Savin' Me
ぎゅっと彼女の冷たくて心地よい手が俺の手を握っていて、彼女のもう片方の手が俺の額を撫でる。彼女の手の感触になんだかとても安心した。

「あ、部活はサボらないでちゃんと出たからね。」

冗談めかしてなまえは笑って言った。
部活が終わってから彼女らが来たということは……ひょっとして俺、随分寝てた…?

「というか、風邪うつるから帰んなよ…。」
「こういう時くらい、自分のことだけ考えて。早く治るようにしないと。」
「……分かったよ。…そういえば今何時?しかもいつ来たの?」

身体は相変わらず熱っぽいがダルさは少しマシになっている。俺は上半身をゆっくりと起こした。すると、ペットボトルの水を鉄馬から渡される。もしかして買って来てくれたのだろうか。

「6時半。部活終わってすぐ来たからさっき来たところだ。」
「うわー随分寝てたんだねえ。」

それを受け取りながら水分を少し口に含んで飲むと、体全体に行き渡るような感覚に陥った。

「いいじゃない、熱出てるんだからちゃんと寝なきゃ。」

そう言う彼女から体温計を手渡される。体温を測ると今朝測ったよりはほんの少しだけ下がっていた。まあ身体を動かさずにずっと眠っていたから当たり前かもしれないけど。

「うわ、まだかなり高いわね…。」
「それでも朝よりはマシだよ。」
「よっぽど酷かったのね。…あ、そうだ、何か食べた方がいいわ。どうせ朝から何も食べてないんでしょう?」
「うん。」

なまえにはすっかり行動を把握されている気がする。
いつもなら軽口を叩くところだが、熱のせいか素直にキッドは答えた。

「ゼリーあるけど?」

食べる?とビニール袋からゼリーをいくつか手に取って見せるなまえ。

「今はそんな気分じゃないみたいだな。」

ありがたいけど今は甘いのはちょっとねえ…なんて考えていると俺の代わりに鉄馬がかすかに笑って答える。


「ならお粥でも作ろっか。キッチンと材料借りるね。」

なまえは笑顔でそう言ってビニール袋を手に持つと、立ち上がる。しかしなまえの言葉に俺は少し身体を硬くした。なぜなら彼女は料理が大の苦手だからだ。彼女は箱入りのお嬢様で料理なんてほとんどしたことがないと言っていたし、西部に来る前までは進学校にいて家庭科の調理実習なんてなかったらしい…。それを知っている俺は身の危険しか感じない。

「いいよなまえ…。」
「大丈夫、ちゃんとレシピ見ながらやるから!」

ぐったりと身体をベッドに預けながら言うと、なまえは自分のスマートフォンを見せながら言ってキッチンの方へと歩いていった。そもそもレシピ見ながら作るようなものでもないんじゃないかと思ったがその言葉は飲み込む。でもまあ、レシピあるならいいけど……ちょっと心配だ。

「鉄馬ァ…なまえを見ててあげて。台所が爆発するのだけは避けたい。」

一抹の不安を覚えた俺は傍にいた鉄馬に頼んだ。鉄馬はコクリと頷いて彼もまたキッチンへと向かった。


「て、鉄馬くん!?大丈夫だから!お粥なんてそんな失敗しないから!」
「台所を爆発させないか心配だと紫苑が言っている。」
「なっ…爆発なんてさせないわよ!ちょっと焦がすかもしれないけど……。」
「火災警報は勘弁してよ…。」

彼らの会話に俺は小さな声ながらも参加した。すると、なまえは聞こえてたの!?と顔を赤くしている……本人達は小声で話してるつもりなんだろうけど、俺の部屋小さいから全部聞こえてるんだけど。鉄馬がいるから大丈夫だとは思うけどどうか火災報知器がなりませんように、と俺はこっそり祈った。


一段と声を小さくしてなまえは鉄馬にヒソヒソと言う。鉄馬はコクリと頷いた。キッドのいるところからは今度は声はあまり聞こえないが、何か話しているようだ。彼女らが何か話した後、鉄馬がこちらへ戻ってくるのが視界の端に見えた。

「どうしたの…?」

視線を動かして彼を見る。

クッ○パッドがあるから大丈夫だそうだ。
そういう問題じゃないんだけど。俺はいいからなまえ見てて。」
「……お前についてやってくれと。寂しい思いをするだろうからって。」
「俺、もう子どもじゃないんだけどねえ…。」

子どもなのはあだ名だけ。そこまで過保護じゃなくて良い。だけどまあ……確かに風邪を引くと、身体が思い通りに動かないから辛くて不安になるし、気分も落ち込む。なまえの気遣いはうれしいとキッドは素直に思った。



それから10分後くらいになまえはお椀を持ってこちらに戻ってきた。

「ごめんなさい…ちょっと味が薄いかもしれないわ……。」
「ああ、うん…。」

落ち込んで頭を垂れながら彼女はそう言った。期待してなかったから別にいいけど。

身体を起こしてスプーンとお椀を受け取りながらお粥に口をつけると、水気が若干多く、確かに味が少し薄い。でも、それよりも大切なのは、なまえが俺のためを思ってわざわざ作ってくれたということだ。味がどうとか、そんなことはどうでもいいのだ。

「まあ…食べれなくもないし、大丈夫だよ。」
「本当にごめんなさい…。」
「や…むしろ、ありがとう。わざわざ作ってくれて。」

不安から慚愧の念を抱いた表情に変わった彼女の顔を見てキッドは安心させるために微笑んだ。するとなまえは少しうれしそうに笑う。


体調が優れなくて苦しい中、なんとか完食するとベッドの上に横たわった。
それから身体を休めながら、なまえや鉄馬と話しながら過ごした。

「じゃあそろそろ帰ろっか、鉄馬くん。」

鉄馬の方を見上げてなまえは言い、彼は頷いて立ち上がる。

「紫苑、お粥とかゼリーとかは冷蔵庫に入れてあるからもし良かったら食べて。」
「うん。今日はありがとう。」
「いーえ。それじゃ、お大事にね。」

俺がそう言うと、鉄馬となまえは俺から背を向けて去ろうとする。しかし、俺はその時、何故だか無性に彼女に帰ってほしくなくて思わず彼女の服の裾を掴んでしまった。それに気づいたなまえは振り向くと、少し困ったように微笑む。


「……あ…、ごめんなまえ。」

困らせてしまった。キッドは慌てて手を引っ込める。
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