雑草並の踏まれ強さ


Title Sponsor,,,佐々木屋さん
残念ながら閉鎖されたようなのですが、リンクはそのままに。




「手伝わねぇよ!」

「そーんな固いこと言わないで…ほらほら、薬飲んで昏倒してくれればクラサメ君には『しばらく』手出ししないからー!」

「しばらくかよ!」



サイスはそう叫んだ後、苦虫を噛んだような表情をしつつ、たじろいでいた。
カヅサの言葉が引っ掛かるようだ。


クラサメをこの変態から『しばらく』の間でも遠ざけられる…(この変態は約束は守らないかもしれないが)

けれど自分の事も大事なサイス。



「あんたがクラサメに手出ししなかったらいいだろうが!」

「僕にちっとも利益がないじゃないか」

「んなもん知るか!」



怒号をぶつけたサイスはカヅサに呆れ、研究室を後にしようと彼に背を向けた時。
サイスは背後のカヅサが妙な動きをしたことに気が付いた。


……何してるんだ?


サイスは振り向こうとする。
だがそれより先に、カヅサはサイスのうなじに、ひやりとした物を当てた。



「残念だったねー…」



背後から聞こえた、身の毛も弥立つ忌々しいカヅサの言葉。

サイスは瞬間的に大鎌を手にするが、時既に遅し。
うなじに触れたスタンガンが威力を発揮した。


瞬間に明るくなる研究室。
サイスは痛烈な痛みを受ける。
完全に不意打ちだった。


畜生…


声にならぬ怒りを訴えたが、痺れはその怒りを超えて痺れを帯び、サイスの意識は薄れてゆく。



「…何……が…ざ……ん…ね……」



サイスは体力を振り絞り、途切れた悪態をつきながらも膝から崩れ落ちて行く。



その時、
研究室の扉が荒々しく開かれた。



クリスタリウムの明かりが、暗い研究室の中に侵入してくる。
サイスは入ってきた人物の容姿を、逆光で捉えられない。

けれど侵入者の濃紺の短髪だけが、サイスの脳裏に焼き付いた。



あんたはー…



答えを出す前に、サイスの意識は彼方へ飛んで行ってしまう。


崩れ落ちたサイスが上体を床に打ち付ける間際、濃紺の侵入者は素早く移動してサイスを支えた。


侵入者は優しくサイスの上体を起こしてから両腕に乗せるように抱き上げ、実験台に寝かせた。



「…殺さなければいいか?」



サイスを寝かせた後、既に場にいるカヅサの顔を見ずに…濃紺の侵入者は低い声で告げる。


侵入者の言葉にカヅサは、意外だなぁと呟いてから肯定の意を込めて言う。



「クラサメ君が実験に協力してくれる何て、こんなに珍しいこと無いね!」

「お前を、だ」

「天変地異の前触れかなー……って、僕を半殺しにするのかい?」

「俺の生徒を襲った罰だ。そう遠慮するな、有り難く受け取れ」



濃紺の侵入者ー…もとい『氷剣の死神』のクラサメが、ゆらりと動く。

マスクの下の表情は読み取れない…が、暗い研究室内でも爛々と光る眼は、獲物を捉えたトンベリのようだ。



カヅサは笑顔のまま青ざめる。
僕の人生、これまでか。


せめてクラサメが候補生だった頃の写真を死ぬ前に眺めたかったのか、あのクラサメに背を向けて写真を取り出そうした時。



研究室の一角で、
変態は氷の魔法に閉じ込められた。





*----*----*----*




「…ん……あ……?」


目覚めた途端、無意識にうなじを確認したサイスは知らない場所で目覚めた。


手を当てて確認したサイスは、うなじに傷一つ無い事には驚かなかったが、
