昨日、俺はクライスと結ばれた。それについては当然だとしか思っていない。
勿論感慨深いし、幸せだった。でも、なるべくしてなったわけで、むしろこれまで他人だったほうがおかしかったのだ。

俺は、狂っているといわれるほどクライスを愛している。
他人から見たら俺は確かに狂っているのだろう。クライスに言われるまでもない。
この国の国民で、強姦は一番軽蔑されることだし、見つかれば問答無用で処刑される。
俺がしたことは、クライスからしてみると強姦らしい。俺も否定はしない。
でも、俺以上にクライスを幸せに出来る人間なんかいないと思うんだ。俺はごく当たり前の行為をしただけであって、他人からどうこう言われる筋合いはないと思っている。

クライスと一夜を過ごした彼の家から城に戻った。普段俺もこの城にいることは少ない。
仕事柄、城につめていることが多いし、少しでもクライスの側にいたかったからだ。
でも今日は欲しいものがあって、戻ってきていた。公爵家に伝わる、秘薬を手に入れるためだ。

こんな平和な国で他国に比べたらかなり性に厳しい国だったが、うちの家系は少し異なる趣を持っていた。
遡れば数代先の当主まで活発にしていたことがある。それは花嫁を略奪してくることだ。

公爵家の男子は、高い魔力と特異魔法を持って生まれることが多い。
これは過去、魔力の高く特異な魔法を持ち主を見つけると、有無を言わせず浚ってきて、子どもを産ませていたのだ。
ただご先祖を擁護するとしたら、ご先祖様たちも花嫁ただ一人を大事にして、ただ一人の妻として扱っていたんだから、悪いことじゃない。
何代にも渡って続けられた結果、公爵家にしか生まれない特異魔法が定着していった。
今は他家から花嫁を迎えてもその血は薄まることはない。もし家の命令で、花嫁を奪略して来いなんて言われたらたまったものではないから、先祖には感謝をしている。

でも今でも花嫁はできるだけ魔力が高い男が好まれるので、クライスはその条件にぴったりと合う。
誰にも反対されない、素晴らしい花嫁の素質を持っているクライス。そのクライスにプレゼントしたいのが秘薬だった。



「来るな!」

怯えているのだろうか。昨日、処女だというのに何度も抱いたせいかもしれない。もう少し加減をすべきだったかもしれないが、俺も昨日までは童貞だった。クライスの身体に溺れて、クライスの身体を気遣うことができなかった。

「ごめんね、クライス……俺、昨日配慮が足らなかったよね。クライスは処女だったのに、やりすぎちゃったし。俺も下手だったかもしれないし……段々上達するように努力をするから許してくれないか?今日は媚薬を持ってきたんだ。これがあれば、俺が上達するまでクライスを痛い目に合わせないですむし、気持ちよくなれるよ?」

誘拐されてきた花嫁たちに処方された媚薬を目の前に出す。

「昨日は、これ使いたくなかったんだ。だってクライスには実感して欲しかったんだ。俺という男を受け入れたって……俺に抱かれたっていうのを身体で感じて欲しかったから使わなかったんだ。でも、しばらくは使ってあげるから」

ご先祖たちは誘拐してきた花嫁を閉じ込めて、魔力でがらん締めにして、媚薬で夫が居ないと駄目な身体にして、逃げられないようにしていた。

クライスはなかなか頑固だ。抱いたら結婚してくれるかと思ったら、絶対に死んでもしないと言い張るし、だったら俺がいないと駄目な身体にしたい。そして俺の子を孕んでもらって、いくら拒んでも結婚してもらう。

クライスは薬を使うのは嫌がったけど、可哀想だけどクライスが俺に勝てる要素なんて何もない。
俺が相手じゃなかったら、クライスは大抵の人間には負けないだろう。
でも俺に勝てる人間は、この国では兄さんくらいだろう。戦略を立てれば兄さんにも負けない自信はある。だからクライスが抵抗をしたって、無駄なことなんだ。

