「兄さん、これ異世界の着物と言う服なんだ。正月三日目だけど、今くらいまでだったら着てもおかしくないみたいだから、ロベルトさんに着て見せてあげたらどうかな?」
弟のクライスが異世界の服というのをくれた。
「これを着て……え?」
クライスが置いていった服の着方を見ていると、説明書に姫初めという儀式で使用すると書いてあった。
いわゆる、新年を迎えての初めての……というらしいが、もう三日目だ。とうにロベルトと抱き合う事はしていた。
「クライスもこの着物と言うのを着て、姫初めというのしたのかな……?」
俺から見ると弟は完璧な男だった。頭が良く主席で学校を卒業し、出世街道を走り、魔力に秀でて、カリスマ性もあり、仕事も出来、それでいてとても美しい容貌。
だけど、あれだけ優秀だったのでずっとクライスは妻を娶って侯爵家を継ぐのだと思っていた。そう父も望んでいたはずだった。
だが蓋を開けてみたら、公爵家の跡取り息子と結婚しもうすでに3人も子どもを産んでいる。確かに弟はとても美人だが、男に抱かれる姿は想像もできない。だけど子どもを産んでいる以上そうしているんだろう。
あのクライスがこんな着物を着てユーリ隊長に抱かれているなんて……
「マリウス? なに赤い顔をしているんだ」
「え? お、おかえりロベルト……何でもないんだ」
「クライスが来ていた様だな。どうした、もしかして虐められたのか?」
「クライスはそんなことしない」
クライスは昔から俺には優しかった。両親のように無視したりもしなかった。どちらかというと俺のほうが避けて生きてきた。最近クライスのほうから仲良くしたいと思ってくれているのか、よく遊びに来てくれるようになった。よその兄弟みたいに仲良くなかったから少し戸惑うけど。
「分かっている。だけど、クライスがいるとお前の両親まで又出てくるかもしれないと心配になるんだ……何だ、このカラフルな布は」
「着物っていう民族衣装みたい。クライスが献上されたものをくれたんだ。何かの儀式に使うものらしいけど」
「儀式?……姫初めね。面白い行事だな……けど、もう終わってしまったしな」
説明書を読まれてしまって、面白そうな顔でロベルトが笑っていた。
「残念だな、異国の行事が出来なくって……でも、二回目でもいけないってわけではなさそうだな? この着物を着て俺に見せてくれるか?」
「クライスなら似合うだろうけど、俺なんかじゃ……」
こんな華やかな色の民族衣装似合うとも思えない。こんなものをロベルトは俺に着せたいのだろうか。
「マリウス、お前は綺麗だって言っているだろう? クライスはただ表舞台に立っているから目立っているだけで、マリウスだってクライスに負けたりしない。俺にとっては世界一綺麗な奥さんだ……ほら、着てみてくれ」
ロベルトは何時もそういってくれるけど、俺にクライスと同じだけの価値があるなんて到底思えない。
クライスも着物を着て夫としたのかと思うと、弟と同じことをするのかと恥ずかしくなる。
「俺の奥さんは本当に恥ずかしがりやだな。一番初め、俺に乗っかってきたマリウスはどこに行ったんだ?」
「そんな昔のことを言われても……っ、俺も、どうしてあんなことができたか分からない」
一番初めの時の事は俺にとって思い出したくも無い黒歴史なのに、ロベルトは意地悪く何度もそのことを揶揄してくる。
忘れて欲しいと何度頼んでも、大切な初夜?の思い出なのにどうして忘れなければいけないんだと言われ、それならせめて口には出さないで欲しいのに意地悪く時々からかう様に言われる。
これ以上からかわれたくないので、大人しく着物を着ていく。勿論ロベルトには見えないようにだ。
けれど着物の着方が良く分からないので、羽織って前を自分の手で押さえてロベルトに助けを求めた。
「着方がよく分からない。この帯っていうの、どうやって締めるんだ?」
「ん? そうだな、確かに難しい……説明書読んでも良く分からないな」
しょせん異世界の衣服だ。習った専門の着付け係がいれば大丈夫だろうが、ここは王宮や公爵邸ではない。俺もロベルトもやり方がわからない。
「まあ、帯なんて締めなくてもいいだろう。羽織っているだけでマリウスの肌の白さが目立つし、どうせ脱いでもらうんだ。構わないだろ?」
「……うん」
ロベルトに抱かれるのは嫌じゃない。ロベルトを俺だけの物にできた気がして、抱かれている間は凄く幸せだ。
本当だったら俺の物にならなかったはずの人だ。
無理矢理奪った俺がこんなに幸せで良いんだろうか? と思う瞬間も何度もある。
けど、俺はもうロベルトを自分から手放す気力が無い。ロベルトが俺を捨てない限り、どんなに卑怯でもロベルトの側を離れることはできない。
「んっ……あっ…ん」
「マリウス? 気持ちがいいか?」
「ん……ロベルト、好き……」
「俺も愛している、マリウス」
ロベルトはいつも俺に言葉をくれる。愛しているって何時も言って俺を安心させてくれようとする。
愛しているって言われると、ロベルトの物を受け入れた場所が疼いて堪らなくなる。でも俺のほうが100倍以上愛していると思う。
