Can't Stop Messin'
「何回かお手伝いで来てるけどさー…この人数は多すぎるでしょ!」

練習するためにグラウンドに出てきた人数の多さに思わずツッコミを入れるなまえ。いつの間にかユニフォームに着替えた赤羽がなまえの隣に立っていた。

「フー…まあ200人は余裕で超えているだろうね」
「小さいハコだと余裕で埋まる人数だわ、ハハハ。」

ちなみに、ライブハウスなどコンサート会場のことだ。なまえはそんな赤羽の言葉をさらりと流すように乾いた笑いをする。

「テメーの脳ミソはそれしかねえのか糞メタラー」

呆れたようにヒル魔が言った。そう、それはまるで哀れなものに対して言うような言い方で。

「別にいいじゃん」

最初は怖い印象で酷いこと思っちゃってたけど、ヒル魔とはなんだかんだで少し打ち解けてきたと思う。それと、味方にするといい人だと思う。…多分。


「そういえばヒル魔って激しいリズムの洋楽だったらなんでも聴くの?」

なまえはヒル魔にこっそり訊ねた。彼の主食は洋楽のしかもロック系と知って、なまえと赤羽はヘヴィメタルを勧めようとしているのだ。

「まあそうだな。スクリームは好きじゃねえが」
「なるほど、デスメタルは好まない、と」
「じゃあメロディーが綺麗なのは?」
「嫌いじゃねえ」
「メロディックなのはいけます、と」

置換された言葉の意味するところはよく分からないが、そのうち勝手に都合のいいように解釈されそうで怖い。ヒル魔は心の中でそう思った。

「くだらねえこと聞いてねえでとっとと準備しやがれこの糞メタラー!」
「何よ途中までノリノリだったくせに!」

ガガガガと発砲するヒル魔から逃げながらなまえは叫んだ。





その後、まもりがプレーブックの確認でヒル魔と話している間、なまえが一人で用具を出したりして準備をしていた。そんな中、遠くから一人の男子がなまえを見つける。

「阿含さん、ちょっと見て下さいよ!あの子、鬼美人じゃないっスか!?」
「あ”〜?どれだよ?」

高校が男子校だったため、かわいい女子を見る度に反応しまくりな一休に少し呆れつつも阿含は彼を見る。

「ほら、今用具出してる子っスよ」

一休が指さしている先を見ると、確かにスレンダーな美人がいる。

「……まあ悪くねえな」

阿含はククッと笑ってそう言うと、ゆっくりとなまえのいる方へと近づいていった。



「こんにちは」

ニコッと爽やかな笑顔で好青年を演じて阿含は彼女を見つめる。

「…?こんにちは。えーと、失礼ですがあなたは?」

すごい、ドレッドだ…!これもうちょっと長さ伸ばしたらSHADOWS FALL(※なんかすごいドレッドの人がいるメタルバンド。通称ドレッドメタル)のヴォーカルみたいだな…!この人もしかしてメタラーかな…。なまえはドレッドをまじまじと見ながら感心している。


「金剛阿含。阿含でいいよ。君の名前は?」
「みょうじなまえです。」

わくわくしながら音楽の話題に触れられたら良いなあなんてなまえは思いながら軽く自己紹介をした。

「なまえちゃんかー。素敵な名前だね」

しかし、いきなり下の名前で呼ばれてなまえは身を硬くする。おお、なんだこの馴れ馴れしい人……。距離感が近過ぎて正直、違和感しかない。

「はあ…どうもありがとうございます」
「敬語なんていいよ、俺1年生だから。君はマネージャーとして入ったの?」

自分と距離感の違う人を前にして、しかも慣れない接し方にたじろぐなまえにどんどん攻めていく阿含。

「同回生なのね。それと、私はマネージャーじゃなくてマネージャーの補佐で手伝いで来てるの」
「へー、そっかー手伝いで来てくれてるんだ。こんな美人な子に来てもらえるなんてうれしいよ。」

初対面でこんなに褒めてくるなんて、何か裏がありそうで怖いな…。しかもこの笑顔もなんだか嘘くさくて苦手だ。しかし彼の次の言葉でなまえの阿含への印象は変わる。

「ところでさ、この後時間ある?君と仲良くなりたいな」

にこにこしながら阿含はなまえを誘い出そうとする。

「私、と…?」

なまえの表情が輝く。なぜなら、今まで彼女の外見が怖くて誰もそんなことを言ってこなかったからだ。奇抜なバンドTシャツ、キツめに見えるアイメイク、染色した長い髪…これらを見るだけでみんなが私を遠巻きにする。だから少しうれしかったのだ。

「う…「フー…阿含氏、勝手に僕の所有物に手を出さないで頂きたいな」」

なまえがうれしくて頷こうとした丁度その時、赤羽がやってきた。邪魔が入り、阿含の機嫌がちょっぴり悪くなる。
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