エルウィンと温泉療養に出かけ、わずか数日でばれてしまい、鬱陶しい夫たちが追いかけてきた。
このどうしようもない夫にしてしまった年下の男、ギルフォードを許すしか私には術はなかった。
私たちの心中は実家の者たちとクライス副隊長には知らせておいて、気晴らしに旅行に出かけてくると出て行ったのだが。まさか二人が、王都壊滅未遂と国中に混乱を招き、なおかつ大量虐殺をしようとなど誰が想像できただろうが。
せいぜいが嘆き悲しんで、反省しろと思っただけだったのだ。
これで誰にも何も知らせないまま旅立っていたら、ユーリ隊長や部下一同による王都を守る行動は間に合わなかっただろう。

私たちも反省をした。国を巻き込んで演技をしてはいけないということを。
あっち側は国を巻き込もうが何も反省しないどうしようもない男で、私が死んでも自分の行動を省みようともしないのだ。最早どうしようもないだろう。

「エミリオ、僕の子ども産んでくれてありがとう!!!」

数時間にも及ぶ陣痛の末、私はギルフォードの子を産んだ。
悪阻が酷かった割には安産らしい。
安産だというのに、ギルフォードは始終おろおろと泣いて、エミリオが死んじゃったらどうしようなどと役にも立たないのに歩き回っていたそうだ。

「……貴様に似てふてぶてしそうな顔をしているがな」

うん、どう見てもギルフォード似だろう……生まれたてでよく分からないと言われればそうかもしれないが、ギルフォード似の黒髪にアメジスト色の目。生まれたての割りには天使のように整った顔立ち。
絶世の美貌のギルフォードに客観的に見ても似ているだろう。

ふてぶてしいなど言ってしまったが、本当に可愛い顔立ちをしている。
両親もこんな婿を……という顔をギルフォードがいるときは始終していたが、孫の顔を見たとたんメロメロになっていた。
きっとギルフォードも昔は天使だったのだろう。何を間違って変態絶倫天使になどなってしまったのか、摩訶不思議だが。

「エミリオにも似ているよ!将来エミリオみたいにカッコ良くなって、可愛いお嫁さんを貰うんだろうな〜」

私には欠片も似てなさそうなんだが。ぜひ可愛いお嫁さんを合意の上で連れてきて欲しい。間違っても強姦監禁をして孕ましたうえで、お嫁さんにしますと連れてこられた日は、死にたくなってしまうだろう。

ついでに言うのならエルウィンもやはり同日元気な王子を産んだらしい。らしいというのは会えていないからだ。
隊長の勘違いな焼きもちが発揮され、旅行先で一緒に風呂に入っていただけで、大騒ぎをし、浮気認定をしていたな……
お互い妊娠中にどうやって浮気をしろというのだ。しかしそれから頑として会わそうとしなかった。まあ、秘密のお茶会などをしていたが。

夜泣きもしていたが、ギルフォードが思いがけもなくいい父親振りを発揮して夜面倒を見てくれていた。
まあきっとポイントを稼いでいい父親をして見直してもらおうと、姑息な考えだろうが。
乳母を雇おうと言ったが、ギルフォードが反対したため子育てに結構忙しい。ギルフォードは自分が王子だったため、勿論実の両親が育てたわけではないそうだ。父親はたくさんの子どもがいてその上国王だ。普通に考えて自ら育てたはずはない。
だから自分の子は乳母ではなく自分たちが育てたいという主張に、反対はできなかった。
普段は変態なんだが、まあ言っている事は間違ってはいないと思う。今は休職中だが、それでもやはり自分たちだけの子育ては疲れるものだ。
ウツラウツラしていたら、お客様です……どうしますか?と執事の困ったような顔が目の前にあった。

「客?……事前に連絡もなしでか?」

うちは名門貴族だ。アポイントもなしで訪れることが許されるような家格ではない。余程の緊急の用でもなければありえない。

「それが……」

「ギルにそっくり!!!可愛いねえ!初孫だ!!!」

許可もなく部屋に入り込んできたのは、リエラの国王でありギルフォードの父親であり……わが子の祖父である男だった。リエラ国王がお忍びでたった一人(いや、背後に護衛の騎士が一人いたが)で孫に会うためにやってきたのか?

「国王陛下……何故ここに…」

「孫に会うために決まっているじゃないか!ずっと会いたかったのに、ギルフォードは私の手紙をずっと無視して、酷いよ!……可愛い!おじいちゃんですよ!」

おじいちゃんという言葉がとっても似合わなそうなリエラ国王……物凄く若く見えるし、ギルフォードにも似ている美貌は息子の父親と言っても誰も疑わないだろう。

「エミリオ、孫を産んでくれてありがとうね!名前何て言うの?」

「ギルバードです……」

うちは代々父親から名前を貰ってくるのが伝統なので、ギルフォードに良く似た名前だ。

「ギルバードかあ、カッコいい名前貰ったね。次の王に相応しい名前だよ!連れて帰っていいよね?」

「ちょっと待ってください!何連れて帰ろうとしているんですか?ギルバードはうちの跡継ぎです!リエラの国王なんかにはなりませんよ!」

「そんな!だってギルの息子が次の国王になるんだったんだよ!?なのに勝手に婿に行っちゃったんだもん、孫くらい頂戴よ!」

「駄目です!って、何でギルフォードの息子が次の国王なんですか?あいつは第四王子でしょう?他に三人も王子がいるんだから、他の王子が跡を継げばいいでしょう?」

何で三人もギルフォードの兄がいて誰も子どもがいないんだ?ギルフォードはまだ22歳になったばかりだが、兄たちがまだ若いしこれからいくらでも子どもはできるだろう。
ギルフォードの子どもに拘る意味が分からない。


*ギルたんの王位継承権の謎編ですw



- 67 -
  back  






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -