Burning Heart
※本当に微妙な感じですが微妙にヒルまも要素があります。
『まもなく泥門高校体育祭を開催致します!!』
さわやかな秋空にアナウンスが響く。
……さて、問題だ。何故俺たちは他校の体育祭に来ているのか?
答えは隣で豪快に笑っている監督が握っている。
「がははは!対決前にわざわざ運動能力お披露目の会開いてくれるとはなあ!」
とりあえず早く帰りたい。本当ならなまえと2人きりで家でゆっくり過ごしているはずなのに。貴重なオフなのに何が悲しくて監督と後輩と共に他校に出向かねばならないのか。……最近良過ぎたせいか、やっぱりロクなことがねぇ。
「こんな偵察意味ありますかねぇ…。」
俺は呆れた気持ちをそのまま口調に表してぼやいた。俺の隣で主務も兼任しているなまえは苦笑いをしている。
「まあ楽しんでいきましょう?他校なんて滅多に入れないんだから。」
「あれ、偵察とかで入らないの?」
「そんなのアポ入れてもたいていは断られるわよ。」
「なるほどねえ…。」
そうやって話していると泥門の校長が挨拶をした後、貧血で倒れた。こんな哀れな校長も見たことないな…とそれを見ながら監督、キッド、陸、なまえは同時に思った。白組の方を見れば、アメリカ合宿で知り合ったまもりがいる。
「あ、まもりちゃんだー。」
「ああ、泥門のマネージャーさん?」
「ほら、あそこにいるわ。……スーツ着ててカッコイイ〜。って何で銃構えてるのかしら…。」
「さあ…。というかスーツも変でしょ。」
確かに見てみればそうだ。他の人はみんな体操着なのだから。…あとキャラ変わってないか?あんな高笑いするような人だったったけ、とキッドはこっそり思った。そんな異様な空気を放っている人達数人を除いて、種目が始まる。最初は綱引きのようで、赤組にはアメフト部のラインの選手がいるようだ。しかもその赤組がラインの功績により勝った。一緒にアメリカに行った時より随分とまあ鍛えてきた印象だ。綱引きから種目がフォークダンスに変わると、偵察的には特に見る所がないのでなまえは立ち上がった。
「あれ、どこ行くの?」
「飲み物買いに行こうかと思って。キッドも何かいる?」
一緒に買って来るよ、と天使のような微笑みで言うなまえにキッドは立ち上がる。
「いや、俺も一緒に行くよ。」
「うん、じゃあ一緒に行きましょう。」
だって迷子とか(ないだろうけど)ナンパとかが心配だ。監督に飲み物買いに言ってきますと声をかけてからその場を離れ、自動販売機か購買を探しに2人は歩き出す。
「うーん、見つからないねえ…。」
2人でぶらぶらと散策しながら探してみるが、中々見つからない。
「誰か知り合いに聞いた方がいいかもしれないわね。まもりちゃん探そ。」
「でもこの人数で見つかるかねえ…。」
だって全校生徒に保護者でしょ?とキッドは苦笑する。
「大丈夫、多分2年生の方に探しに行けば見つかると思うわ。」
そう言ってクルッと、もと来た道を戻り始めたなまえの後ろをため息をつきながらキッドも戻り始めた。遠くに見える種目を見る限り、今はおそらく組体操の最終タワーを作っているところだろう。
パンフレット片手に生徒席を探して近くまで歩いて行くうちに種目は変わっていた。パンフを見ると、次は着ぐるみ二人三脚リレーのようだ。着ぐるみの意味はよく分からないが、もし顔が見えないような着ぐるみがあればデビルバッツの偵察にはなりにくい、と思いながらキッドとなまえはリレーのゴール付近の退場門近くで立ち止まった。
「あ、あれ、まもりちゃんだ!うわ、すごーい!綺麗…。」
なまえが感嘆の声を漏らすのでキッドも彼女の視線の方向を見れば、ウエディングドレス姿で二人三脚をしているまもりが見えた。ウエディングドレスすごく似合ってるーとなまえははしゃいでいる。
そんな彼女をよそに、キッドは将来のことについて今後身の振り方をどうするかということを考える。ウエディングドレスから結婚のことが想起され、急に現実が目の前に迫って来たのだ。
今は一緒にいるけれども、将来はどうなるかは正直分からない。本当に理想論に過ぎないのだが、俺はなまえとはずっと一緒にいたい。それにもしも叶うならば彼女と結婚だってしたい。……だけどそれはほぼ実現不可能なことだ。今となっては俺と彼女じゃ住む世界が違いすぎる。
俺とみょうじ家の使命のどちらかしか選べないとすれば彼女はおそらく家を選ぶだろう。高校生活が終われば彼女は俺を置いて行くのだろう。俺が5年前に自由を選んでそうしたように。家を捨てて俺を選ぶなんて彼女はそんなことできないだろうし、そんなことで彼女を悩ませたくない。だから……あと1年と数ヶ月で自分の気持ちにケリをつけなければいけない。
愛しい彼女を見つめながらキッドは表情を隠すように帽子のつばをつまんで下に下ろした。
その時、近くからなまえではない女性の声が聞こえた。
「あら、なまえちゃんじゃない。」
彼女のことを見つけた彼女の探していた人が声をかける。リレーは終わったのであろうか、衣装を着てはいなかった。
「あっ、まもりちゃん!久しぶりね!」
「本当久しぶりね。キッドくんもこんにちは。」
「…こんにちは。」
突然声をかけられて少し驚いたが、なまえに肘でつつかれたのでキッドはあわててぺこりと頭を下げて挨拶をする。
「彼と一緒に来たの?」
「ええ、あと監督と陸くんも一緒よ。」
「えっ、りっくんも?」
「セナくんに会いに来たのよ。」
一緒に来た動機が素敵でかわいらしいよね、となまえはくすりと笑いながら言った。
「えーと、じゃあお2人はもしかして今日は偵察?」
「いや、ただの付き添いだよ。偵察気分なのは監督だけだねえ。」
苦笑しながらキッドが答える。そうなんだーとまもりは安心した。……というのも、西部戦のためのバンプの練習がこの後の競技に含まれているからだ。
「まもりちゃんのさっきの衣装、とっても綺麗ね。すごく似合ってたわ!」
「ありがとう。でも見られてたなんてちょっと恥ずかしいなあ…。」
今度は先程まもりが出ていた着ぐるみ二人三脚リレーの衣装について話し始める2人。チームは敵同士だけど、この2人はアメリカ合宿で出会って以来とても仲が良い。連絡先も交換していたみたいで今もメールのやりとりをしているらしい。情報を漏らすようなマネはしないだろうからそれは大いに構わないのだが、自分が少し放置されていることにキッドは少し寂しさを覚える。女子2人が話に夢中になっているそんな時、他の声が聞こえてきた。
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