第二子を妊娠し、だいぶ体型が変わってきたので着る物を買おうと王都で有名なお店である、R・M商会にやってきていた。
ロベルトも一緒に行こうと言ってくれたが、妊娠用の下着や服などを買いたかったので一緒に来られるのは恥ずかしい。だからアルベルをロベルトに任せて一人買い物に来ていた。

「う〜んと……ブラはっと」

妊娠しているとどうしても胸が敏感になるため普段は着けないブラは必要になってしまう。勿論授乳用も必要なのでそれらの物を探していた。

「夫用ブラ?……何で夫にいるんだろう?」

本人に自覚はなかったが、マリウスは箱入り息子である。そのため何故夫用ブラは販売されているのか、需要があるのかなど知りはしない。
ただ物珍しさがあり、そして何故か皆夫らしい人が夫用ブラを買っていく。

―――ロベルトにも必要だろうか。買って行ってあげた方が良いのかな?

「奥さん、その夫用ブラ、今大人気なんですよ! ぜひ旦那様にお一つ」

という店員に進められて、ついロベルトに夫用ブラを購入してしまった。


帰りにパン屋によってナナさんに、夫用ブラのことを話した。

「ナナさんは、アーセルに夫用ブラなんか買ってる? 俺、夫用ブラなんてはじめて見て、人気だからって薦められてつい購入しっちゃったんだけど」

よく考えれば騎士団に所属していた時に、そんなブラを着ているの見た事なかったと思う。本当に人気なのだろうか。

「僕はアーセルには着けさせていないけど、僕も結構お客さんから聞くよ。人気あるって」

「え? やっぱりそうなんだ……妊娠していれば使うけど、正直なんで夫にブラが必要なのか分からないんだけど……」

「そのブラR・M商会で買ったんでしょう? あそこ、ちょっと大人向けの商品がたくさん並んでいるんだよね。なんでも世間の夫は、妻に虐められたいって言う人が結構いるらしいんだって。行為の最中、奥さんに乳首を虐めてもらいたい夫がつけるブラらしいよ」

「え! 乳首を虐められたい夫用なのか?」

俺は別にその最中、マグロっていう訳じゃない。けど、やはりロベルトがリードするし、ロベルトに愛されていると夢中になって感じているばかりで、たくさんロベルトの奉仕をしてあげれているわけじゃない。

「そう。乳首を抓ってもらったり、舐めたり、重りをつけたり、とか妻に虐めてもらって快感を得ている夫が世間には一定数いるらしいよ」

「それって……ナナさんも、アーセルさんにしてあげているの?」

「やめてくれ、マリウスさん! 俺はそんなことナナにさせてない! ただ、まあ、世間にはそういうの喜ぶ夫もいるらしいというのは否定しねえ」

「それってロベルトもなんだろうか……」

俺はロベルトをベッドで満足させれているか、不安だった。このナナさんからロベルトを奪ったのだ。ナナさんよりも妻にして良かったと思えるような、妻になりたい。

「このR・M商会っていうのは噂で聞いたんだが、とある高貴な方が始めた商会らしい。夫を満足させてあげたい妻が、夫への愛を込めて開発した商品の数々らしいぞ」

「……」

同じ貴族の妻が、夫にそれだけのことをしてあげている。
しかも俺は今妊娠中でロベルトを満足させて上げれているか余計分からない。

マリウスは知らない。他の同じ貴族階級の大半の妻たちがマグロだということを。そして夫を全く愛していないという事を。
ロベルトは羨望の的なのだということを。
妻に愛され、妻に奉仕されるということがどれほど偉大だと思われているか、知る由もなかった。

ロベルトの実の父親からも、息子はあんな美人で可愛い性格の子をお嫁さんにできて、なんて羨ましいんだと思われている事もだ。

「ロベルト様は高貴なお家柄だろう? 伯爵家だったっけ。なら、俺たち庶民とはまた違った趣味があるかもしれないな〜」

その後、俺はR・M商会にもう一度立ち寄って、売れ筋の商品を何点か追加購入して家に戻った。



「アルベル、ただいま〜。アルベルはママに似て、ますます可愛くなるな」

「親馬鹿だろ……」

長男は普通は父親に似ること多い。例外は勿論あるけれど、アルベルは確かに俺に似ていると思う。俺はロベルトに似た子が欲しかったけれど、アルベルは魔力は俺に似なかったので、良かったと思う。今お腹の中にいる子は今度こそロベルト似だと良いなとは思っているが。

ロベルトが帰ってきて、晩御飯を出す。

せっかく色んなものを買ってきたけれど、結局俺はどうやってロベルトに奉仕をしたら良いか分からず、かといって誰に聞いたら良いか分からないままずっと温存をしていた。ナナさんやアーセルに聞くのは流石に恥ずかしいし、部隊だったころの知人はロベルトにつつ抜けになりそうだし。
夫婦円満で名高いクライスに聞くのも、無理だ。

