Feels Like Love
「赤羽ー、今度のAMARANTHEの新譜買う?」
必修科目で赤羽と会った時になまえは彼に尋ねた。今日も彼はギターを抱えている。…というか彼がギターケースを背負っているのは毎日な気がする。セッションない日にも持って来てるけどいちいち持ってくるのに重くないのだろうか。
「フー…なまえ、悪いが僕はメタル系はあまり聴かないんだ、特にデスメタルの音楽性は理解出来ない」
サングラスを押し上げながら自然な動作で赤羽は彼女の隣に座った。余談だが赤羽は
喋らない方がいいタイプなので、口を開くとみんなが遠ざかっていき、そして彼に入学初日から絡まれた私も見た目からお仲間扱いされ(変態という意味では断じてお仲間ではない!)私もぼっち勢になった。お互い誰も頼る人がいなくなったので仕方なく必修科目の授業は行動を共にしている。
「いや、この前1st貸したらデスメタルだけどデス成分はそんなに多くないしメロディーは綺麗で好きって言ってたからどうなのかなーって思って」
そう、どちらかと言えば彼はHR/HMの中でもハードロックよりの音楽が好きなのだ。どっちも同じじゃんって言われるけど、ハードロックもメタルも同じようで少し違うのだ。
「……それにしても、AMARANTHEの新譜出たのは先月のことだったと思うが」
「
興味ないわりに結構詳しいわね」
「この前は本屋に行ったついでに立ち読みしたからね」
そんなドヤ顔で言われても。どうでもいいけど、ドヤ顔って聖書で禁止されてなかった?
「じゃあさ、今月は何か買う予定あるの?」
「FAIR WARNINGの新譜を買うかどうか迷っている」
FAIR WARNING、とバンド名を口に出してみて、なまえのことが好きだと気づいたきっかけを赤羽は思い出した。確か入学して2か月くらい経った頃だったと思う。
そう、あの時もFAIR WARNINGの新譜を買おうか迷っていた。僕が迷っていることを伝えたら、彼女はこう言ったのだ。
「ああ、あれメロディー綺麗だから赤羽好きそうって思ってた」
「君はどう思う?雑誌での評価があまり高くなかったんだけど買うべきかな」
「……わ、買ってるし。懐かしい、私ツイッター派になってから読んでないな」
そう言って赤羽は雑誌を開きながらALBUM REVIEWと書かれたページを彼女に見せた。確かにこのバンドにしてはあまり点数が高くない。どうしたのだろうか。雑誌のコメントをざっと斜め読みしながらなまえは言う。
「確かに僕も滅多なことが無い限り買ったりしない。今回は気が向いたから、ただそれだけだよ」
「そうなんだ。…まあ、雑誌の点数なんて当てになんないわよ。人それぞれ好みあるし」
「音楽性は人それぞれだしね」
「まだ発売されてないからネットでも他の人のレビューないだろうし買いかどうかはまだ判断出来ないわ」
「君はいつも他の人のレビュー待ちなのかい?」
「うん。あとはようつべで聴いたりねー。それから自分で判断して買う」
……それは買うのが遅れる訳だ、と赤羽は彼女の言葉に納得した。
「なら…発売日にタワレコ行くのに付き合ってくれないか?」
君の意見が聞きたい、と独特の甘い瞳で見つめて机の上に置かれたなまえの手をそっと握る。それも恋人にするような感じで超自然な動作で。
「っ…い、いきなり何すんのよ変態!しかも勝手に手を握るな!」
ナチュラルな動作でそれをなまえに対してやってのけた赤羽だが、彼とは恋人でもなんでもないんだが。なのに彼はその壁をいとも簡単に飛び越え…いや、
むしろ踏みつぶす勢いでこちらにやってくるのだ。「早く離せ変態!」
「君がYESというまでこの手を離さないよ」
意味が分からないよ!なんだコイツ、ヤンデレか!というか、もうすぐ授業が始まるってのにそれはまずい、困る。先生の前でそれを実行し続けるつもりなのだろうか、恥をかくのは赤羽も同じはずだ。だけど
赤羽ならやりかねない。有言実行だもの。……となまえは思った。
「あーもう分かった!分かったから!とりあえず離せー!」
そう言って彼女がベリッと彼を剥がそうとすると、ほんのちょっと残念そうな顔をして奴は離れる。なんか最近、変態のペースに巻き込まれている気がする……なんて思いながら授業開始のチャイムを聞いてなまえはルーズリーフを出した。
そして新譜発売から数日、僕の部活のない日となまえのバイトやセッションがない日がちょうど重なった日に2人でタワレコを訪れていた。
「おおお、メタルコーナーできてる!」
数ヶ月前までなかったのに、となまえははしゃぐ。ジャンルの棚が出来ている―――特にメタルのようなマイナーと言われるジャンルにおいては、そういうことはとても大きなことなのだ。
「最近はデスメタルとかメロスピが人気でメタルが盛り上がってるようだ」
「喜ばしいことよね、おかげでハードロックバンドの取り扱いも増えたし」
どちらも赤羽の好きなジャンルではないからだろうか。
そう思ったなまえは明るいニュースを彼に伝えた。
「そうだね。…ああ、これだ」
赤羽は新譜コーナーでヘッドホンを優雅な動作で手に取り、お目当てのバンドの新譜を試聴し始める。なまえも隣に並んでヘッドホンをつけて彼と同じように同じ新譜を聴き始めた。
聴き終わったのはほぼ同時だった。ヘッドホンを外しながらなまえは赤羽に訊ねる。
「どうだった?」
「1つ1つの曲がなかなか興味のある構成だったね。初めてギターを手にしてストリングの鼓動を感じた時のようだよ」
「最後のよく分かんないんだけど。…私はこれいいと思うけどなー」
要は感動したってことかしら、と思いながらなまえはとりあえず脳内の欲しいものリストにこのアルバムを追加した。赤羽は先程試聴したアルバムを手に取る。
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