小説(両性) | ナノ

▽ 王国物語 1


 俺は今妃を探す旅に出ていた。元々婚約者らしき人はいた。幼馴染の令嬢だっだ。

 だが、年頃になって、話しが具体的になってきた時、俺は言ってはいけないことを言ったらしい。

 彼女だったら幼馴染で気心も知れているし、今さら他の婚約者を作るのも面倒だと思った俺は『あいつで良いよ』と言ってしまったのだ。ここで『彼女が良い』と言えば良かったらしいが、言ってしまったものはどうしようもならない。『で』と『が』の違いはあまりにも大きく、幼馴染の機嫌をおおいに損ねてしまったらしい。

 俺に女心を求めても無意味な気もするが、家族からも多大なブーイングを貰い、彼女の代わりに妃を貰ってくるまで城に帰ってくるなと追い出されたのだった。

 王子とはいえ、自由気ままに育てられた俺。僅かばかりの供しかいなくてもとくに不自由はしない。むしろ退屈な城生活から開放されてハッピーだったが、そろそろ従者たちが妃を見つけろといって煩い。

 俺は別に城に帰れなくてもたいして不満はないが、従者たちはさっさと城に戻りたいらしい。

 という訳で、俺は大陸の中心地、ライル王が治める大国に来ていた。ここで妃を見つけるという名目だったが、本当はこの王国の秘密図書がお目当てだったりした。他国を攻めて宝や貴重な書物が山ほどあるらしいからな。

 俺の国も中々の大国だが、この王国には流石に叶わない。伝統と文化だけだったらうちに叶う国はないが、この国は交通の要所だから入ってくる税金が半端じゃない。なので、この国の王族か大貴族の令嬢でも射止めれば、国の五月蝿い親父たちも文句はいわないだろう。

 まあ、妃なんか本の二の次だったが。

 一応俺も大国の王子なので、正式に申し込めば王国の城への出入りも簡単だ。

「あのー・・・・お妃様を探すんじゃなかったんですか?ユイン殿下」

「うるないなあ・・・本読んでいるの見てわかんないのか?」

 従者その1は城に入ってから王家所有の図書館に入り浸っている俺に、一々うるさい。しょうがないだろ?まだ俺15歳なんだし、本当はまだ妃なんかいらないんだよ。

「そうは言ってもですね・・・」

「あ、あれ、誰だ?」

 文句ばかりを言う従者その1から話題を逸らそうと、図書室の片隅で誰かを捜す素振をしている男を指差す。

「あ、あの方ですか?王子もお会いになったことがあるのでは?この国の王ライル陛下です」

 言われればあの黒髪に見覚えがあるような・・・・ないような。

「王子がまだ小さい時でしたけど、うちの王国に滞在していたことがあるんですよ。たしか王子が10歳くらいだったような気がしますけど。ライル王も王子と同じくうちに王妃を探しに来ていたようなんですけど、年頃の姫君がいなかったみたいで、結局誰も選ばないで帰ってしまったんですけどね」

「ふーん・・・」

 そんなこともあったような気がしてきた。妙に威圧感のある男だなあって思っていたんだよな。そういえば。

 あ、こっちに来た。

「ユイン王子!」

 え?俺。

「ユイン!君から会いに来てくれるなんて!嬉しいよ!」

 え?なんか、王、異様にハイテンションじゃないですか?俺としては殆ど初対面なような気分なんですけど。

 恭しく手を取られると、口付けを落としてくる。これって・・・うちの王国じゃあ、求婚の際にする仕草や、最愛の人に送る作法なんですけど・・・この王国じゃあ違うのかな?・・・俺作法に詳しくないから分からないや。

「あ、あの・・・お久しぶりですライル陛下。ずうずうしくも滞在の許可を頂いています」

 ううーこれで挨拶としては合っているかなあ?自分の国の作法だけでも苦手なのに、他国の作法なんてもっと苦手だ。

「他ならぬユインに許可など要らないよ。しばらく、南の国境の視察に行っていてね・・・私がいればすぐにでも持て成したのだが、何か不自由はなかったかな?」

 なんか異様に高待遇です。国境も少しだけど接してるし、お互い大国同士だからかなあ?とも思ったけど、なんか異常なほど接近していないですか?王陛下。

 それからしばらく王の接待を受けた。俺としては本を読みたかったけれど、王自らの歓待だ。受けないわけにはいかないだろう。ちなみに今夜は俺のために夜会を開いてくれるらしい。

 正装を持ってきていないからと断わったが、王が用意するとまで言われたら流石に断れない。そういえば変なことを言ってなかったか?ライル王。

 約束の期限よりも早く来てくれて嬉しいとか・・・・なんか俺約束したのかな?記憶力はいいはずなのに思い出せない。

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