Can I Play With Madness
「そういえば来週からテスト週間だし、来週は部活ないのよね?」

いつも通りの部活が終わった後、いつものように鉄馬と共に自分の横を歩くなまえが訊ねた。彼女と付き合いだしてから、こうして3人で帰ることがもはや日課になっていた。


「んー…そうだね。」

別に何の困難もないというように軽く流すキッド。
しかしそれに対して鉄馬は不自然にビクッと身体を震わせて異常なくらい発汗している。鉄馬のそんな様子を見て、何かまずいことでも言ってしまったのだろうかとはなまえは焦った。

「え、て、鉄馬くんどうしたの!?その汗の量、異常じゃない!?」
「あー…期末とか中間の時期にはいつもこうなるから気にしないでなまえ。」
「どういうこと?」

それでも意図を理解しきれないでいるなまえはキッドに訊ねる。その質問に対してはなまえにとって衝撃の事実がキッドにより告げられた。


「赤点とると夏休みに補習があるから部活できないんだよ。」
「え、でも、西部って校則ないし学力に力入れてる訳でもないでしょう?」

そんなに学力重視の学校じゃなかったはず…と高校案内のパンフレットに書かれていたことをなまえは思い返した。

「逆に校則とかない代わりに、最低限の学力は必要とされるみたいだよ。」

自由にはそういう制限とかつきものなんだよ、と悟ったような口調でキッドは続ける。
その言葉になまえは自分の今の高校生活が制限付きの自由であることを思い出した。


紫苑と一緒にいられるのはきっと西部にいる間だけ。
高校を卒業したら……家に戻って親の望む通りに生きなければいけない。
期限付きの、つかの間の自由という訳だ。

そんなことを考えていると暗い気持ちになったが、キッドに悟られるわけにはいかない。



「……ふーん。…で、もしかして鉄馬くん、危ないの?」

暫くの沈黙の後、納得したように頷いてから遠慮がちにはなまえは鉄馬に訊ねた。鉄馬は緊張した面持ちでコクリと頷く。

「頑張ってはいるんだけどねえ…。」

実際は結構きわどい。彼はたいてい赤点ギリギリなのだ。しかしキッドは親友をフォローしようとそのような言い方をした。そして、少しだけ話題をそらすためにキッドは不自然でない話題の変え方をする。

「ま、今の時期は部室に行っても先輩方が集まって勉強してるよ。」
「勉強会を開いてみんなで教え合ってやってるのね。」
「まあ3年は受験控えてたり本気で赤点取りそうなのが何人かいるからねぇ…。」

いいなーと言いながらなまえは楽しそうにキッドに微笑む。そしてテンガロンハットを少し傾けて苦い思い出を語るかのようにキッドは答えた。

「というか…なまえももしかして危な「ち・が・い・ま・す!」」

からかいモードに入ったキッドに対してなまえは一言一言強調して否定した。

「ただ…みんなで楽しく勉強っていうのも楽しそうだなって思っただけよ。」

彼女はプイッとキッドの方から顔をそらして続けて言う。
その横顔がなんとも寂しそうでキッドはなんとかしたいと感じた。


「……なら来週から、放課後に一緒にやる?」

いいよね、鉄馬?と彼女の隣を歩いている鉄馬にキッドが訊ねると彼はコクリと頷く。

「うん…!」

なまえはうれしそうに笑った。彼女が笑うと俺もうれしくなる。彼女の笑顔がとても好きだ。

「じゃあ場所は――「紫苑の家がいいだろう。」」
「え?ちょ、鉄馬…?」

キッドがそんなことを考えながらうちのクラスの教室でやろうかと言おうとした時、鉄馬が口挟む。珍しい。鉄馬としては学校の教室よりは紫苑の部屋の方が落ち着くからそう言ったのであろうが、キッドは意味分かって言ってる?なまえいるんだよ?と焦った。

「紫苑の家……。」

なまえはなまえで彼氏の家にお邪魔することに浮き足立っている。もうちょっと危機感を持ってほしいとキッドは思った。しかしもう鉄馬となまえの2人の中では決定事項なのだろうと思う。

なまえに触れたいという欲求に打ち勝てるだろうかと不安になったが、それと同時に、まあなまえとは付き合ってるんだし無理に嫌がることなんてしようとは思わないし…、なにより鉄馬もいるなら大丈夫だろう…と思うと何も言えなかった。





それからあっという間に日数は過ぎていき、テスト週間に突入した。いつも通りに3人で下校し、それから直接キッドの家へ行き、机の上に3人分の教科書が開けられる。なまえはキッドの家に招かれたことについて、うれしく思いつつもとても緊張していた。彼の家に入ってからずっとドキドキしている。

一方、キッドは自分の彼女が自分の部屋にいるという状況を未だに信じられなかった。また、自分の所有している空間に愛しい彼女がいると考えるだけで理性を押さえるのに必死であった。


「…そういえばなまえはうちんとこのテスト初めてだねぇ。編入試験の成績どれくらいだったの?」

キッドは話をすることで何とか別の方向に意識を向けようと努力した。

「ほぼ9割くらい…かな。あ、でも数学UBだけは8割だった。」

キッドと鉄馬は驚いた。彼女は昔と同様、かなりテストの成績が良いようだ。数学だけは算数と変わらず苦手なようだが、それを除けば9割。ほぼ90点くらいなのか。というか苦手な数学でさえ8割もあるのか。編入試験って入学試験より随分難しいのに。中学以降の頃は知らないが、彼女も小学校の時は俺と同じく勉学に関しては熱心に取り組まされてたしねえ…。
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