最後は俺に抱かれることになるんだから、大人しく身を任せてくれれば良いのに。でも、適わないと分かっていて、それでも諦めないクライスは可愛いと思う。


「よくやったな!ユーリ。素晴らしい花嫁を連れてきてくれて嬉しいよ」

妊娠したクライスを連れて公爵家に戻ってくると、両親から祝福の雨が降ってきた。陛下からも、このまま兄が結婚しなければ俺が王位を継いで、クライスとの間に生まれた子を次の王太子にしようとまで話が来ていた。

「まだ早いですよ……クライスが結婚誓約書にサインをしてくれてないしね」

クライスは想像妊娠だと思い込ませているので、妊娠していないと思っている。けど、間違いなくその腹には俺の子がいた。
クライスを妊娠させるのは俺の長い間の宿願だった。クライスが俺の子を妊娠してくれて凄く嬉しかったんだけど、クライスは俺に内緒で子どもを処分しようとしていた。
俺も妊娠したらさすがのクライスも観念すると思っていたけど、どんなことをしてもクライスは俺と結婚したくなかったらしい。
なら俺もどんなことをしてもクライスと結婚しようと思う。

「お前の精神制御魔法は効いていないのか?」

「少しづつ効いてきているみたいなんですけど、まだまだ我が残っているのかな?でも、俺のこと段々好きになってくれていて、もう少し時間をかければ結婚してくれると思います」

両親は俺にとても良い魔法をくれた。勿論、両親が好んでそうしたわけではない。ただの偶然だけど、段々と俺に心を許してきてくれるクライスを見ると、この魔法があって良かったと感謝していた。

「まあ、子どもが産まれるまでに結婚してくれれば良いだろう。流石に生まれたらお披露目しないわけにはいかないが、それまでなら大事な子を産んでくれるということで、内密にしておくことは出来るからな」

クライスが産む子は、今この国で最も高貴な身分になり得る子だ。次の王太子か、または公爵家の跡継ぎのどちらかには必ずなる。
だから無事生むまで俺たちの結婚を内密にしていてもおかしくはない。生まれるまでにサインをさせれば大丈夫だ。
両親もとてもクライスのことを気に入っている。クライスは魔力に秀でて家柄もよく、容姿も文句なく美しい。元々は兄の妻にどうかと思い副官として移動させたらしいが、その網にかかってしまったのは俺だった。

普通の家庭だったら、結婚前に妊娠していてなおかついまだに結婚に了承を得ていない場合、廃嫡されるだろうし、内緒で処分されるだろう。しかし、公爵家は普通ではない。略奪してもなんでも、本人や家族が幸せならそれで構わないし、それだけの権力がある。

俺の無茶も非難するどころか、よくやったと褒めてくれる父親だ。母は略奪されて結婚したが、元々両思いであり特に異論もない。

本当にとても良い家族だと思う。


「クライス、気分は良い?」

城の一室に閉じ込めたクライスの元へ行った。だいぶお腹が大きくなっていて、本人もおかしいとは思っている。でも、俺が気のせいだよ、想像妊娠だというと、納得する。
愛しているよというと、もう拒否はされない。大人しく俺の愛の言葉を受け取ってくれる。最近は俺に愛されたほうが幸せなのかもしれないと言ってくれている。

「ねえ、クライス。両親もクライスのご両親も早く結婚したらどうかって言っているんだよ。俺もちゃんと責任を取りたいんだ……クライスの純潔を奪った責任を。だから、そろそろイエスと言ってくれないか?」

「……でも」

俺を見つめる目は、嫌悪で彩られてはいない。

「どうして俺と結婚してくれないの?……クライスはこの前、兄さんを好きでいるより俺に愛されているほうが幸せかもしれないって言ってくれただろ?」

抱きしめると甘い匂いがする。俺の子どもを身篭っているからかな。年上だけどクライスはとっても可愛らしい。
そんなクライスに何度も結婚承諾書をサインさせようとするが、最後の最後で戸惑ってサインしてくれない。
余程クライスの精神力は強固なのだろう。
普通だったらとっくに精神崩壊しているレベルなのに。

