I Wanna Touch U
「いいけどどうしたの?」

比奈はキッド関連のことではと思って既にノリノリである。なまえは顔を真っ赤にしながら裏原宿ボーダーズとの試合の後、キッドの家に行ったらやんわりと身体を求められたこと、そしてそれを拒んでしまったことを話した。



「そういうことするのが嫌じゃないの。で、でもやっぱり…経験ないから不安だしそういう時どうしたらいいか分からなくなっちゃって……。」
「で、逃げちゃった訳か。」
「うん…。やっぱりダメ、だったかな…。」
「んーまあ、何も言わないで逃げちゃったのは良くなかったかもね。」
「う…。」
「で、問題のタイミングというか時期的なものは人それぞれだしなあ…。」

キッドってなんか他の男子とは違う感じがしてたけど、そこら辺は健全な男子と変わらないようでなんだか微笑ましい。

「そういえばなまえってキッドと付き合い始めたのは6月だったよね。…初めてキスしたのはいつ?」

なまえにアメリカ合宿で2人の関係を知ったアメフト部所属の比奈を除くチアの子たちは確認のように訊ねた。

「えっと……合宿の時だから7月?」

ゆっくりと記憶をたどりながらなまえは答えた。
ファーストキスだったから今思い出してもものすごく恥ずかしい。
今もキスはするけどそんなに頻繁にはしない。

「今何月?」
「9月。」
「しかも後半よね。」
「うん。」
「なら別にまだいいんじゃないかなあ…。付き合って1年でもまだの人結構いるし。」

何の問題もないんじゃない?と比奈とその友達は言う。

「そうなんだ…良か「えーキッドかわいそー。」」

友達の言葉にホッと安心したのもつかの間、なまえの言葉を遮ったのはビッチで有名な女の子だった。

「ちょっと、あんたの意見は聞いてないわよー。」
「だったらここでそういう話しないでよ。…でも本当かわいそうよね、キッドは4か月も我慢してるってことなんだから。」

彼女の言うことはおそらく正論だろう。しかしその女の子が言っていることをよく理解出来ないで戸惑っているなまえに彼女は続けざまに言った。

「触りたいのに触れないのかわいそうじゃん。男ってのはセックスしたい生き物なのよ。」

もしそれが正論なら自分はとんでもないことをしてしまったのではないかとなまえは不安になり何も言えなくなる。

「そういうストレートな言い方やめてあげて、なまえはこういう話すら慣れてないんだから。」
「それにみんながみんなそうじゃないと思うけど。」

ストレートな物言いに顔を赤くして何も言えなくなったなまえの代わりに比奈や他のチアの友達が反論した。

「えーそういうものよ、男はそういう欲求があるんだから。それを受け入れてあげなきゃ。」
「……キッドもそう思ってるってこと?」
「そりゃそうよ、キッドだって男なんだから。」
「そっか…。」
なまえは勇気を振り絞って訊ねると、当たり前、といわんばかりにその子は答える。拒絶してしまってしかもその後逃げるように帰ってしまったなまえには胸が痛い話だ。

「まあ1か月経っても手を出さないなんて相手に魅力が無いかとかじゃないの?」
「それはあなたの持論でしょう。人それぞれよ。」

ヒートアップし始めた話の内容に、比奈はもうこの話はおしまいというように言い放つ。

「とにかく…うかうかしてると他の女に取られるわよみょうじさん。」

その女の子はそう言い捨ててチアの部室を出て行った。


「なまえ、気にすることないわよ。キッドはなまえを大切に思ってるのよ。」
「そうそう。だからさ…今できることは直接キッドの気持ちを訊いてみて、それから彼に自分の想いを伝えることじゃないかな。」

比奈とチアの友達は上手くまとめてなまえをフォローした。

………そうね、ちゃんと話し合わないと。
でもこういうデリケートな話題だと紫苑ははぐらかすかもしれない。なんとしてでも彼の本音を聞きたいし、私も言わないといけない。そうするにはどうしたらいいのだろうと考えていると、良い案をなまえは思いついた。





江戸前フィッシャーズとの試合の日、自分たちの試合の前に巨深と泥門の試合を見ながら、観客席でなまえはキッドに賭けを持ちかける。

「キッド、今日のこの試合どっちが勝つか賭けない?」
「……えーと、またどうして?」

何か裏があると分かったのだが彼女の真意までは分からなかったので俺は訊ねた。

「なんとなく。負けた方が勝った方の言うことをなんでも1つ聞くっていうのでどう?」
「…別にいいけど。」

少々はぐらかされてしまった気はしないでもないが、魅力的な条件だったので俺はその賭けにのることにした。

「じゃあ私、泥門が勝つに賭ける!」
「はいはい。じゃ、俺は巨深の勝ちだね。」

正直、結果なんてどうでもいい。彼女の思惑はきっとこの賭けが終わった後に分かるだろうから。



序盤、試合は巨深のリードで進んでいく。カメラで一挙一動を追いながらなまえは内心焦っていた。この試合には大事な賭けがあるから泥門に負けてもらっては困るからだ。そんな彼女に追い討ちをかけるかのようにキッドはテンガロンハットのつばを人差し指であげながら言う。その言葉が彼女をより焦らせる。

「あ〜…まずいんじゃないのこれ、泥門チビーズ。」

そんな中、泥門のQBであるヒル魔がTBの知念を止めた。ほっとしたのもつかの間、距離は泥門のゴールすぐ前だ。

「…なまえ、ほんとに泥門の勝ちに賭けてていいの?」
「ま、まだ分かんないもん!」

なまえはビデオを構えながら反論した。そうだよ、まだ前半だもの。まだ分からないわ。


その後、シーソーゲームのように試合は進んでいく。ウィッシュボーンもちゃんと一挙一動全てをズームで取れたし、今後の対策のための資料も増えた。それからは賭けのことを完全に忘れてしまっていて、純粋にハラハラしながら試合を見守っていた。

試合残り時間7分、デビルバッツが逆転し、泥門の勝利が近づくアナウンスになまえは純粋に喜んだ。しかしそれもつかの間、高波で泥門の勢いは止まってしまった。しかも攻守が反転して今度は巨深の攻撃のターンである。泥門のラインの十文字が巨深の壁を破って投手を捕らえようとした時、投手はすぐにボールを捨てた。
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