「ロベルトのご両親ってどんな人たちなんだ?」
「両親?……どうしたんだ急にそんな事を言い出して」
「だって俺……一回もあいさつにも行っていないし。普通、結婚したのにご両親にあいさつもしない嫁なんかいないよな。アルベルだって生まれたのに顔を見せにも行っていないし」
普通は結婚前に顔合わせをする。結婚式に参列してもらう。結婚して何年も立つのに、義理の両親の顔も知らないなんてことは有り得ない。しかもこんな貴族階級で。
「まあ、俺たちは結婚が急だったし、マリウスは俺のことを夫だって認めてくれていなかったからしょうがないだろう?」
一年も手を出させてもくれなかったし、と言えば、顔を赤らめて俯いていた。
俺の奥さんは本当に可愛い。
「まあ、俺の父には会っただろう?」
「でも、変装していたし、実際に名乗りあったわけじゃないし……孫の顔を見たかっただけだろうに、顔をみせにも行かなかったのは良くないよな……今からでも顔合わせとか……したほうが良いんじゃないかと思いだして」
これまで頑なに自分の殻に閉じこもっていたマリウスからしてみたら、物凄い進歩だが正直要らない気遣いだった。
両親は別段俺たちの結婚に反対していない。父などはマリウスを見て一目で気に入ってしまい、同居したい、同居したいといっているが……あの父は本当はマリウスのような妻が欲しかったのを知っているので、あえて合わせようとは思わない。
そして母は……
子どもの頃一人で朝食を取っていると(勿論メイドや執事が給仕してくれるので不自由はない)父の部下が家に訪ねてきたものだった。
「ロベルト君……お父さん、お仕事来ないんだけど、病気かな?」
「いいえ……父上は、母上に監禁されています」
「……そうか、何時もの事か……有給理由:監禁っと……では、朝からすまなかったね」
「いいえ……」
父の有給消費理由は全部理由は監禁だった。妻が監禁されているという話はよく聞くけれど、夫が監禁は僕の家くらいしか聞いた事がなかった。
どこの家庭でも父親は殴られ監禁されているものだとばかり幼い頃は思っていたが、小学校に行くようになるとそれも違う事が分かり……
「ロアルド! どうせお前は俺みたいな暴力妻なんかよりも、可愛くっておしとやかな子と結婚したかったと今でも思っているんだろう!」
「違います! 奥様! 本当です! 奥様のことを愛していますっ!」
「信じられるか! お前なんかもう仕事を辞めろ! 領地の経営だって俺がやってやる! お前は一生寝室で俺の帰りを待っていろ!」
「そんな無茶苦茶です! 私にはメリアージュ様だけなんですから、信じてください!」
ボコボコにされた父を母が引きずって行って、ベッドに縛り付けて馬乗りになっている姿を見てしまい……なんとなく、トラウマを感じさせた。
「父上……僕は優しくって、綺麗で、おしとやかな子をお嫁さんにしたいです…できれば、儚げで守ってあげたい子が良いです」
「そうだな……私も、そう思った時があったな……」
母上に父上を見張っていろと言われて、僕は監禁されている父上を見張りながらそう言った。
「なんで母上と結婚したんですか?」
「……いつの間にかそうなっていたんだ」
「母上のこと好きじゃないんですよね?」
「いや、私はメリアージュ様のことを愛しているよ」
いつも、私は奥様のことを愛していると、妻に弁明している父だったが、皆嘘だと思っていた。息子の僕もだ。
「メリアージュ様はな、本来だったらとても私の妻になるような方じゃなかったんだ」
魔力こそ父上のほうが高いのは分かるが、大部分その他では全てが母上が勝っている。
剣術や魔法の技、魔法の発動時間、スピード、総合力で明らかに母上のほうが強い。
何故、母上が父上の妻になったか誰が見ても不思議だろうが、僕には分かる。母上は父上がとても好きだ。好きだから、弱い父上の妻になったんだ。
「母上はな……地位も名誉も全部捨てて、私の妻になってくれたんだよ。メリアージュ様の性格だったら妻になどなれないだろうに、そんなプライドよりも私への愛を選んでくれたのだ……強引に私と結婚してしまったせいで、母上は自信がないのでこんな行動を取ってしまうだけだ。母上には信じてもらえないが、そんなメリアージュ様を私は愛しているのだ」
父上……言っている事はとても素敵なんですが、全裸で拘束されている状態で言っても決まりません。
「殴られて監禁されていても気にしないんですか?」
「……それがメリアージュ様の愛なんだ」
「優しくされたくないんですか?」
「……メリアージュ様に優しくされたほうが怖い(((( ;゚д゚)))」