弟に聞くのは恥ずかしいというよりも、あの完璧な弟は俺と違って夫に愛されていて、愛情を疑ったことなどないだろう。クライスなら夫に奉仕してあげようなどと考えなくても、夫の心はクライスの物なのだろうから。だから、余りにも俺との違いに落ち込んでしまいそうで聞けない。

となると、俺は誰にも夫に何をしてあげたら良いか分からなくなる。

しかし店員にこの夫用ブラはどう使ったら良いかと使用方法を訊ねたところ、乳首を舐めたりかじったり抓ったり洗濯はさみではさんであげたりして、そのあと乳首を保護するためにブラを着けてあげてくださいと言われてしまった。
本当にそんな使い方をするのだろうか。しかし物凄く売れているというのでやはりかなりの需要があるという事なのだろう。

第二子を欲しがり、強請ったのは俺だ。クライスみたいにできればたくさん俺は子どもが欲しかった。子ども数だけ愛情の証という訳じゃない。逆に妻を熱愛する夫はできるだけ生ませる子どもの数を少なくするという話も聞いたことがある。
だけど俺はロベルトの子どもをたくさん産めば、それだけ俺がロベルトに少しでも必要とされている証のように思えるのかもしれない。

だけど妊娠したことでかなりロベルトに我慢をさせてしまっている。

押しかけ妻な俺が人より勝っているのは、クライスに少し似た普通よりは少しだけ整っている顔と、体だけだ。それがなくなったら俺なんか、ロベルトにとって何か価値があるのか分からない。

「ロベルト……なあ」

「ん? どうしたんだ?」

入浴もしてあとは寝るだけになり、俺はアルベルを寝かしつけて夫の元へ向った。
ロベルトは俺を抱き寄せてもう寝るだけになっていた。

「その……ごめん、最近相手してやれないだろ? ……だから」

ロベルトのシャツをゆっくりとあけて手を伸ばす。

「良いよ。まだ安定期じゃないんだし、気にするな……って、おい!」

えっと、乳首を舐めて噛むんだよな?

ロベルトの胸に口を寄せようとして、物凄い勢いで引き離された。

「マリウス! 何をしようとしていたんだ!?」

「え?……そ、その」

ロベルトは物凄い怖い顔をしていた。俺がロベルトにどれほど迷惑をかけてもこんな顔をされた事はなかった。

「乳首を……」

「乳首を?」

「…世の中の夫は乳首を攻められたいんだって……言われて。ロベルトを満足してあげたくて……」

「はあ……」



何故だかロベルトは物凄く落ち込んだような顔をした。

「その……このブラも使ってもらうと良いって言われて……」

「マリウス……お前、俺がブラなんか着けて似合うと思うのか?」

「え?……似合わない?」

どうだろう。想像できない。

「着けてほしいと思うのか?」

「……あんまりかっこよくないと思う」

「だろう?……ごめん、俺なんか……乳首にトラウマがあるんだ。昔、父が母の作ったブラを着けていたのを目撃してしまって。あれから俺は……」

「ご! ごめん!……そんな、俺……知らなくって」

よく分からないけど、ロベルトは乳首もブラも駄目みたいだった。

「その!……R・M商会で人気の品だって聞いて、俺ロベルトが喜んでくれるのかなって思ってしまって」

「あのな……R・M商会で売っている商品のほとんどが妻が夫に喜んでもらおうと作って、夫が泣いて嫌がって使ってくれなかった商品を陳列してある……らしいぞ」

「そうなんだ……知らなくってごめん……」

「俺はマリウスで満足しているし、正直、俺は何かされるよりも、マリウスが俺で感じてくれているのを見るのが好きなんだ。だから、へんなことは考えずに今のままでいてくれないか?」

「……そうなのか?」

「ああ……今のままのマリウスを愛しているんだ」



そんな息子にトラウマを与えたR・M商会の責任者は。

息子夫婦に自分が作ったブラが与えた波紋を当然知らないし、知ったとしてもどうでも良いと思っているだろう。
何故なら、彼は夫をストーカーすることが最重要事項なのだから。

R・M商会とは、夫から拒否された物が並べられている商会なのである。

しかし何故か伯爵家の財源の中でもかなりのシェアを占めるようになり、夫は帳簿を見る度に複雑な顔をするようになったのであった。


「メリアージュ様……お願いですから貞操帯をはかせるのはやめて下さい! 私の下半身は貴方様に忠実です!」

「いやこれだけははかせる! 俺以外に勃起すらさせてたまるか!」

マリウスは知らない。義両親が国内で最も可哀想な夫であり最も嫉妬深い妻だと言われているのを。


END




- 235 -
  back  






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -