Halloween

 

じゃじゃーん!効果音付きでどさどさっとちゃぶ台からこたつに進化した机に置かれたのは、オレンジと黒のおしゃれな紙袋。テラパンプキン。一目で分かるカラーリングは、時差ぼけしていなければもう終了したはずのイベントを模していた。パンプキンパイを焼いて食べたのはすごく記憶に新しい。ていうか一昨日だ。


「…リュウジどしたのこれ、散々お菓子パーティーしたじゃん」

「安売りだったんだ!ちょうどお菓子切れてたしいいかなって」


売れ残りセールか。値下げシールが無造作に貼られたそれからは派手な色合いに反して哀愁が漂っている。買い物当番の特権でゲットしてきたらしい。夕食の片付けだの何だのをしていた各々も集まってきたので、リュウジはなんだかやたらドヤ顔で袋をひっくり返した。すこし耳障りなビニール音をさせて散らばったのは大体が飴とチョコレート。クッキーもすこしある。

期限は全然保ちそうなのに、モチーフのせいで損をした哀れなお菓子たち。よしよし、わたし達が食べてあげようじゃないか。かわいく包まれた棒付き飴をさっそく口につっこむ晴矢がテーブルに上がろうとするノーザンを叱る。


「ハロウィンのお菓子ってかわいいよね、おしゃれだし」

「まあ奇抜だよな…って風介てめー確保すんな!」


怒ってばっかりだ。睨まれた風介はといえば、めずらしく晴矢の言うことを聞いたノーザンとは違ってぷいっとそっぽを向いた。クッキーを噛みながら、机上に散らばった飴を両手で俺の陣地!とでも言いたげに囲って無視。
さすがにかちんときたらしい晴矢が怒鳴ると、「ちょっとは静かにしろ」と哀れみみたいな目を向ける。お前こそマイペースいい加減にしろ。諦めたらしい赤毛が脱力してため息をつくので、チョコレートをそっちに滑らせてやった。相変わらず苦労人ですね。


「でも確かに風介取りすぎだよ」

「…そんなことはない」

「本当に共有って言葉を知らないなあ」


ヒロトにまで怒られて、風介は逆にむくれてしまった。四角いこたつの辺を移動してわたしの隣にずりずり入り込んでくるので仕方なく右半分を開けてやる。俺の陣地だぜキリッ状態は絶賛続行中で、風介の腕に押されてお菓子の数々も滑ってきた。わたしも手元寂しいけどきっと奪ったら怒るだろうな。

5人で分けるともなると必然的に量はすくなくなるので、この家では日常的にこんな感じの争奪戦が行われるのだった。まずちょっと大人なわたしとヒロトが引いて、リュウジが泣く泣く負けて、そして大抵は意外と晴矢が折れてしまう。風介最強説。


「俺チョコ2個しか取れなかったよ」


苦笑したヒロトは、オレンジと黒それぞれひとつずつのちいさなチョコを確保してから皿を洗いに立ってしまった。晴矢みたいに棒付き飴で口をいっぱいにしたリュウジもそれを手伝いに行く。赤と黄緑が並ぶのを見ていると、なんとなく12月のイベントを思い出した。今年も来るかなあ、瞳子姉サンタ。

11月に入ったばかりなのにちょっと気が早かったかな。イベントが好きなのはお日さま園出身者共通の習性だ。だからどうせみんな焼き芋だのクリスマスだのを考えてわくわくしているんだろう。それもなんとも言えないものがあるけど。こたつのぬくさに甘えてぼやぼやしていると、不意に肩を叩かれた。


「なに風介、アイスならお風呂上がりにしなよ」

「…きみは私の言うことすべてがそれだと思ってるんだね。ちがうよ」


寝起きじゃないからか珍しくいつもより口が動く風介は、「動かないでね」と無表情で言うとわたしに向かって膝立ちした。顔がいつにもなく真剣なので息を呑み込む。視界のすみで不愉快そうに頬杖をつく晴矢とは対照的なわたし。なにをはじめるのかと思いきや、やっぱり無表情の風介はチロル形のチョコレートをつまんで、

わたしの頭に積んだ。


「……何してんの風介…」

「喋るな。揺れるだろう」


首振ったろか。晴矢が微妙な顔でテレビを見始めるのが動かせない視界で見える。あいつでやれよと言おうとして、よく考えたら晴矢じゃチューリップが邪魔でできないのかと気付いた。そんなことを考えているうちにわたしの身長は軽やかに伸びている。ステイだろうか、ステイされてるのかわたし。

仕方ないので微妙に見えるテレビを無理矢理見て暇をつぶすことにした。やっぱりわたしは風介に甘い。ビターチョコレートくらいには甘い。いつのまにかわたしの確保したやつも積まれてるけどもう気にしないことにする。
そんなことより、ノーザンインパクトを打つ時と同じくらい真面目な顔がバランス確認のためにちょこちょこ目の前に来るのにどきどきしっ放しなのだ。我ながら情けないかぎりではあるが、元エイリアンも慕情恋情には抗がいようがない。

しばらくして、わたしの頭の上には立派なお菓子タワーができたようだった。ふふん、とふんぞり返って風介はわたしの方を見る。どや顔されてもなあ。こっちは動けなくて迷惑なだけなのだ。ステイの長いご主人さまである。一番上に不安定なキャンディを乗っけて、風介はやっと満足したのかこたつに収まった。


「つかれた…」

「こっちの台詞だよ!」

「?」

「なにその顔すごいむかつく、おわったなら早くどけるか食べるかしてください」


とにかく今わたし右向きたい。晴矢が一人でテンションアップしている理由が気になって仕方がない。勝手に崩したら拗ねてしまいそうなので、暖まり始めた風介の肩をそろそろと叩く。こっちを見た風介はもうお菓子タワーに飽きて興味を失っているようだった。きょとんと丸い瞳。びっくりする意味がわかりません。


「崩していいの?食べないの?」

「? それはこっちの台詞だ、食わないのか」

「へ」


それはなまえの分。
当たり前だろみたいな顔をして、風介はごそごそこたつに潜って横になってしまった。思わず勢いよく首を動かしてしまう。ばらばら、顔やらに当たる冷たくて固いミルクチョコレートたち。手にちょうど乗ったキャンディをうまい具合にキャッチすれば、布団は前髪とこたつ布団の間からちろりとのぞかせた目を細めて笑った。

めずらしくちょっと照れくさそうな柔らかいはにかみに、超意味不明ながらきゅんとしたのは否めない。季節遅れのお菓子を膝にぶちまけたまま、わたしはやたらぽかぽかしている頭を撫でてやった。
ごろごろ手に擦り寄る様はとてもハロウィンの悪そうな黒猫には見えない。さしずめちょっといたずらっ子な白猫といったところである。猫はチョコレート食べれないもんね。そんなことを考えてひとり笑っていれば、晴矢にきもいと罵られてしまった。お前だってノーザンが風介の邪魔しないようにこっそり捕まえといてあげてるくせに。


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