「今日、産後一ヶ月検診だったんだ。俺もアルトも健康で問題ないって」
「そうか、良かったな」
と、ロベルトは俺に膝枕をして寝た。
「どうしたんだ? マリウス、そんなに泣いて」
「メリアージュ様……俺、もうロベルトに飽きられたんです……」
泣くまいと思っていたのに涙があふれてくる。メリアージュ様に心配かけるのに。
「飽きられただって? ロベルトがマリウスに? それは無理があるだろう?」
「だって……昨日、一ヶ月検診で……何も問題ないって言われたんです。だから……抱いてくれると思ったのに、ロベルトはすぐ寝てしまって。もう二人も子どもを産んだ俺に興味がなくなったんです」
俺はロベルトを身体で誘惑したから、心で愛されたいたわけじゃない。だから妊娠中も手を出されなかったし、出産後も魅力を感じなくなってきたのだろう。
身体しか価値がなかったのに、飽きられてしまってはロベルトを繋ぎとめるものなんかない。
「ったく、どうしてうちの男たちはこう淡白で精力がないんだ!! ロアルド! お前はその精力がないのをロベルトに遺伝させたのを申し訳なく思え!!!」
「え、えええ?? いえ、その私は世間一般に比べれば充分精力があるほうかと……そうでなければメリアージュ様に何日も付き合えるわけがなく……」
「黙れ! お前の方から求めてきた事があったか? 妻が抱かれたいと思って期待してベッドの中に入って待っているのに、ロベルトのやつ、マリウスに恥をかかせやがって。それもこれもお前に似たからだ!!!」
「メリアージュ様! お義父様は悪くありません!……俺が魅力がないから……ロベルトに飽きられる俺が悪いんです」
ロベルトの愛しているなんて言葉を真に受けて、こうして義両親にも優しくしてもらえて、身の程をわきまえると言う事を忘れていた。
ロベルトは元々仕方がなく俺と結婚し、俺の命を助けるためだけに結婚生活を続けた。結婚した時の状況を考えれば婚姻無効もできただろう。けど、俺の境遇に同情をして、守ってあげないといけないと義務感があったんだろう。
そのうちにアルベルが産まれて、婚姻無効もできなくなって。
初めは俺のクライスに少し似た顔が好きでいてくれたのかもしれない。けれど、所詮俺なんかクライスの足元にも及ばないし、顔が綺麗なだけならすぐ飽きてしまうだろう。
「いや、ロベルトが男気がないだけだ! 俺が叱ってやるからマリウスはそんなに泣くな」
「良いんです……メリアージュ様に縋って、夫に抱いてもらうなんて……そんなことできません。ロベルトが可哀想です……俺、出て行きます」
「ちょっと落ち着きなさい。ロベルトも昨夜はひょっとしたら疲れていただけかもしれないし、マリウスに飽きたと思うのは早急だろう。こんな美人な妻に」
「精力の無さをロベルトに遺伝させた男は黙っていろ!!! 出て行くって言ったって、どこに行く気なんだ? 実家に戻るわけにも行かないだろう?」
確かに行く所なんかなかった。実家からは当に縁を切られていて、弟に頼ろうにも、弟は夫と揉めているのに頼るわけには行かない。友人たちとはロベルトを強姦した時に縁が切れている。
騎士時代に貯めたお金は全てナナに慰謝料として渡してしまったし、あとは専業主婦をしていたから、ほとんど自分のお金というものはない。
「前…住んでいた家に戻ります。あそこはまだ売っていないみたいだし……ロベルトも手切れ金代わりに、あの家ならくれると思うので」
「そ、そんな。たかが一回ロベルトが抱かなかっただけで出て行くなんて。それも、求めて断わられたという訳じゃないだろう?」
「そうだ! 出て行くとしたら嫁の心を思いやってやら無いロベルトのほうだ! 乳飲み子かかえて、追い出せるわけは無いだろう! マリウス、どうしても出て行くというなら、こっちの城に来い」
同じ敷地内で家庭内別居をするなんて、何か意味があるのだろうか。けれど、お二人とも俺の事を心配してくれていて、一人で子ども達を連れて出て行くのを見ているわけにもいかないんだろう。
「マリウス、精力の少ないのを遺伝させてしまってすまない。ロベルトはマリウスに飽きたわけじゃなくって、メリアージュ様の言うように私の精力のなさを受け継いだだけなんだよ。今でも間違いなく君の事が好きだから安心しなさい」
「そうだ! 決してお前に飽きたわけではなく、ロベルトは精力が無くて、仕事で疲れていただけなんだろう。男にはそういう時もある!!! 今夜はロベルトから獣のように欲しがるように、マリウスお前を着飾ろう!」
そういうと、メリアージュ様はジブリールのお店と言う所に連絡を入れると、王家・公爵家御用達のオートクチュールのお店というところから、ジブリールという騎士がやってきた。
商人兼騎士?
