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「いったい、皇太子殿下はどなたをお望みなのですか?」
元老院や皇后の推す相手は全部拒否し、好きな相手が良いと言う皇太子に、ユインも含めて身分が低い相手なのだろうと思っていた。
貴族の令嬢以外でユインが会う相手だとしたら、城で働く侍女くらいしか思いつかない。侍女が『成人の儀』の相手では、やはり賛成を得るのは難しいだろう。
「私は欲する方は、ユイン陛下です」
皇太子が指名した相手は身分は低くない。むしろ身分だけはこの国で一番高い。
だが、皇太子の相手を皇帝が務めるなど、ありえない。
ざわめく元老院たちに皇后。だが、最も理解ができず呆然とライルとその母の言い争いを聞いていたのはユインだった。
「何を言っているのです!ライル」
「お相手を陛下になど!できるはずもありません」
「何故?禁止はされていない」
確かに、皇太子の相手が皇帝では駄目だという記述はどこにもない。だが、普通は皇太子の父親は皇帝なので、わざわざ禁止するまでもなかったことなのだ。
「前例がありません!」
「前例は作るものだ」
「許しませんよ、ライル!ユインは今でこそ皇帝の座にいますが、もともとはただの庶子。そんな者をライルの儀式の相手になど!」
皇后は怒り狂っている。息子の相手に由緒正しき娘をと、一番頑張ってきた母親だった。ユインは嫌われているんじゃなくて、ただの下っ端としか思われていないため、そんなユインを大事な1人息子に、という思いだろう。
「なら、『成人の儀』はしない」
『成人の儀』をしないということは、皇帝になる資格が得られないということで。
「皇帝にもならない」
なれないということになる。
それで良いのか?と無言の圧力をかけるライル。
一同、皇后まで黙った。
みな、由緒正しき皇帝を迎えるのを、この15年待望してきたのだ。ここでライルが即位を拒否すれば、また血統が途絶えることになる。
みな不服だが、認めざるを得ないという空気が漂っていた。
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