傷の代わりにガーゼが当てられている事には心底驚いた。



このガーゼを貼ったのは
絶対カヅサじゃない。



この時点で断言するサイスは、どうやら大嫌いなカヅサかそれ以外かどうか…判別できるらしい。



サイスは自分の位置を確認するため、辺りを伺った。


今は上体を起こしているが、サイスは固いくて清潔なベッドに寝かされていたらしい。


寝かされていた部屋は広くはない。
綺麗でも整頓されているわけでもなければ、汚く散らかってもいない…


今のサイスに解る事は、ここはとても居心地が良い…ということだけ。




とりあえずベッドから降りよう。



ベッドからゆっくりと降り、床に足を付けたサイスは武器の確認をする。

あの場所から、まかり間違って敵地にたどり着いているのならば、武器は必要不可欠だから。


しっかりと手入れされた鎌を入念にチェックした後、片手に持ちながら部屋に出る扉に手を掛ける。


だが、扉を開けることはしないサイス。




サイスは気配を感じていた。
此方に向かってくる、敵の気配を。


久々に高鳴る鼓動。
サイスの口元は笑っていた。



「…上等だ……」



敵とまみえる覚悟を持つサイスは、敵の足音を聞き分け、敵が扉の正面に来る時を見計らい、一気に扉を押し開けた。




「……あ?」



だが、サイスの視界に敵はいない。
そこに広がっていたのは、朱を基調としている廊下。

ここは朱雀領だな…とサイスは少しだけ安堵した。



でもまた何か心に引っ掛かるようで、サイスは押し扉を開けたままの体勢で考えた。



「…あの敵の…気配は何だったんだ?」



足音はあった。
気配も感じた。
だが…いない。


此処で考えていても仕方ないと思ったサイスは、疑問を口にした後に扉を閉めようと扉を引いた。



…だが、閉まらない。
なぜか、あと数センチが閉まらない。



「な…意味わか……えぇ?」



先程まで閉まっていた扉が、もう閉まらないなどおかしい。
サイスは少し困惑しながらも、力の限り扉を引く。

だが扉は少し閉まりかけては、反動のようにまた少し開く。
つまり変わらない。



サイスは一度、扉を手放した。
引く力がなくなったので、扉は勝手に開く。



サイスはその場で腕を組んだ。
扉は全開。


サイスは扉を睨んだ。
その間も扉は全開。



数分間、サイスと扉の睨み合いが続いたが…先に動いたのはサイスだった。


待っていれば勝手に閉まるんじゃないか、と考えたサイスは待っていた。が、

待つのが得意ではないサイスは痺れを切らし、また扉に手を掛けて力の限り引いた。





…先程の攻防は何だったのか。
扉は大きな爆発のような音を立てて閉まった。見事に、…綺麗に。



「うっしゃー!」



柄にもなく、喜びを露わにするサイスは小さなガッツポーズを決める。

扉は閉まり、する事のなくなったサイスは寝かされていたベッドにでも腰掛けて、時間が経つのを待とうと考えたのか。
室内へと視線を返した。



が、サイスは眉間に皺を寄せた。




何か、違う。
さっきと何か違う。




この室内に先程とは違う、妙な違和感を感じるサイスは大鎌を構えて戦闘態勢を取る。


サイスは直感的に感じていた。
あの、敵の気配をー…



「いつ来たんだよ……」



舌打ちを混じらせながら悪態をつくサイスは寒気さえ感じていた。
いつの間に侵入したのか、この敵は。



確かにサイスは、唯一の出入り口である扉を見張っていた。(遊びながらではあるが)


