Kickstart My Heart
最京大学に入学早々、オリエンテーションがあった。

なまえが自分が専攻している学科の指定された教室に行くと、奇抜な髪の色――それは燃えるような赤い色をした、見知った髪の人を見つけた。チラリと見えた横顔に意識を集中させて確認すれば、それは間違いなく自分の知っている人であった。同じ高校出身の人だ。

まさかこの人も同じ大学に来ていたとは……。

しかし、高校時代、彼は変人で有名であったしそれを身をもって体験していたのでなまえは声をかけなかった。そしてそうすることはおろか、気づいていないフリをして近くの端っこの席に着いた。まだオリエンテーションが始まるまで時間がある。教室の雑音が邪魔だし、特にすることもないから音楽でも聴こう。そう思ってなまえがiP○dを装着しようとしたその時、上から声が降ってきた。



「みょうじさん…だね?」

気づかないフリをしていたというのに何故向こうはこちらに気づいたのだろう。

「……げ。…赤羽」
「その反応は酷いな。…その奇抜なデザインのTシャツですぐに分かったよ」

なまえはあからさまな態度を取ったのに対して、穏やかに笑ってみせる赤羽隼人。

「奇抜って言わないで!これはバンドTシャツよ!それとこれはメタラーの正装よ!」
<メタラー豆知識:メタラー全員がそうありませんが普段からバンドTシャツを着ている人もいます。そして結構奇抜なデザインの場合が多いです>
「フー、君は相変わらず面白いことを言うね」

なまえの反応等気にせずに、自然な動作で彼女の隣に座る赤羽。そんな彼の横にはギターケース。相変わらずだ。

「あんたの方がよっぽど変わってるわよ!というか勝手に隣座らないでよ」
「席は自由だよ。それにしても奇遇だね、みょうじさんもまさかこの大学でしかも同じ学科だとは思わなかったよ」
「話を聞けー!!」

ペラペラと話だす赤羽になまえはイヤホンをギリリと握った。


「……みょうじさんはどうしてこの大学に来たんだい?」
「音楽心理学がやりたくて…ここの先生、その分野で有名だから」

筆記用具を出してオリエンテーションが始まるのを待っていると隣からまた話しかけられる。

「そうか、それはすごいな。ちゃんと目標を持っているところ、素敵だと思う」

赤羽はそう言ってやわらかく微笑んだ。その微笑みが無性に格好良く思えて、不覚にも思わず見とれてしまった。

「フー、見とれてたかい?」

この台詞がなければこのまま見とれていたと肯定したかったのに。この男はなぜ少し残念なのだろう。

「見とれてない!それより赤羽の方こそどうして最京大に来たの?」
「アメフトをやりたかったからだよ」
「そっか、ここアメフト強いもんね」

彼は高校でもアメフト部に入っていて(そして私も時々お手伝いでアメフト部に行っていて)、その時に彼はかなり活躍していたというのを聞いたことがある。

「学科をここにしたのは僕も心理学に興味があってね」

そう言って赤羽は薄く笑った。


「…それにしても、学科まで同じとはね。やはり君とは音楽性が合うよ」
「音楽性って…性格、みたいなニュアンスで捉えたらいいのかな。具体的にどの部分が合うの?」

しかも"やはり"ってどういうことなの…?なんか嫌な予感がするわー。

「趣味や興味、音楽に対する熱意とか…色々。君は俺の心をキックスタートしたんだ」
「いや、意味分かんないから」

何を聞かれるのかと思い、思わずドキリと身構えてしまったじゃないか。この緊張感を利子付きで返せこの野郎。

「あと、君を見てると、君といるととてもハイになって…気分が良くなる」
「ああそう。それはどうも」

意味の分からないことを言い出したのでなまえはさらりと流す。キックスタートと言われるとMÖTLEY CRÜEというバンドの曲でそういうのあったよね、と違う方向へ意識を向けた。

今すぐにでもコイツでこの感動を奏でたいよ
「ここでやるのはさけてほしいわね。私まで変人扱いされるのはごめんよ」

ギターをケースから出して赤羽がなんか暴走し始めたので思わず反応してツッコミを入れてしまった。

「2人きりじゃないと嫌かい?みょうじさんは恥ずかしがりやだね」
そうとは言ってない

何をどう取り違えたらそういう解釈になるんだとなまえは思った。



「…そういえば君は確かハードロックが好きだと言っていたね」

華麗な話題転換だな。言ったっけ?となまえが言うと、高校の時から君を見ていたから知っていると赤羽は答えた。知り合いに言われてなまえは答えを少し濁したが、やはり正直に言うことにした。

「まあ…そうね、好きよ。ハードロックとかヘヴィメタルとか…ちょっとうるさい感じのが好き」
「そう、激しいのが好きだろう?」
誤解を招くような発言はやめてくれる!?
「フー、僕も一昨年あたりからハードロックに目覚めてね」
「嘘!!?」

トレードマークであるサングラスを指で少し上に押し上げて赤羽は言う。一見ビジュアル系みたいに見えるそんな彼もお仲間であるという衝撃の事実になまえはガタンと音を立てて思わず席を立ってしまった。

「本当だよ。…だから君という同胞に会えてうれしいよなまえ」

そう言ってかすかに微笑んだ赤羽の顔がとても格好良く見えた。
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