「おじ様……結婚するって本当ですか?」

「まあね……兄さんが探してくれた相手なんだ」

婚約披露パーティーに周りの人たちは準備に奔走し、私だけが支度をしてしまったら暇だった。
同じように幼い甥も特にする事がなかったのだろう。私が兄の嫁ぎ先の城の中で一番お気に入りのバラ園でお茶を飲んでいると、探してきたのだろうかエミールは私の結婚の事を問い始めた。

「おじ様は、妻になるんですよね? その人のことを愛しているんですか?」

エミールはまだ12歳になったばかりだ。兄と侯爵の一人息子で、とても大事にされて育っている。きっと結婚にも夢があり、私が愛し合って結婚するとでも思っているのだろう。
まだこんな小さな少年なら当たり前だし、うちの国では貴族でも恋愛結婚が多い。お見合いする事は多々あるけれど、お互い好きになって結婚することがほとんどだ。
そんな中、王族とはいえ、純粋に政略結婚というのも珍しいだろう。

「うん、そうだな。愛せるようになると良いかな、と思っているよ。エミールのお母様が選んでくれた人だからきっと素敵な人だと思うよ。きっと幸せになれると思う」

これは本当にそう思ってのことだった。これまで私は人を好きになるということがなかった。きっとこれからもないと思う。
だからこそ兄が紹介してくれる人と結婚する気になったのだし、兄が紹介してくれる人だ。間違いはないと思っている。
兄は嫁いだが、通常王族なら婿入りもあるが、兄が私の性格がおっとりしているため、婿に入ると苦労するかもしれないため、嫁いだほうがよいだろうと夫を選んでくれた。
なんとなく家族の言うとおりの人生を歩んできたため、夫でも妻でもどちらでもかまわないくらいとしか思っていなかった。

「おじ様が……好きでもない人と結婚するのは嫌です」

「……そうだね。エミールの夢を壊しちゃったかな?」

「どうして、愛してもいない男の妻になろう何て思うんですか?」

まるでエミールは責める様に、私に詰め寄った。どうしてと言われても、良い縁だったからとしか言いようがない。

「エミールも大人になれば分かるよ……大人になれば色んなことを諦める日もくるんだ」

兄にすすめられたら断れない。何時までも王族が独身でいたら外聞が悪い。
両親も兄も、普通の結婚をすることを望んでいる。
それらを拒絶する気力もない。

「僕はっ! もう大人です!」

「ははっ……まだエミールは12歳だろう? エミールはつい先日まで赤ちゃんだったのに?」

エミールが生まれた日のことを覚えている。私は末っ子でずっと弟が欲しいと思っていた。もう14歳になっていたが、エミールが生まれてくるのを物凄く楽しみに待っていたのを覚えている。
丸々とした赤ん坊が生まれて、この日まで唯一の甥っ子として可愛がってきた。まだ背も小さく、平均的な12歳よりも幼く見えるエミールがもう大人だと言い張ると、自然と笑みが浮かんだ。

「僕は! もう身体は大人ですっ! 子どもだって作れます!」

「……そ、そうなんだ」

エミールの言いたいことがわかった。要するに精通を迎えたと言いたいのだろう。確かに大人の仲間入りをしたといえるかもしれない。
けれどそんなことで大人になれるわけではないのに。精一杯大人の振りをしているエミールが余計に可愛く思えた。

「エミールは好きな子と結婚できると良いね」

「そんなの無理なんです……だって、僕よりもずっと年上で、僕と結婚できない人で、結婚が決まっているんだっ!」

「……そういうこともあるよ。いつも人生って上手くいくわけじゃない」

「僕は嫌だ! 諦めるなんて、できない!」

エミールを慰めようと思った。何時ものように、撫で様とした手を、何故かエミールが掴んで……

「おじ様……ごめんなさい。でも、おじ様がいけないんだ。結婚なんかしようとするからっ!」


それからは、殆ど記憶が残っていない。
エミールが私を責める言葉を言ったことだけは覚えている。
バラ園の庭で、エミールに押し付けられて、頬が芝生の草に当たって痛いと感じた事も。

エミールは魔力が高い。私よりも余程だ。きっと優れた騎士になれるだろうし、良い当主にもなれるだろう。

「おじ様なんか、結婚できなくなれば良いんだっ!」

エミールはバラ園に私を残したまま、いなくなった。

私は引きされたままの衣服をまとって、バラ園に一人……倒れていた所を発見されたらしい。




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