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聞かなければ、良かっただろうか。もし、どうして?と聞かなければ、その瞬間はもっと先だっただろうか。

そう考えたこともあったけれど、元々ランティスは律を妃にするために連れ戻したのだ。
考えても意味のないことなのだろう。



「何をする!嫌だっ!離せよっ!」

つい一時間ほど前々寝ていたベッドに横たえられ、拓人が上から見下ろしてくるのを、ただ罵声で拒絶するしかできなかった。指一本律の意思では動かせなかった。

腕を縛られているわけでもない。薬を飲まされたわけでもない。なのに、声を出す以外律の身体は何一つ言うことを聞かなかった。

これが拓人の言う王の証、特別な力なのかもしれない。


「逆らうだけ無駄だ。律……俺の力には誰も逆らえない。生まれたときから、こうなる運命だったんだ、律……愛しているよ」

「こんなことをするために俺を連れ戻したのか!」

妃なんてありえないとしか思えない。この世界がどうであれ、本当に律がルークという名で、目の前の少年が婚約者だったとしても、日本という国で律として過ごしてきた日々しか記憶にない。この世界の常識が信じられないし、信じたくもない。しかも真実とやらを教えられた次の瞬間がこれだ。

「そうだ…これ以上離れていられない。傍にいて守りたいんだ……これ以上あの異世界に置いておくことなんか出来なかった。本当だったら、もっと早く俺の物に、俺の妃になっていたはずだった」

アイスブルーの瞳に射抜かれて、身体の自由だけではなく言葉の自由さえ律は失った。彼の瞳にはそれだけの力があった。

拓人は律の服を脱がす前に自分の服を脱ぎ捨てていった。まだ顔立ちは少年らしさを残しているのと同様、その肢体も瑞々しさで輝いているようだった。
大人になりきれていないその身体はしかし鍛えられていて、律はこの時は知るよしもなかったが彼は力だけではなく、戦士としても一流だったのだ。

「ひっ!」

彼は自ら全てを脱ぎ捨てると、今度は律の番だった。一枚づつ剥ぎ取られるにつれ、段々と現実味が増していく。今まではまさかという思いのほうが大きかった。夢ではないかとも疑っていた。だが触れ合う体温は間違いなくこれが現実だと語っていた。

「そんなに怯えないでくれ」

きっと優しく微笑むように拓人は努力しているのだろう。でも怜悧な印象を与えるその顔では律を余計に怯えさせるだけだった。

「男だよ、男なのに俺っ!こんなことしても何の意味もないのに!」

やっと律は言葉を思い出した。拓人は律を話せない様にはしていなかったらしい。ただ律が暴れないように、その動きを止めていただけだった。それでも彼の壮絶なまでの美貌は、息さえできないように律を見つめるその視線には、律の言葉を失わせるだけのものがあった。

「律」

反論を繰り返す律の唇に拓人はそっと己のを重ねた。体温など感じさせない容貌なのに、その唇も熱かった。

初めてのキスが男、しかも幼馴染の少年なのにショックを受けている暇もなかった。キスは激しさを増し、息も出来なかった。避けようにも、避ける自由がない。
段々と下にその唇は移っていき、手でも荒々しい愛撫を施され、律は今一体自分が何をされているのか全く分からなくなっていた。

「律、お前の真実はこの姿だけではない。俺を受け入れ、俺に抱かれ、俺の子どもを生むんだ……俺の伴侶にして王妃、それがお前のあるべき真の姿だ」

「ひっ、何!どこを触って」

子どもを律が生む、それだけでも理解ができないのに、拓人に広げられた両足は不様で屈辱的、あるはずのない器官に触れられている。律だった頃にはなかったはずだ。

「律、ルークは男でも女でもある両性だ。分かるだろう?……俺を受け入れることができるのが。進化した一族……王族の中でも律は特別な存在だ」

「女……?俺が?」

「女でも、ある」

どこまで変わってしまうのだろうか。両性だから拓人の伴侶になって、拓人のこんな扱いを甘んじて受けなければならないだろうか。

「お母様……貴女が?」

夢で見た綺麗な女性。誰だが分からないが律は夢の中でお母様と呼んでいた。彼女が、ランティスの妃になるのよと言っていた。こんな理不尽な運命を決めたのは覚えのない母なのだろうか。兄よりも妹よりも記憶の奥にしか存在しない、幻のような女性。こんな時ながら、あの夢を思い出した。

「誰でもない。あの女は関係ない……俺が、律しか欲しくなかったから」

犯されると思った。何もかも否定され、幼い頃の思い出さえ汚されると。

「拓人、拓人お願い……それ以上されたら俺はお前を許せなくなる。一生許せなくなるんだ……ずっと一緒に過ごした日も全部捨てることになっても、それでも良いのか?」

ずっと幼いころ一緒だった大好きだった幼馴染。束縛する母がいても耐えれたのは、小さな身体ながら律を癒してくれた、拓人だった。

もし本当に自分が彼の伴侶となるのが定めだとしても、こんな無理に律の同意なしで暴こうなんてどうやっても許せない。


「時間がないんだ……もう十分すぎるほど待った。これ以上は待てない」

ごめん、と耳元で聞こえるか分からないほどの声で囁くと、何の躊躇もせず律を貫いた。悲鳴は上げられなかった。余りの激痛と最後のプライドのために。

この手さえ動けば体格差があり、例え抵抗が出来なくても、その頬を思い切り殴り飛ばしてやるのに、と拓人を睨み付けた。それが今できる律の精一杯の抵抗だった。
男か女かよく分からないこんな身体を抱くなんて、何が王太子だ、ただの異常者だと心の中で罵った。

拓人の高揚した顔に嫌悪しか感じない。

「やっぱりそんな顔で見られると思ったんだ……でもこうする以外道はない」
贖罪を求めるように律に縋り付くように抱きしめ、その激しさとは嘘のように優しい口付けだった。


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