01

 
「元グランさま、基山ヒロトです」

「自分で敬称つけんなし…元バーン、南雲晴矢」

「元ガゼルさま、涼野風介」

「え、俺今のくだりやるべき?」

「風介多分ぼけてるつもりないからスルーで」

「えと…元レーゼ、緑川リュウジです」

「みょうじなまえ、宇宙人なにそれおいしいの」

「あっなまえずるい黒歴史消そうとしてる!」

「リュウジは本当にレーゼ時代はずかしがるよね」



5人右まわり。吉良家の離れでテーブルを囲み、とりあえず一からはじめようと自己紹介をしてみた。ちいさい頃からの付き合いなんだから別に熟知しているんだけど。宇宙人ネームなんか保護されたあの日に捨ててやったのだ、剣崎なんて知らない。

父さんは今はいないから、母屋には瞳子姉さんしか住んでいない。行き場のなかったわたしとリュウジ、晴矢、風介、ヒロトの5人は、姉さんもさびしくなくなるだろうととりあえずここに落ち着くことに決めた。(なぜか治には拒否られた、硬派だった)

お互いを敵とみなし、仕え命令しあう関係は終わった。全員同じ施設で育った同い年。FFIが終わった今、わたし達は家族として帰ってこれたのである。


「よし、住むにあたって当番決めんぞ当番!」

「えー」

「ブーイングしたやつ掃除当番」


今姉さんが来たらきっと変な顔をするだろうというくらい、途端にしずかになる居間。ヒロトが晴矢の言葉を仕切りなおしするように「さて」と立ち上がって、紙とペンを持ってきた。


「交代制にするの?」

「うん。料理皿洗い洗濯掃除…あと買い出し、これローテーションでいいかな」


風介料理なんかできんのかなという疑問はややこしくなるので胸に止め、うなずく。ポニーテールをぴょんぴょこ揺らすリュウジが、メイちゃんさながらに跳ねた。


「俺お洗濯したい!」

「じゃ、リュウジは洗濯から。なまえは?」

「お掃除でいいよ、離れ使ってなかったからしなきゃいけないしね」


ちゃぶ台前に置かれたアナログテレビを見やる。上に鎮座したお地蔵さんの置物がうすら白く汚れてかなしそうに見えた。
やりたくないと駄々をこねる風介をアイスで釣って皿洗い係に命じる。のこりは料理と買い出し、ヒロトと晴矢だ。


「ここは普通に考えて晴矢が買い「俺が買い出しで晴矢ごはんだよね」…さいですか」

「なんでだよ、普通に考えたら俺が買い出しだろ」

「晴矢いい旦那さんになれるよ」

「てめえがやりたくないだけだろ何だよその顔!」


意図のわからないドヤ顔を崩し笑ったヒロトは、自分の髪と同じ色で表の左上にはなまるを描いた。あ、結局決定なんだ。
会議はずるずると今日の晩ごはんメニューに移っていく。わたしはどうでもいいのでリュウジと晴矢の焼肉推しに任せてテレビを点けた。風介がのそのそやってきてソファに体育座りする。


「なに見たいの」

「べつに」


適当に回したチャンネルは昼間の動物番組だった。丸っこい子猫が画面を支配する。「ひゃあ!」なんて歓声にまさかとバッと隣を見るも、風介は変わらず無表情で反応するでもなくじいっと画面を見ていた。…当たり前だけど叫んだのリュウジだった。まあそうですよね。


「かわいいなあ猫…離れだし飼っちゃだめかな」


ソファの背もたれに手をついて身を乗り出す彼。そういえば昔から筋金入りの動物好きだったのをわすれていた(レーゼさま時代に奈良の巨シカ像をぶっこわした時はエイリア石の力ぱねえと思ったものだ)。
レシピが決まったのかメモに食品名を書き出している晴矢が「無理」と口をはさむ。


「風介アレルギーだろ、猫」

「へえ、そうなの?」

「わすれてた」


何で過去形なんだ。髪までしょぼんとさせたリュウジの手をよしよしと握ると、ヒロトにぺちんされて離された。これがDVってやつですねわかります。
風介とは気付いたら一緒にいたくらいの長い付き合いなのに、猫云々の話は聞いたことがなかった。リュウジの動物好きやヒロトの好き嫌い、晴矢の花粉症の種類だって知っているのに。


「大きくなっておよめに行ったら飼わせてもらいなさい」

「姑さんに毛長いのいやとか言われたらどうしよう…」

「……リュウジ眠いのかお前、頭働いてるか?」


微妙な顔をする晴矢の横の動物好きはしょぼん気分が紛れたみたいで、相変わらず子猫祭りとなっている番組を見てだらしなく頬をゆるめるリュウジ。おひさま園ではペットは飼っていないからあこがれみたいなものなんだろうなと思う。
その隣で猫アレルギー(らしい)風介も、することがない様子でただただ画面に転がるロシアンブルーを凝視していた。


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