0組の目を掻い潜る連中はそういない。

それにここは朱雀領内…この敵はサイスだけでなく、ここに駐屯しているであろう朱雀兵の細かい包囲網をも潜り抜けているのだ。



サイスは扉に背を向ける。
背後を取られないようにする為と、敵の退路を絶つ為だ。



息を呑む空気。
目を光らせるが、敵の姿は捉えられない。

…近くにいる。
それだけが分かるのは、恐怖だ。



だが、この緊張の糸は
いとも簡単に切れる事になる。



サイスの背後の扉が開いたのだ。




「おらぁ!」




既に戦闘態勢だったサイスは、新たな侵入者に猛威を振るった。

確実に息の根を止められる距離。
サイスは勝利を確信した。


しかしサイスの想像と違い、響いたのは首が落ちる音ではなく、金属のぶつかる高い音だった。

サイスの一撃は阻まれてた。


その事実を知ったサイスは素早く扉を離れて距離を置く。
敵が手練れだと知れば、距離を置いて作戦を立て直すのが良策だからだ。




しかし、扉を開けたのは敵では無かった。



「…もう心配ないな」



そこにいたのは、濃紺の侵入者ー…
紛れもない、クラサメだった。



「はぁ!?隊長!?」



愕然とするほかないサイス。
まさかカヅサにやられた時に見た濃紺ー…。
あの時、助けに来たのが隊長だとは夢にも思わなかったからだ。

クラサメは元気に自分を襲ってきたサイスを咎めず、『彼』に声をかけた。




「助かった、悪かったな」



サイスは目を疑った。
クラサメが何か笑ってる。しかも満面の笑みというやつだ。



その間にクラサメはしゃがむ。
そして『彼』の頭を一撫でした。





トンベリの 頭を。




「どんだけトンベリ好きなんだよ!」



サイスは心の底から叫んだ。
トンベリはとても嬉しそうに尻尾を左右に振っている。



「トンベリのお蔭で私も死ななくて済んだ。撫でるぐらい、いいだろう」

「はぁ?…あんた自分で攻撃受け止めたんじゃないのか?」



クラサメはやっと立ち、サイスに視線を移しながら眉を潜めて告げた。



「トンベリが鎌の刃を止めてくれたのを、見ていないのか?」

「…素早い上に、優秀な警護だな……」



クラサメが強いのはトンベリの功労のお蔭でもあると思ったサイスは、力が抜けたらしくベッドに腰掛けた。

その様子を見たクラサメは、そう言えばと前置きしてサイスの隣を指差した。



「…果物は食べたか?」



……果物?


サイスは自分の隣に視線を合わせた。
そこには籠があり、溢れるほどの果物がそこにあった。

サイスは今日で何度目かの疑問を抱く。



「……今…隊長が置いたのか?」



クラサメはトンベリを抱き上げて、何もわからないサイスに言った。



「先にトンベリを部屋に送って、様子を見に行かせただろう?」







サイスは、
身体に稲妻が落ちたように感じた。





まさか、まさか。


あの時、扉が閉まらなかったのは





「トンベリ挟んでたからか……」

「何だ?」

「聞かないでくれ……」



頭痛でも何でもないが、額に手を当ててため息を吐くサイス。

横目でトンベリを見ると、何だか右頬が扉に挟まれたような跡がある。



…痛かっただろうな……



あの状況で無言を貫いたトンベリに感心するサイス。
そして何故自分がトンベリを敵視したのかという理由もわかった。



敵って……恋敵、か。



クラサメがトンベリを溺愛しているのは周知の事実であり、サイスの恋心が一方通行である理由だ。


そして妙な違和感。
あれはさっきまで無かった籠があるのに気が付かなかったから。
…気が付いていたら今に至らなかった筈だよな……



最初に扉を開けた時、も誰もいなかった訳じゃない。


体長が低すぎるトンベリが見えなかっただけだ。





トンベリは開いた扉を抜けて室内に果物を置こうとした時、あたしに挟まれるが無言で耐え抜く……


トンベリは扉に挟まれながら、あたしが扉を睨んでいる間を見計らい、隙をついてベッドに果物を置く。


トンベリが扉から出ようとした時、あたしが勢いよく閉める。


トンベリはまた開けてくれるのを信じて、あたしの足元に潜む。あたしはトンベリに気が付かずにピリピリする。


隊長が扉を開ける。
トンベリが出ようとしたとき、あたしの鎌が隊長を襲っていたから、防御に回ったー…




回想を終えたサイスは目線を下に向け、トンベリに詫びる。




「…悪かったな(色々と)」

「……………。」



トンベリは黙っていた。
サイスにトンベリの感情はわからない。


…トンベリは……隊長が無事なら、それでいいのかもしれない。



サイスはそう思った。
そしてこうも思う。



いつかあんたから
隊長奪ってやるからな。






6「首洗って待ってろ…カズサぁ!」
Title Sponsor,,,佐々木屋
残念ながら閉鎖されたようなのですが、リンクはそのままに。お疲れ様でした。



…ありえないですね(笑)
サイスが見落とす筈ないですね←

今回のお題は佐々木屋さんから頂きました!素敵なお題を拝見させて頂いて、ギャグが書けそうなお題をチョイスさせて頂きました(爆)
本当にありがとうございます!


さて、タイトルは『雑草並の踏まれ強さ』ですが…読者さんは作品の登場人物の中で、誰がこのタイトルに相応しいと思いますか?


懲りないカヅサ?
執念のサイス?
いろいろ痛いクラサメ?
ほんとに痛そうなトンベリ?

私はみんなそうだったらいいなと思います。え、みんななんて反則?←



ギャグっぽくない作品だと思います。
なんかもっとゲラゲラ笑えるのが書きたいですが、鼻で笑われるようなものしかかけません←

精進します(´・ω・)

読んで下さった読者さん!
誠にありがとうございました!

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