「仕方がないな……もう少し気持ちの整理に時間がかかるんだよね?俺の妻になるための」

日が経つにつれ、段々とその心が俺に侵食されてきているのが分かる。もうすぐだよ。



「クライス……クライス似の子の調子はどう?」

無事に俺の子を産んでくれて、今は二人目の子を身篭ってくれている。
俺に反抗的なクライスもとっても可愛いけど、俺の子を妊娠してくれていて、俺にとっても従順なクライスも期間限定でとても愛らしい。

「ユーリにそっくりかもしれないけど?」

「いや、今度はクライスに似ているはずだ。俺にそっくりに生まれてきても何にも面白くない」

まあ、クライスの腹から俺そっくりの子が生まれるのは、それはそれで良いかもしれないけど。やっぱり1人くらいはクライスに似た子が欲しい。

「でも、俺に似たら、また作ればいいから」

作る過程も楽しいし。妊娠すればするほど俺に依存してくれる期間が長くなっているし、いずれはこの魔法が解けなくなる日も来るかもしれないしね。

「俺の子をたくさん産みたいよね?」

「産みたい」

二児の母親になるとは思えないほどの美貌と純潔さを、俺は生涯でで何百回目になるか分からないけれど見惚れた。
少し前、クライスのつわりが終わった頃、王城で開催された舞踏会に参加した。あまり行きたくもなかったが、貴族のたしなみの一つだ。時期公爵家の跡継ぎともなれば、つきあいで参加しないわけにも行かない。
クライスを伴って参加したが、クライスの美貌に惑わされた男の始末が鬱陶しかった。
俺も陛下へのあいさつや、他の貴族とのつきあいでほんの少しだけクライスを一人にしてしまったのがいけなかった。反省している。普段はとても強いクライスだが妊娠している間は無防備になってしまうのだ。
クライスに一人目ぼれした隣国の貴族が、俺の妻だとも知らないで無理矢理部屋に連れ込もうとしたのを見た瞬間……俺はやつの精神破壊をしてしまったのだ。頭に血が上ったせいだ。
俺の特異魔法は、禁断魔法とされている。使用しているのがばれたら、流石に無事ではいられない。
仕方がなく、精神が破壊されたのではなく、妻に手を出そうとした男を処罰したと正々堂々とした理由で殴り飛ばし、その結果その男は死んだ。こういう場合は処罰は受けない。
この国では既婚者には合意の上でも手を出したら、夫から殺されても文句は言えない。合意でもなく無理強いしたのなら、どのみち死刑だ。
たまにこの国の風習をろくに知らないまま、他国からやってくる馬鹿な貴族が居て困る。しかも、俺の妻に手を出そうとしてただで済むはずはないのに。

勿論俺がその貴族の男を殺したところで誰にも批難はされなかった。むしろ愛妻を守ったことに喝采を受けた。
お見合い結婚や政略結婚もそれなりに貴族の間ではある中、俺とクライスはこの上なく愛し合っている夫婦だと有名だしね。

「たくさん産んで欲しいけど……この前みたいなことがあるとちょっと心配だな。俺の子を身篭っている間はクライスは自分で自分の身を守れないし。俺も仕事がなければずっと一緒にいてあげたいんだけど」

普段は強気な性格がにじみ出ているが、妊娠している間は儚いような守ってあげたい雰囲気を感じさせ、俺以外の男の欲情もそそるようだ。

「やっぱり、皆に見せないのが一番だよね?ずっとこの城にいようね?」

軟禁宣言だけど、反対する人は誰も居ない。

「早く生まれないかな……俺ね、前回できなかったこと今回したいんだ。させてくれる?」

勿論クライスは何でもやらせてくれる。正気に戻るまでね。前回は生後3ヶ月ほどしたら戻っちゃったけど、今回は半年くらい持つかな?

俺は兄さん夫婦のことは全く羨ましくないんだけど、兄さんでもやったことを俺はしていない。

クライスの母乳を夫の俺が味わったことがないなんておかしいよね?

だから早く生まれてこないかな?


