Holding On
「キッドって中々に腹黒いよなー。」

キッドが走って皆のいる所へ追いつくと、なまえは?と井芹に聞かれて落とし物を取りに行かせたと言うとこの言いざまである。というか何で俺の思惑が筒抜けなのだろう…。

「何気に酷いこというよねぇ、井芹は。」
「本当のことじゃん。恋ヶ浜の奴らがみょうじを勧誘しないようにしたんだろ?」

俺もその気持ち分かるよ、井芹がそう言った。さすがは彼女持ちといったところか。

「おいキッド、先頭行けよ。」
「あーごめんごめん。」

波多に言われたので井芹の言葉には答えず、キッドは鉄馬の前である自分のポジションについた。まもなく入場が始まるという時に、ドンと監督が銃を振り上げて空に向かって撃った。それを合図に入場が始まり、グラウンドへと歩いていった。実況の人がキッド率いる東京最強のチームだとノリノリでチームの紹介をしている。ザッザッと歩きながらキッドは手で帽子を押さえて目深に被ってぼやいた。

「別に率いちゃいないよ…。買いかぶられ過ぎはロクな事がねぇ。」

ここまで盛大に紹介されたらキッドが誰のことなのかバレそうだ。怖い怖い。

『対するは恋ヶ浜キューピッド――!!かつてここまで結果の見えた対戦があったでしょうか!まさに巨像とアリの闘いッ!!』

なまえがまだ通路の方にいると良いけど……と恋ヶ浜の紹介を聞きながらキッドは思った。


一方なまえはもう入場が始まっているのを音で聞きながら、ありもしない予備のリストバンドを探していた。

「うわーん、もう始まってるー!」

リストバンドの予備って!本当に必要なのかな…?というか予備って存在するの!?私見たことないんだけど…!半泣きになりながら辺りを見回して一生懸命探すなまえ。


そんななまえの気も知らないでキッドはグラウンドにいた。

「あーれー西部は男子校だったかな?」

チームメイト以外の声が聞こえて来たかと思えば、目の前にはくねくねと腰を動かす恋ヶ浜キューピッドのQB、初篠。キッドはその存在に気づき、あのままなまえを一緒に連れてこなくて良かった…と胸を撫で下ろす。

「おや!?女の子が1人もいない!!」
「Wild Wild Gunmans !!」

目の前の彼が決め顔でそう言い放った時、ちょうどチアが出て来た。哀れな恋ヶ浜のキャプテンはしおしお…と意気消沈して自分のチームのベンチへと帰っていった。その後、名前を呼ばれて振り向けばなまえが息を切らした状態で自分の傍までやってきた。

「…キッド!」
「ごめん、なまえ。こっちにあったよ。」

なまえに何か言われる前に俺は先に謝った。

「……リストバンドの予備って今まで見たことなかったんだけど。」

そりゃ嘘だしねぇ…。存在するはずがないんだ。

「違うよー。キッドはみょうじを恋ヶ浜に勧誘されたくなかったから嘘ついてたんだよ。」
「ちょっ、井芹…!」

井芹がペラペラ喋り始めたのでキッドは彼を黙らせる。

「じゃあ無いの?」
「あー…うん、そうなんだよねえ。」

ヒューヒューと囃し立てる外野、黙っててくれないかとキッドは思いながらも、罰が悪くなって彼女から視線をそらした。

「……そんな嘘つかなくても私はガンマンズ以外には行かないわよ。」

勿論西部以外の学校にも。私はここにいるわ、と言わんばかりになまえは笑ってキッドに言う。理由が理由だったから彼女は怒ってなかったしお咎めなしだった。ちょっと理由は違うけど彼女が怒らなかったのでもうそれでいいやと思った。


「さ、勝てる試合だと分かってても手抜きは厳禁ですよ!プレーブック確認して下さい。」

囃し立てる外野の方に向き直って明るい表情でにっこりと笑ってなまえは言った。
有無を言わせないその空気にみんなが従ったという…。

そんな中、キッドがぽすっと自分のテンガロンハットをなまえの頭の上に被せる。

「なまえ、これ預かってて。」

太陽高校との練習試合以降、キッドは自分の帽子を彼女に預けるようになっていた。信頼されてるのかなとなまえはうれしくなり、被せてもらった帽子をありがたく両手で掴んだ。

監督はチアの子に持たせた王城と泥門それぞれの試合結果が書かれたスコアブックを見ながらくるくると銃を回す。そしてガシャッと両手の銃を構えると意気込んでこう言った。

「うちは200点差で勝ってこい!」



試合は順調すぎるくらいに進んでいき、第3クォーターとなった。その時点でガンマンズ対キューピッドは125対10だった。分かりやすいくらいに超攻撃型のチームである。もう無理……と言いながら倒れ込んで死屍累々の恋ヶ浜の選手達。審判は仕方無いねと棄権を認めた。アナウンスによってガンマンズの勝利が告げられた瞬間だった。


試合が終わってガンマンズのメンバーはベンチに戻る。お疲れ様ですと声をかけながら勝利を手に入れたメンバーになまえはドリンクを配った。

「続けさせろー!まだ200点差ついてないっ!!」

発砲して暴れる監督。どうやら200点差で勝ってこいなんて言ってた監督のあの言葉は本気だったらしい。

「止めて鉄馬。」

ヘルメットを小脇に抱えてなまえから受け取ったドリンクに口をつけながらキッドは言い、鉄馬は指令を忠実に守った。もう見慣れた光景なのか、その様子を部員は苦笑いしながら見ていた。少し身体休めて着替えたら試合観戦ですよーとなまえは監督の行動をナチュラルに無視して部員に声をかけて後片付けを始めていた。キッドも着替えようと自然な動作で彼女の頭から帽子を取ってキッドはそれを被る。


着替えも撤収も終わると、観客席の方へ行って試合観戦だ。柱谷対巨深の試合が終わるとそれは意外な結果だった。今までになかったデータが試合をひっくり返したのだ。

「そんな……。」
「完全なるダークホースだねえ。」
「今日のビデオが貴重な資料ね…。」

同じサイドなのだからもしかしたら当たるかもしれない。なまえはビデオカメラを大切に鞄の中にしまった。その時、彼女の携帯が震えたかと思えば陸からのメールが来た。

「今から向かいますって…。もうあと反省会だけなのに。」

陸くんらしい――そう思ったなまえはくすりと笑う。
これから学校に戻って少し反省会をした後、解散となる流れだ。

「陸らしいねぇ…。なまえはこの後どうするの?」
「ちょっと残るわ。データ分析したいし。」
「なら俺も残るよ。1人より2人の方がいいでしょ?」

微笑むキッドになまえは笑顔で頷くと2人でバスの乗り込んだ。


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タイトルはTerra Novaの曲名から。ダラダラ書く癖をそろそろ直した方がいいですね。次回はさくさく行きたいです(希望)
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