I'll Cry For You
彼らが去った後、なまえはすぐに陸に向かって走っていった。キッドも彼女の後を足早に追いかける。
「陸くん!」
「なまえさん…!キッドさんも…!」
「何もされなくて本当に良かった…!もう、無茶するんだから……。」
駆け寄ってきたなまえは泣きそうな表情で陸に向かって言った。とにかく彼が無事で安心したのだ。キッドは自分の被っていたテンガロンハットを脱ぐと、彼の頭にそれを被せる。

「本当、ヒヤヒヤしたよ。…まぁ、良くやったよ…。」
そして去っていく峨王と円子の後ろ姿を見つめながらキッドは言った。
「峨王くんは愚鈍な野獣っていう訳じゃないわね。」
「うん。なんともね…クールだったよ最後まで彼。…あれはさ、自分の怪力を制御で気じゃないんじゃなくて―。」
なまえの言葉に同意しながらキッドは陸の頭からテンガロンハットを脱がせると再び手に取って自分の頭に戻す。

「制御する気がないんだ。ああいうのが一番ね…厄介だな…。」
さて、どうするか……。勝利を望む鉄馬たちのためにはどんな手段が残されてるかねぇ…。無意識に勝利への闘志を燃やしているキッドはテンガロンハットを手で押さえながら呟いた。



ガンマンズのメンバーはユニフォームに着替えてベンチの辺りに集合すると、試合前の最後のミーティングが行われる。
「気をつけて欲しいのは狼谷くんのブリッツね。…彼の40ヤード走のタイムは陸くんよりほんの少し遅いくらいだから。」
「まあ慣れてるしねぇ、心配ないよ。」
そう言ってキッドは陸を見て笑った。陸もそれに答えるように頷く。
「そうね。…私は勝つって信じてるわ。」
そのうちにアナウンスが流れてきたのでなまえが微笑んでそう言うと、キッドも微笑んでベンチから立ち上がってコートの中へと入っていった。
「おう、任せとけ!絶対勝つぞ。」
他のメンバー達も彼女の笑顔に答えながらコートへと入っていった。


試合結果は西部が岬を圧倒してた。「瞬殺―――!!」という声が場内のあらゆる場所から聞こえる。そしてガンマンズの圧勝を告げるアナウンスが青い空に高らかに響き、チアの応援やエアガンの音が響き渡った。なまえは選手達にドリンクとタオルを配りながら労いの言葉をかける。

歓喜に沸きながらも選手達はそれぞれクールダウンを済ませた後、控え室に向かった。控え室で、更衣をしながら興奮冷めやらぬ選手達ははしゃぐ。その様子を苦笑しながら遠巻きにみるキッド。そんな中、なまえは戻ってくるなり騒がしい部屋でも聞こえるように少し大きめの声で言った。

「雷が近づいてきてて、ヘルメットに落雷の可能性があるから王城戦はナイターに延期になったそうです。」
マネージャーの知らせにメンバー一同は少し驚き、今後の指示を待つ。
「監督からの伝言は、多少時間があるのでゆっくり過ごしても構わないとのことです。」
にこりと笑ってなまえは監督の言葉を伝えると選手達はまた歓喜に沸いた。
それは事実上、控え室での打ち上げが許可されたも同然だからだ。


楽しそうに見つめながら彼女は今度は陸のもとに行った。
「陸くんがこの前練習してたロデオドライブ、仕上がってたわね。」
「はい、もうバッチリですよ!セナに遅れを取る訳には行かないんで。」
「そうね、そのためには次も勝たないとね!」
強気で笑った後輩の顔になまえも微笑む。その様子を見つめていたキッドは、ふとドアの方に視線を動かすと見知った姿がチラリと見えた。まだ誰も気づいてないのを知ってキッドは少しため息をつくと入り口まで歩いていった。

「甲斐谷陸はいるか?」
キッドが近づくと、相手は用件のみを簡潔に言った。
「………。いるよ、奥に。」
何のつもりかは分からないけれど……彼相手なら変な探りを入れるのは無用だろう。
そう思ったキッドは親指で彼の居る部屋の奥を指しながらそう言って相手に示した。
「陸、お客さんだ。」
キッドは振り向いて部屋に居る陸に向かって来客があることを伝える。近くにいたなまえもそちらの方を見ると、突然の意外な来客に彼女と陸は目を丸くした。

陸は大急ぎで着替えると、進とともに部屋を後にする。そんな彼の背中を見つめながらなまえは呟いた。
「何の用事かしら…?」
「さあ。でも進氏に詮索は無用じゃないかな。」
大丈夫だよ、とキッドは彼女に向かって安心させるように優しい声音で言った。




予想通り、王城は茶土に圧勝した。試合を観戦してて分かったのは進のタックルが強烈なものに変わった事だった。多分、陸が呼ばれていったのと関係しているのだろう。でもなまえにとっては、そのことよりも白秋との試合がずっと気がかりであった。作戦を練るために学校の資料室で資料を集めている時に、なまえは不安そうにぽつりと呟いた。

「……次は、白秋ね。」
「そうだね。」
キッドは白秋に勝つために何とか戦略を練れないか…と思いながら戦術の書かれてある分厚い本をめくりながら答える。彼の視線は本に落とされていた。

「勝ち進めば、泥門との試合が待ってるわ。でも……。」
そう言いかけて棚から資料をとったなまえはキッドの傍に寄る。
「うちじゃ勝ち目がないって?」
「いいえ、そうは思っていないわ。」
ぴたりとなまえは歩みを止め、ぎゅっと資料を抱きかかえた。キッドもそれに従ってページを繰る手を止める。

「……峨王くんは必ず貴方を狙いにくるわ。だから…不安なのよ。」
きっと紫苑が狙ってくる。もし彼が大怪我を負ってしまったら、貴方を求めて泣き叫んでしまいそう。
資料を机の上において、ぎゅ、とキッドの服の裾を掴んで彼女は俯く。
「怖いのよ、貴方が大怪我し「なまえ、アメフトはそういうスポーツだよ。」」
今にも泣きそうな表情の彼女にキッドもまた戦術書を机の上において彼女の方を向くと、冷静に諭した。
「…分かってるわ、突き詰めれば格闘技なんでしょう?」
「まあ極論だけどそうなるね。」
涙を我慢しながら表情を歪ませるなまえに、苦笑いをしながらキッドは答える。

「でもね、私個人としては…好きな人が大怪我したら耐えられないわ。」
貴方の彼女としては堪え難いことなの。
ついに耐えきれなくなって涙をぽろぽろとこぼしながらなまえはキッドを見つめた。
「……なまえ。」
キッドは少しかがんで彼女の瞳からこぼれ落ちる涙を親指で拭ってやる。
彼にそうやって触れられる、それだけで彼女は不思議と不安が少しずつ和らいでいくのを感じた。


キッドは愛おしげに彼女を見つめて少し口元を緩めた。

こんなにも俺のことを考えてくれている。
俺のことを好いてくれているからこそなまえは泣いている。
俺のために泣いてくれている。それだけでもう十分なくらいだった。
不謹慎にもそれが俺にとってとてもうれしかった。


「完璧な作戦なんてのは存在しないよ。だからなんとかして手立てを考えよう。」
「………うん。」
なまえの不安を紛らわせるように優しく彼女の頭を撫でながら彼女を見つめて微笑むと彼女は涙の跡が残った顔で小さく頷いた。


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タイトルはEuropeの曲名から。さあ次はどうしようかしら。
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