Restless Kind
部室の扉を開けると、そこは異世界でした。



「なにこの花…!?」
「なんかすごい数の花が届いてる…!?」

関東大会もいよいよ大詰め。比奈となまえが揃って部室へ行くと、大量の花が置かれていた。2人とも驚いて思わず部室の中を2度見してしまったほどだ。これらをどうしたらいいのかとなまえはオロオロし、比奈もうーんと頭を抱える。

「とりあえず監督に聞きに行ってくるのがいいかもしれないわね。私、行ってくる。」

この大量の花を目の前にして2人で話し合った結果、比奈は監督の方へと向かった。そしてなまえはなんかすごいことになってるな…と思いながら、とりあえず部室に入るのに邪魔な場所、つまり入り口付近に置いてある花をどける作業を始める。1束ずつ丁寧に手で脇に避けて行って通り道を作っていると、後ろから声がかかった。



「うわ…何これ、どうしたの?」

キッドと鉄馬も異常な事態に思わず呆然と立ち尽くす。しゃがんで花束や鉢植えの花を端に避けていたなまえも立ち上がってキッドと鉄馬の横に立った。

「私も分からないわ…。まさかキッドの正体がお父様にバレたとか…?」
「縁起でもないこと言わないでよ。」

本当に嫌そうな顔をしてキッドは言う。鉄馬も少しぴくっとほんの少しだけ反応する。やはりまだふっきれてないようだ。そんな彼らの後ろから宅配便のお兄さんが声をかけた。

「これで全部です。ハンコをお願いしまーす。」
「あ、はい…、少々お待ち下さいね。」

振り返って返事をしてなまえは部の判子をとりに、上手く花を避けながら部室の奥へと入って行った。そして判子を手にして戻ってきた丁度その時、電話が鳴った。電話を優先するか迷っていた彼女にキッドはすかさず言う。

「俺が取るからなまえは判子押してきて。」
「ありがとう。お願いね。」

なまえはそう言って電話対応はキッドに任せ、受取票に判子を押した。その際に受取票に書かれてある送り主の欄を見た。


「白秋高校、円子令司……。」

宅配便のお兄さんが帰った後、なまえは送り主の名を呟く。その呟きに対して隣にいた鉄馬が訊ねた。

「今度の試合の対戦相手だな。この花の送り主か?」
「うん…。一体どういうつもりなのかしら……。」

自分の心配が杞憂に終われば良いのだけれど……。不安げに伝票を見つめながらなまえが言ったその時、ザリ、と砂を踏む音が後ろで聞こえた。音に気づいて2人が振り向くと、キッドが電話を終えて部室を出たところだった。

「キッド、終わったのか?」
「ああ、うん。」

鉄馬が声をかける。それに対し、テンガロンハットを片手で押さえながらキッドは答えた。

「電話ありがとう。何だった?」
「白秋ダイナソーズのマネージャーさんからだったよ。エースは誰ですか?って聞かれたから陸だって言っておいた。」
「またあなたは…。相変わらずね。」

キッドは顔をあげて答える。彼の答えに彼女は少し呆れたように言った。

「それで、そのマネージャーさんが放課後に話があるとかで陸が呼び出されたから、陸はちょっと練習に遅れると思う。」
「分かったわ。じゃあ陸くんが戻るまでミーティングと基礎練ね。」

正確にはエースに話があるから呼び出されたんだけど、と心の中でキッドは呟く。エースに話があるのね、となまえは勿論気づいた。ただその白秋のマネージャーが目的が何なのかは分からないが。



それから監督に事実確認をして戻って来た比奈が、この大量の花の送り主とこれらの花の処理をの指示や、ミーティングは視聴覚室で行うことを伝える。そして比奈がちゃっかり選手のキッドや鉄馬、そして後から来た他の部員も巻き込んで皆で片付けることとなった。

「ふう…ようやく終わった…。」
「本当すごい量だったねえ。」
「そうね。お疲れ様、手伝ってくれてありがとう。…あ、何か飲み物出してくるね。」

なまえは実に細かい所まで気配りができる…そういうところも好きなのだろうなとキッドはぼんやりと思った。何か飲み物を持って来てそれを配り終えると、なまえは壁にかかっているホワイトボードの連絡欄のところに"今日のミーティングは視聴覚室で行います。"と連絡事項を書いている。

つかの間の休憩が終わると、片付けを行っていた人で一緒にぞろぞろと視聴覚室へと向かった。しかし彼女はそれにはついて行かず、奥へと引っ込んだ。

「なまえ、行かないの?」

比奈が奥へと引っ込んだなまえに背中から声をかける。

「先に行ってて、資料を集めて持っていくから。」

彼女は白秋の選手のデータと白秋の試合の様子がおさめられたDVDを探していた。整理されているので資料はすぐに見つかった。けれどもなまえはその場を中々動くことが出来ないでる。なぜなら、今の自分の感情を落ち着けるために、少しの間でも1人でいたいと感じたからだ。もし峨王くんにキッドや鉄馬くんや他のみんなが怪我をさせられたら……と考えるとなまえの気持ちは落ち着かないのだ。


涙が出そうになるのを堪えてガンマンズが負ける訳がないと思い直し、今回ミーティングで使う資料を全て揃えて量出に抱えて部室を出る。すると出口を出たところでなまえは誰かにぶつかる。

「わっ……ってあれ、鉄馬くんどうしたの?忘れ物?」

訊ねると、鉄馬は首を左右に振った。鉄馬はなまえの様子が気になって彼女が出てくるまで待っていたのだった。

「なまえ、不安なのか?」
「…うん。正直に言うとね、鉄馬くんたちが怪我させられたら…って思うと怖いの。」

なまえの瞳に涙が浮かんでくる。

「大丈夫だ、必ず勝つ。白秋にも泥門にも。」
「うん。…そうね、特に泥門にはリベンジしたいもんね。」

そういうと鉄馬はコクリと黙って力強く頷いた。もうお互いの考えていることはすっかり分かっている。だからこそ鉄馬の言葉になまえは少し安心させられた。部室の裏でこっそりその話を聴いていたキッドはじっと青い空を見つめる。

鉄馬となまえが一緒なら、また勝利を目指せるかもしれない。
彼らの望む道に行かせてやりたい―――心からそう感じた。




視聴覚室へ行くと、部員は揃っていて監督はプロジェクターの準備をしている。資料を全て机の上に置いてDVDを手渡し、なまえはキッドの隣の席に座った。それからキャプテンの声でミーティングは始められた。不安で震えるなまえの手を机の下でキッドは優しく握る。ミーティングの結果、峨王は2人掛かりで前衛でなんとか止めるしかないという結論になった。

そして向こうになるべく攻撃権を渡さないようにキッドのショートパスでファーストダウンを狙い、白秋以上に点を取る、ということが先決となった。ミーティングを終えるとウォームアップと基礎練をしてから試合形式で練習を行う。試合形式の練習を行う直前に陸は戻って来た。いつもと少し様子が違う。

「おかえり、陸くん。向こうの用は何だったの?」
「試合を途中で棄権して欲しい、という話でした。…でも棄権なんて絶対しません。白秋には必ず勝って泥門と決勝で戦うんですから。」

誓うように強くそう言って陸くんはフィールドに入って行った。
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