Burning Heart
「まも姐ー…って、あ…ごめんなさい。お話中?」

小柄な女の子がまもりを呼びにやって来たのだ。

「ううん、大丈夫よ。鈴音ちゃん、彼女は私の友達で西部のマネージャーさんなの。で、彼は西部のQBのキッドくんよ。」
「瀧鈴音です。よろしくね!私のことは鈴音って呼んでね。」

どうやら、彼女は泥門生ではないがお兄さんが泥門生のようで来ているらしい。しかも彼女はデビルバッツのチアをやっているという。

「初めまして、みょうじなまえです。西部ワイルドガンマンズのマネと主務やってます。宜しくね。」
「…どうも。こちらこそ宜しくね。」

なまえとキッドも穏やかな雰囲気で微笑んで自己紹介をした。2人の距離感がなんとなく近いし、他校の体育祭に2人で来るなんて何かあるに違いない、と鈴音の恋愛アンテナが何かを受信する。鈴音も自己紹介を聞きつつも、2人のことが気になった。


「ねえねえなまえ姐ときっどんは付き合ってるの?」

アンテナが彼女の方を向いている。きっどん…と鈴音以外の3人はキッドの呼び方について不思議に思い、心の中で反芻する。

「え、えーと…そういうことになるのかな?」
「そういうことになるのかねぇ…。」

なまえとキッドの声と内容が上手く重なった。その様子に2人とも思わず顔を見合わせ小さく笑った。因みに、内容についてはぐらかしたのは、彼女の親に別れろと言われて以来、他の誰かにおおっぴらに言うのは控えようと決めたからである。

「やー!やっぱり!」

2人の答えを聞きくと鈴音はうれしそうに声を上げる。

「やっぱりってどういうこと?」
「2人の雰囲気がそれっぽいし、西部にはマネと選手のカップルがいるよってこの前まも姐が教えてくれたからもしかしてそうかなって思ったの!」

なまえが訊ねると鈴音は答えた。この東京大会で泥門2回戦進出後の焼き肉店での打ち上げで、王城の若菜と共にガールズトークをしている時にまもりがつい口を滑らせてしまったのだ。さすがに誰と誰がということは言わなかったが。

「ごめんなさいなまえちゃん。…あ、でも誰と誰がっていうのは言ってないわ。」

でも今知られた訳ではあるが。

「ね、ね、告白はどっちからしたの?付き合ってどれくらいなの?キスはもうした?」

連続する質問に2人はぽかんとしてキラキラと目を輝かせる彼女を見つめた。それからお互いがお互いに答えたら?と目配せをする。お互い答える役割をなすり付け合っているのだ。

「ふふ、鈴音ちゃん、2人とも困ってるわよ。」

そんな2人の様子を見て、苦笑しながらまもりは言った。

「えーまも姐だって気になるでしょ?」
「それはそうね…。」
「えっと、あの…近くに自販機か購買はあるかしら?飲み物買いたくて…。」

流されかけるまもりになまえはなんとかその場から逃げようと声をかける。

「あるけど、ここからだと購買の方が近いよ。購買はそこの階段を上がって、目の前の下駄箱を通り抜けて左に曲がってすぐにあるわ。」

まもりは彼女の質問に答えた。

「ありがとう。…なまえ、俺が行ってくるからゆっくり話してなよ。」

購買までの道が分かるとこれ幸いとばかりにキッドは抜け出すために彼女にそう声をかけて逃げるように歩き出した。逃げたなーと思いながらもなまえは頷く。



「きっどんってすっごい紳士的だね!」
「え…、ああ、うん。そうね。」

キッドが去った後、感動する鈴音に、あれは逃げるためだと思うけど…と苦笑してなまえは言った。

「ねえねえ、どっちから告白したの?」

どうやら先程の質問を変えてくれる気はないらしい。鈴音は最初にした質問をなまえにした。

「私よ。」

少し恥ずかしくて頬を赤く染めながらなまえは答える。

「そうだったんだ…!」
「やー!素敵!なまえ姐はきっどんのどんなところが好きなの?」

付き合うに至る経緯を知らなかったので驚くまもりにはしゃぐ鈴音。
続けてまた質問されてなまえは少し戸惑った。


「え、えっと……一緒にいて安心出来るところ、ね。それに…知的で、紳士的で優しくて、アメフトやってる姿がカッコイイところかな…。」

キッドの好きなところを1つずつ、思い出として頭の中で想起させながら言う。出来事を思い出すと、好きという気持ちがこみあげてくる。紫苑の傍にいると、とても安心する。それに…人の心の機微に聡くて、すごく親切で頼れる彼がとても好き。多分私がキッドじゃないと、紫苑じゃないとだめって思うところはそういうところなんだと思う。


「もう愛だね、愛。」
「そうかもしれないわね。…だって彼以外考えられないもの。」

なまえははっきりと答えた。彼の許婚であった時からずっとずっと好きで、炎のように熱いこの気持ちは今はもっと大きくなっている。鈴音ちゃんが言う通り、これは愛なのだろうきっと。

「とても素敵ね…。」

まもりはキッドも彼女と同じように彼女を心から好いているのを知っているので彼女らの恋愛の形が微笑ましく思い、やわらかく笑った。

「そちらはそういうのないの?チームメイトと付き合ってたりとかは…。」
「うーん、ないかなあ。」
「えーそれは嘘だよ!まも姐がちょっとだけ怪しいのよね。」
「ええっ、そうなの!?誰となの?…もしかして、蛭魔くん?」
「そーだよー。」
「ち、違うわよっ…。」

鈴音は肯定したが、本人であるまもりは慌てた様子で否定する。なんとも怪しい。

「えー、いいじゃない。私はそうだといいなってアメリカ合宿の時に思ったわよ?」

それに……合宿地であるテキサスではそんなに2人の距離は近くなかったのだが、秋大会が始まってみると、なんとなく2人の距離が近いように思えた。2学期が始まってからやり始めたメールのやりとりでは蛭魔くんの話題がちょいちょい出てきてたし……。

「うーん、でもそういうのじゃないのよ、本当に。キャプテンとして頼れる感じっていうだけだから。
なまえちゃんもそういうのあるでしょう?」

暴走して行く話題にまもりは少し困ったような顔をして答える。

「そう言われてみればそうかも。キッドはとても親切で人として頼れるし、尊敬してるわ…。」

彼はキャプテンではないから、先輩としてどうとか人としてどうとかで考えてみると確かにそうだ。彼自身は分相応じゃないとか言ってそう言われるのをよしとしていないが、彼は誰からも尊敬されているし頼られている気がする……。なまえはまもりに言われて顎に手を当てて考える。



「なまえ、うれしいんだけどあんまり恥ずかしいこと言わないでよ。」

そんな彼女の後ろから声が聞こえてきた。

「えっ、わ、あっ…!」

驚いてなまえが思わず大げさな動作で振り向けば、テンガロンハットで表情を隠したキッドが立っていた。帽子を押さえていない方の手には、飲み物が入っているであろう袋を持っている。キッドは多分照れてる…と思いつつも自分の言った言葉に対して自分もまた恥ずかしくなってなまえも顔を少し赤くした。

「お話中悪いね。もうそろそろ戻んないと監督が心配するだろうから行くよ。」

そう言ってキッドがテンガロンハットから手を離してなまえの手を握る。
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