬのがオチだぞ!」




「...そんなこと、ないわ」




「馬鹿なことはやめろ。
......来い」




スモーカーはナマエに向かって手を伸ばした。
周りの海兵たちはわけがわからないまま二人のやりとりを見つめ、ナマエの後ろにいるクロコダイルは船に向かって出航するよう合図した。








「.....ナマエ」




「...ごめんなさい、スモーカー」





涙を浮かべ、そう笑うナマエに、スモーカーの掌は空気を掴んだ。






「そうか......なら、しょうがねェ...




お前ら!!上の命令だ!
七武海クロコダイル及び海賊、ナマエを確保しろ!!」





スモーカーがそう怒鳴れば、海兵たちはきれのいい返事をして、ピストルを構え二人に向けた。





「力ずくで、お前を引き止める...

ホワイト アウト...!」




スモーカーは煙になり、勢いよくナマエに近づく。
砂になるクロコダイルははなから捕まえる気などない。
ナマエに向かって手を伸ばすが、それはまた宙を掴むことになった。






「?!」





何故だ....!?
ナマエは確実に今腕の中に...
ぶわりと吹いた突風に目を瞑る。

目を開いた先には、降り注ぐ雨に抗い空を舞う、ナマエ。








「お前.....!
まさか...」





「ええ、今朝、カゼカゼの実を食べたの」




ナマエがゆっくり手を振れば。ぶわっと雨の混じった風が吹き辺りが砂ぼこりで覆われる。





「っ...!」




煙と風。
完全に上下関係にある能力だった。

仕方なくスモーカーは十手を構える。



クロコダイルは二人を見届けることはせず、さらさらと砂になり出航して少し離れた船に移動した。恐らくこれ以上雨に濡れると能力が使えなくなるのだろう。







「スモーカー軍曹!クロコダイルが...!」





「っもういい!お前らは下がってろ!」





スモーカーは部下たちを下がらせ、葉巻に火をつけナマエの元に歩み寄る。




カツン、カツン、





やけに長く感じるその距離に、スモーカーは深く白煙を吐き出した。





その香りがナマエの鼻腔を擽る。
ナマエは地上へと降り、目の前に来たスモーカーを見つめた。







「スモーカー....」





「...救いようのねェ馬鹿だ、お前は」




「ふふ....自分でもそう思うわ」






「お前なんかが、海賊なんかに「なれるわ」」




「....」




「私、強くなるから。
次会った時、一発であなたを倒しちゃうくらいに、強くなる」




「フン、お前なんかにやられてたまるか」






ふたりの会話は、離れている海兵たちには聞こえない。
なんだなんだと耳をすませるが、ざあざあと打ちつけられる雨の音でかき消される。








「あの言葉は、どうなるんだよ」




「あの言葉...?」




「おれを好きだと言っただろうが」



「ええ...好きよ。
今迄ない程に、あなたが恋しい」



「じゃあ、何故...」



「私は....
私は、自分に素直に生きたいの」



「....っ」



「あなたのこと、大好きよ。
でもね、やっぱり私海へ出たい。
母さんと父さんのように、この広い海で、自由に生きてみたいの....!」




「...」




「だから、さようなら。
あなたが好き.....いえ、愛していたわ」



こんな身勝手な私を、どうか許して。


ナマエはそう言うと、ふわりとスモーカーに近づき、その唇を重ねた。





うおおおおおお?!!と後ろから歓声が上がるが、ナマエは首に手を回し何度も優しく口付けた。

スモーカーも腰に手を回したりはしないが、そのキスを拒みはせず、受け止めた。






「さようなら、スモーカー。
もし次会ったら、私たちは敵同士ね」




ナマエは笑い、ふわりと風になりスモーカーを通り抜け空へと姿を消した。







「..不良娘が....!.」







_愛してるわ_





通り抜け際に囁かれた、ナマエの声。
それはあまりにも切なくて、消えてしまいそうなほどに小さく、優しかった。





「バカヤロウ...」






スモーカーはナマエが消えた黒い空を見つめる。
とうに出航した船はもう豆粒のようになっていて、雨で霞み人影を捉えることはできなかった。







「す、スモーカー軍曹...?」





「......帰るぞ」




やってられん、とばかりに渡されたタオルで頭をガシガシ拭きながら、踵を返した。



愛してる、小さく呟いた言葉は
きっと、彼女の耳には届かなかっただろう。














「よかったのかよ、煙小僧は」




「ええ.....これでいいの」




「クハハ......お前は本当にオフィーリアの生き写しだな」



「光栄よ。
でもね、私は母さんを越えるわ」





大切なものを手放したの。
ワンピースのひとつやふたつ、手にいれないと割に合わないわ。



ナマエがそう言うとクロコダイルは楽しそうに笑った。











スモーカー、
私、頑張るから。




私を光の中に連れ出してくれたあなたに、感謝してるわ。





いつかまた会えた時、
もうあなたは私を敵としか見てなかったとしても
私の中で、あなたはいつまでも特別な存在だから。





いつか来るかもしれないその時まで
頭の隅でいい。
思い出さなくてもいい。
どうか、
どうか私を覚えていてね。








ぽろぽろと雨ではない水筋が頬を伝う、
溢れ出す涙を止めることはしない。
ただここから、最後まであなたを見つめていたいの。









そして遠ざかっていくあなたの背中
震える唇から紡がれた、愛の言葉






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mae tugi

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