ロベルトとは部隊が違うが同じ分隊長だそうだ。
ただでさえ役に立たない妻なんだから、ロベルトの同僚に恥をかかせてはいけないと思い、メリアージュ様にお任せをしていた。
「精力のない夫でもハッスルするようなセクシーな下着をくれ。ちなみに着るのはこの美人の嫁だ。この美しさを際立たせるような下着を所望する!」
「……あの…よろしくお願いします」
「……あのロベルトさん、淡白だったんですね。意外です。ああいう方ってむっつりスケベっぽいように見えるのに」
ロベルトが淡白なだけではなく、俺がエッチなのかもしれない。
他の妻は夫に抱かれなくて悲しいなんて思う人はいるんだろうか?
俺だけだったら恥ずかしい。
「マリウスさんは、色が白いから……勿論清楚な純白も似合いそうですが……旦那様が精力がないのなら、今晩は意外性を求めて黒か紫でどうでしょうか?」
「そうだな、黒が良いだろう。あとは、マリウスの髪の色に合わせて銀糸の刺繍を入れた純白のもいるか。デザインは何がある?」
「これがカタログ集になります。セクシー系でなおかつ清楚なのを取り揃えておりますので、お気に召していただけると思います」
「これなんか、どうだ?」
「そうですね、若奥様に良くお似合いになるかと」
「ん? こっちのカタログ集は何だ?」
「こちらは、P用下着という少しジャンルが違う物になるのですが……実は、最近パイパンを好まれる旦那様が増えていまして……私の作る下着はアンダーヘアが逆にエロスを誘うデザインにもなっておりますが、このP用下着はパイパンの方専用のデザインとなっております」
最近、そんなのが人気なんだ。俺は外に出ないから最近の流行も知らない。
ロベルトもして欲しかったのかもしれない。だけど言い出せずに俺に興味を失ったのかな……
「あ、あのこれ下さい!!」
「マリウス? これはP用らしいぞ」
「魔力も戻りましたし、ロベルトが喜んでくれるように手入れします! 俺の努力が足りないからロベルトが飽きたのかもしれないし」
元々俺は銀髪だからほとんど目立たないし、実は量もほとんどないけど……でも、ロベルトが喜んでくれるように綺麗にしよう。
「そうか……前向きで良いな。では、このP用下着も何枚か頂こうか。マリウスに似合うのを見繕ってくれ。あとは、ロアルドにも何枚か」
「メ、メリアージュ様!!!! これは奥様用下着で、夫の私には不要です!!」
「黙れ! セクシー下着を夫が着けていけないという法律はない!!! お前は今ちょうど浮気できないようにパイパンにしてあるのだから、このP用下着を着けろ!!! 俺がプレゼントする物を受け取らないつもりか!!!???」
「そ、そんなわけではっ……」
「なら黙っていろ」
「お、奥様。流石にこの下着は旦那様には似合わないかと思います。下着を愛する私からしてみると、せっかくの美しい下着が台無しになるのは可哀想です。よろしければ、他国で使用されている褌というものを取り入れ開発しました。こちらはいかがでしょうか? 股間を心地よく締め、男らしく強調し、そして美尻をヒップアップしてくれる効果のある夫用下着、褌でございます」
「こ、これは!!! 素晴らしい!!!!! あるだけくれ!!!!!」
「メ、メリアージュ様!!!!! ま、まだ未使用のままの前掛けがたくさんあるのに、そんな褌などを……」
「お前に似合うと思って買ってやるんだ!!! 文句を言うな!!!」
「ありがとうございます。ではお会計はこちらになります」
な、なんか家一軒が買えるほどの金額を提示された。メリアージュ様に言われるがまま何枚も下着を注文してしまったけれど、一点もので銀糸とかシルクとかを使っていれば、それは高いだろう。こんなにお金を使ってもらうわけにはいかない。
「メリアージュ様、こんな高い物っ」
「気にするな。嫁に下着一枚買ってやらないケチな義両親じゃない」
「ですが……こんなにするなんて」
「マリウス、気にしなくても良いんだ。大半は私の褌代金だし……それにメリアージュ様のお小遣い(R・M商会の売り上げ)から出してもらうので、伯爵家から出すわけじゃないし。勿論、マリウスは次期伯爵夫人だから伯爵家から出したって良いんだ。だがメリアージュ様の気持ちだ。受け取りなさい」
「でも……」
「マリウス、お前は俺たちを実の両親のように思ってくれているんじゃないのか?」
「……お二人が俺の本当の両親だったらどれほど幸せかって思っています」
「なら、子どもは甘えることも必要だぞ? 甘えておけ」
「はい……」
メリアージュ様、なんて優しいんだろう。本当に俺の親だったら、きっと魔力が低くても分け隔てなく育ててくれたんだろうって思える。
俺の本当の母親は……何時も、俺は顔を見ないようにしていた。だってあの人の顔は俺を嫌いと言うよりは全く興味がなかった。あの人の視線は俺は何の価値も無い人間だと言っているも同然だった。だからどんな顔をしていたかも、もうほとんど覚えていない。
メリアージュ様のように凛々しい顔じゃなかったのだけは確かだ。凄く儚げで、父を見るときだけは、誰が見ても幸せそうだって顔をしていたことだけ覚えている。
「お母さまって呼んで欲しいが、クラレンスの妻を思い出して嫌なら無理強いはしない。だがこれからは親を母親だと思って、遠慮はするな! 親はな、子どもに色んな物を買い与えて甘やかしたいんだ」
「はい……メリアージュ様」
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