「ん、あっ……ああ、だ、誰か来たみたい」
下の階からノックをする音が微かに聞こえてきた。この家に訪ねてくる人なんて実家と絶縁した今ほとんどいないのに、誰なのだろうか。
「気にするな、放っておけば帰るだろう」
「でもっ」
「こんな状態で出迎えれるはずないだろう?……マリウスは今抱かれていましたって顔だし、俺は痛いほど張り詰めているからマリウスの中で出してもらうまで無理だ。両方とも出て行けるはずないのは分かるだろう? 無視しておけば良い」
そう言われ、部隊での緊急のようなら魔法で連絡が来るはずだし、うちに来る人の中で事前に連絡もよこさず来る人はいないと思いロベルトの言うように、そのまま無視することにした。
俺も得体の知れない訪問者よりもロベルトと一緒にいたほうが良いに決まっているから。
ロベルトは本当に格好良い。俺を抱いてくれるときの真剣な顔は毎回見惚れるし、夫婦になってもう何年も経つのに未だに抱かれるときは恥ずかしくて堪らない。
「マリウス、異世界にはこの着物という衣類の他に新年にお年玉という行事があるらしい。良い子にしていたご褒美にプレゼントをあげるらしいんだ。マリウスは何か欲しいものはないか?」
抱かれたばかりで疲れて眠り入りそうだった俺にマリウスがそう聞いてきた。抱きしめてくれて優しく頬を撫でてくれている。
「欲しい物? 別に何も無い」
「何も無いのか? 家も新しいのをと言っても要らないと言われるし、何かマリウスに贈りたいんだ。欲しい物1つくらいあるだろう?」
家は……だって、結婚してからずっとこの家だし、実家に比べたら凄く小さいが手狭でもないし新しい家なんて要らない。
いずれロベルトも実家に戻る日がくるかもしれないけど、その日まで小さな家で家族でひっそりと暮らしたいと思っている。
ロベルトはもっと大きくて豪華な家に住まわせたいと言うが、俺には必要ない。
「……クライス、この前3人目が生まれたんだ」
「ああ、聞いているし祝いも贈っておいた」
「俺……クライスより赤ちゃんできやすいはずなのに、クライスはもう3人もいるのに俺はアルベルだけ」
クライスのほうが先に結婚したし、第一子も勿論クライスのほうが先だ。
アルベルを産んだときにクライスは第二子を妊娠していた。それなのにもう第三子を産んでいる。
「子どもが欲しいのか? マリウスは産みたくないのかと思っていた」
「そんなことは……」
「そんなことは言っていなかったけど色々悩んでいただろう? アルベルはお前の気持ちがつかないうちに妊娠させたし、出産した後も色々考えた事は知っている。ただアルベルはどうしても産ませたかった。そのほうがマリウスも俺に愛されているって身をもって感じてくれると思ったんだ」
妊娠中は凄くロベルトに迷惑をかけた。俺がうじうじと悩んでいて、泣き言ばかり言っていた。出産後も実家のゴタゴタもあってこんな俺と結婚して迷惑ばかりかけているってまた落ち込んで。
「だからマリウスの心の整理がつくまで少し子どもは間を置いたほうが良いかと思ったんだ……それにアルベルはすぐに孕ましてしまったせいで新婚期間が殆どなかっただろう? 俺にもマリウスを独り占めさせてくれる時間が欲しかったんだ」
ロベルトが蕩ける様に甘い目で見てくるから、俺は恥ずかしくって何も言い返せなかった。
「マリウス、俺の子を産みたいか?」
「……産みたい」
ロベルトの赤ちゃんをたくさん産めれば、それが愛の証のような気がして。
たくさん子どもを産めば、ロベルトは俺のことを捨てないような気がするから。
「なら、クライスに負けないくらい産ませてやる。おいで……」
俺は請われるままロベルトに身を任せ続けた。
新年のロベルトの贈り物を受け取るために。
******
その頃の玄関の前
「アルベルにお年玉を持ってきたのに、確かにいる気配はするのにどうして出てきてくれないんだ? (´; ω;`)」
ノックとチャイムをしてはや一時間。ずっとドアの前に立って、孫にお年玉をあげるのをずっと待っているが、待てども待てども玄関のドアが開く事はなかった。
「お正月くらい孫にお年玉くらいあげさせてくれても良いはずなのに…… (´; ω;`)」
異世界の風習、着物とお年玉が今年のトレンドなのだが、その機会を与えてくれる息子ではなかった。
「嫁に似合いそうな着物も手に入れてきたのに……」
「そうか、ではその着物は俺が着て奉仕をしてやろう……なあ、旦那様?」
「(((((((( ;゚Д゚))))))) お、奥様、どうしてこの場所がっ」
「陛下に新年の挨拶をしてくる嘘などお見通しだ! そんなに美人の嫁が正月から見たかったのか?……」
翌日、マリウスがロベルトを見送った時に謎の血反吐が玄関にこびりついていた。
「この血ってなんなんだ?」
「お正月でテンションの上がった老人が怪我でもしたんだろう。気にするな」
END
お年玉=赤ちゃんねw
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