離婚できないこの国でもDVは離婚できる数少ない理由の一つだ。夫が妻に暴力を振るっていたら離婚できる(性的強要・監禁などは含まれない)が、妻が夫に暴力は離婚の原因にはならない。だって普通は夫のほうが強い。妻が暴行するなど有り得ない事態なのだ。
僕の両親だけ……ちなみに僕の両親は世界記録も持っているらしい。
魔力が近いと子どもができないのだが、僕の両親はほとんど魔力の差がないと言っても過言ではない。父上のほうが若干だけ高い。
この差だと今までの例でいうと子どもはできないらしい。
けれど僕が生まれたので、世界で一番魔力の差がない状態で子どもを作った世界記録として登録されているらしい。
そんな子ども時代を思い出しながら、マリウスに母のことを何と説明しようか迷った。
純粋に怖い人で夫に暴力ばかり振るっている……と説明しようものなら、きっとマリウスが妻だと認めてくれないような怖い義母親だと思い落ち込むだろう。
「母は……」
とても強い人だと言おうものなら、ロベルトのお母さんが魔力が強いならこんな魔力の低い俺なんか反対されるよな、と言い出すだろう。
母が規格外なだけで、俺の魔力からするとマリウスより魔力が高いと妊娠し難いから、マリウスで丁度いいくらいなのだが……
「母は……父をとても熱愛していて、父だけいれば、あとはどうでも良いという性格だ」
たぶん、副隊長まで上り詰めたのに簡単に仕事を辞めたのも、責任ある仕事をしていては父のストーカーができない、または父のストーカーをしていたら副隊長として示しがつかないと思ったからだろう。仕事よりもプライドよりも、母は父を愛している。
「そうなんだ……俺の母と似ているな」
え? マリウスの母親と? それはきっと想像しているのと全く違うだろう?
俺はマリウスの母と会ったことはないけれど、母のように常に捕食者の目で父親を見張って、シバキ倒すような性格では間違ってもないだろう。
「俺の母は……父上さえいれば、息子のことなんか目にも入らない人だった……俺にもクライスにもあまり興味はなかったと思う。俺のことを嫌っていたのも父上が俺のことを嫌いだったから……クライスを愛したのも、父上がクライスを愛したから……あの人の世界には父上しかいなかった」
だからお互いの家族の話題は嫌なんだ。どうやっても必ずマリウスの馬鹿な親が連想されてしまう。
俺の両親も、特に母は父しか見ていないが、だからと言って俺を蔑ろにしていたわけじゃない。一緒に父を捕獲しに行こうと、母と旅に出たり(父が母の愛に耐えかねて家出したことがある時)、父を一緒に監禁したり(別にしたかったわけじゃない)仲は良かったと思う。
だがマリウスの両親は、それでも親か? と言いたくなる様なことしかしていない。
俺がマリウスに愛情をどんなに注ぎ込んでも、親のせいでまるで底のない植木鉢に水をやっている気分だ。それが苦痛という訳じゃない。ただマリウスが可哀想なだけだ。
「俺の母は違う……そうだな、息子の俺がいなくなって第二の新婚時代を楽しんでいるんだ。邪魔をしたら逆に怒られるだろうな……息子の人生は息子のものだと思っているから、変に干渉したりしないし……どうしても会いたければ、時機を見て顔合わせの席を設けるから……今は子どもを元気に産む事だけを考えてくれ」
「……分かった」
「俺の両親はマリウスの両親と違う……会えば、きっと母上も可愛がってくれるはずだ。母上は面倒見のいい性格で部下からも尊敬されていたんだ(父のことを除いて)。心配しなくていい」
嫉妬深いが父がマリウスのことを可愛く思っているからといって、マリウスをいじめるような母ではない。父は虐待するだろうが……
「そうだと……良いな」
「マリウスは可愛いな」
「なんだよっ、突然」
子どもは母親に似た人を愛すると聞くけれど……俺の母は
「ロベルトが二人目の子どもができたって連絡があったぞ……俺とロアルドの血を引く子が増えるのは目出度いな」
「は、はい奥様、そう思います!」
「お前は、可愛い嫁の血を引く孫が増えて嬉しいだろう? 俺もアレくらい可愛ければよかったと思っているのだろう!」
「そ、そんなことありませんっ! メリアージュ様もとても凛々しくて素敵ですっ!」
「なら、何でロベルト以来子どもができないんだ!? 貴様の愛が足らないからだっ!!!」
そ、そんな無茶苦茶です! (´;ω;`)むしろ、ロベルトができたことじたい奇跡で、愛があったことの証拠なのに!
そんなことまで嫁と張り合わないで下さい!
「もう一人仕込むまでここから出さないからな……覚悟しろ!」
こんな母なので、とても母に似た人を愛する気にはなれませんでした。
*お正月以来ずっと監禁されているパパでした
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