END
ユーリ視点第二段。
最早自分の欲望のためなら何でもありの旦那様でした。

おまけ★
私はある国では高位の貴族だった。そして美しい男に目がないとも有名だった。
ある国でとても好みの男を見つけた。私は気に入った男なら既婚者だろうが処女だろうが必ず手に入れてきた。
側近からはこの国では慎んでください、生死に関わりますからと言われたが、私ほどの名門に生まれ金もある男なら、何をしても許されるはずだった。
そうこの日までは。

美しい男は妊娠しているらしく、周りから気を使われていてなかなか一人にはならなかった。夫らしき男が常に側にいて、離れなかったのでなかなかチャンスがなかったのだ。
しかし気分が悪くなったのか休憩室に行こうとしたところを運よく見つけ、連れ込もうとした。
が、か弱い妊夫のはずが、有無を言わせず回し蹴りをくらい、顔面にパンチを何度も受け、瀕死の状態になってしまった。
魔法で防御する暇も全くなかった。
なぜ、こんなに、妊夫が強いのだ……生死をさまよっているうちに、今度は夫らしき人物がやってきて目線が合い……
私は死んだ。精神的に殺され、最後には止めの一撃をくらい、ご臨終となったらしい。

この夫らしき人物が私を殺したと思われているが、ほとんど妻によって完膚なきまでに叩きのめされ、男は止めを刺したに過ぎない。
私は知らなかった。その妻はこの国でも10本の指に入るほど強く、攻撃的な男であり、あれだけの美貌があっても誰も怖くて手を出せなかったのだと。

夫がこの国で1,2を争うほど強い男であり、私の家など比べ物にならないほどの名門の家であり、伯父は国王で、父は公爵で、兄は王太子だと。知っていれば当然手を出そうとは思わなかった。

私の家が私を殺されてことを抗議してくれるかと願ったが、この国は武力に秀でており、私が死んだことなど誰も気にもしてくれなかった。
こうなったら霊となった私は悪霊となっても、あの夫婦に仕返しをしないと気がすまなかった。
だって私がしたことといえば、あの妻を部屋に連れ込もうとしただけであり、全くの未遂だったのだ。それで殺害は酷すぎるだろう。

私はその夫婦の住む城へ行った。なんて豪華な城なのだ。
こうなったらあの夫婦を呪い殺して復讐するしかない!
いや、あの妻は妊娠していた。お腹の中の子どもにとりついて、この家を乗っ取ってやっても良いかもしれない。
前世よりも良い暮らしが出来るだろう。

そう思い夫婦の元へとたどり着いた。

「クライス、ごめんね。一人したせいであんな低俗で嫌らしくて下劣な男に触らせて……」

「ユーリが守ってくれたから平気だ」

イチャイチャイチャイチャイチャイチャ……
ってそこの妻! 守ってもらうほど弱くはないだろ!その一撃でほぼ半死状態だったぞ!ハイキックや連続殴打!妊夫とは到底思えない強さ!

「クライスは人妻で子どもまでいるのに、美しすぎるんだ!……子どもを二人妊娠させたのにっ!全然俺のものになった気がしないっ!もう他の男たちには見せたくない!」

「ユーリが嫌なら、もう誰にも会わないし、見せないから!」

イチャイチャイチャイチャ……おい、妊娠しているんだろう!?産まれるまでそういうのは控えるべきじゃないのか!?
え?安定期なら良いのか?
おい、息子がママに会いたいって言ってるのに、ママとパパの大事な時間だからあっち行っていなさいって?
なんて大人気ない父親なんだ!?
確かに綺麗だけど凶暴で夫のことを盲目的に愛している母親と、有り得ないほど強いが妻を監禁して満足するような変態な父親との間に生まれてきたくはない!!!

かといって、呪い殺すにもこの夫婦が強すぎて無理だ……仕方がないから大人しく成仏して、来世ではこの夫婦に関わらないように遠くの国で生まれたい。

可哀想に、あのお腹の中にいる子どもはとんでもない両親を持っている……と同情しながら、その男は成仏していった。

イチャイチャが霊を成仏させた、前例のない事態だった。しかしその霊は知らない。
お腹の中の息子は父親に顔も性格もそっくりの良く似た将来性のあるゲスであり、この夫婦の間に生まれたことをとても誇りに思うような、誰も見ても父親似であることを。




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