とうとうこの日が来てしまった……

「エルウィン、よく来てくれたね。一度会いたかったが、アレがなかなか君を見せたがらなくてね。あの恋愛に全く興味のなかった男が、恋を知るとああなってしまうとは、想像もつかなかったがね」

「……恐れ入ります」

目の前にいる男性は、この国の国王陛下だった。どうして俺が陛下とお会いしているかというと、正式に隊長が次期国王になることが決定し、俺も次期王妃になることになったため、一度顔合わせがしたいと陛下から申し出があったのだ。
もう陛下ももうすぐ60歳になられる。そろそろ正式に跡継ぎを……と考えるのも仕方がないだろう。

その跡取りがあんな夫で申し訳ありませんと土下座した気分だったが、どうやら隊長の評判は議会や大貴族たちからは悪くないらしい。実直で有能だったという実績があるし、国民にも人気が高い。

これは隊長が率いる第一部隊が必死になって、事実を隠蔽してきたからである。事実の隠蔽といっても、別に隊長が賄賂をもらったとか、不正をしたとかそういう事実はない。隊長のあまりの変態っぷりを部隊一丸となって隠し通してきたからである。
あんなに虐められて(一部の隊員)、変な規則まで作らされて(全員)、それでも隊長を慕っているのは、彼の人徳かもしれない。

あれでも、なんとなく憎めない人柄ではある。俺もあの性格はどうかと頭を悩ませているが、嫌いかといわれたら、嫌いではない。ただ……尊敬できなくはなったが。

「もう少し早く、あれに王座を譲りたかったが、何分、何時までたっても結婚してくれなくてだな。何度か私の娘と結婚しないか?と仄めかしたのだが、全く興味がないのでこのままではどうなるか心配だったのだが、跡継ぎまで作ってくれて、安堵したものだよ」

王女様と隊長が結婚か……まあ、それが陛下にとっては一番だろうが、国王の伴侶は男性が好ましいとされているので、あまり強くは勧められなかったのだろう。俺としてはさっさと隊長が王女様と結婚していてくれれば、俺が次期王妃になどならなくて済んだのに。

「しかしだな……ちょっとだけ懸念事項もあるのだよ」

「何でしょうか?」

俺の家柄が相応しくないとか、俺が王妃はちょっと……と言うことだろうか。しかしいくら陛下とはいえ、離婚させることはできないしな。離婚させてくれても構わないんだけど。

「エルウィン、君はまだ、1人しか子どもを産んでいないだろう」

「はい……」

なんだか嫌な予感がする。

「私が言うのもなんだが……後継者は一人では不安が残る。その一人がまた王女しか作れなかったということもあるし、病気や暗殺や戦死する可能性もある。従って、もう一人二人子どもを作ってはくれないだろうか。幸い、君とあれではかなり相性がよく、出来やすいと聞いたのだが」

陛下の言うことは、間違いではないだろう。陛下はお二人も子どもがいても、王女ばかりで後継者にはできなかった。息子も女性と結婚したがる可能性もあるだろうし、隊長のように恋愛に興味がなく結婚しないまま終わってしまう可能性が0というわけでもないだろう。

それに王子にもなれば暗殺や、不慮の死もありえる。もう一人、二人王子がいて欲しいという陛下の願いは、客観的に見れば当たり前だ。


「こればかりは、授かりものですから」

「しかし、まだ2回しかこなしていないのだろう?出産後はまだ皆無だと」

これが隊長相手だったら!張り手をかますのに!陛下相手では出来ない……しかし陛下がなぜ、2回しかしていないことを知っているんだ?まさか!

「……陛下もしかして、隊長が」

圧力をかけたんですか?国王陛下まで使って、俺とエッチがしたいんですか?
それは確かに結婚して一回(婚前前に一回)の計2回は酷いかもしれない。散々色んな人からもっとやらせてやれと言われたし、自分でもありえない事をしているという自覚はある。

結婚前はあれほど怖かった隊長が、ふたを開けてみたらああだったせいで、少し気が大きくなっていたのもあるが、拒否していたらやらずに済んでいた。
副隊長からも、部隊のため、国のため、そろそろ許してやれといわれて覚悟をしたつもりだったが、それでもあの変態さに嫌気がさしてまだやってはいない。

自分の性生活が、隊長が口が軽いせいで部隊中に知れ渡っているのは分かっていたが、まさか国王陛下にまで伝わっていたとは思いもしなかった。
しかも、この様子だとさぞかし俺が鬼嫁で隊長を虐げている悪者だと思っているのだろう。

隊長も国王陛下からの命令なら、俺も言うことを聞くしかないと思って、言いつけたのではないのかと疑心暗鬼に駆られた。

「いや、その、あれが言いつけたわけではなく……国王となったとき、王妃と不仲ではいかんだろうとな」

それはそうだろう。だから俺なんかと結婚しなければ良かったのに。



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