小説(両性) | ナノ

▽ 14


事件の処理は部下に任せて、皇太子とユインの護衛を兼ねて首都に戻った。
勿論会話一つなかった。皇太子は小さいながら回復は早かったようで、旅中で元気一杯にユインにまとわりついていた。
そんな二人を極力見ないようにして、護衛を勤め家に戻った。


葬儀は大貴族らしく伝統に従って豪華に行われた。

葬儀が終わったらそのまま国境警備に戻ろうと思ったライルに思わぬ落とし穴があった。

「結婚…って」

とうとうこんな話が出て来てしまったかと、ライルは目の前の父親を凝視した。何の感情もその目には浮かんでいないようでライルはこの父親が苦手だった。

「お前ももう十八だ。早いことはあるまい…軍人はいつ死ぬか分からないからな。早く跡取りを残しておいてもらわないと困る」

「俺は結婚なんて!」

「これはもう決定したことだ。お前に拒否権はない。それともまだ陛下のことが忘れられないのか?陛下はお前のことなどただの遊びに過ぎなかったというのに。陛下はライルの何処がお気に召したのか尋ねたら、小さくて男臭さがなくて可愛いところだとおっしゃったそうだ。成長し男になったお前ではもうお払い箱だろう」

「陛下のことは関係ありません!……俺は、俺は結婚しないと心に決めています。どんなに父上に強制されても結婚はしません」

ユインのことだけが原因ではない。昔確かにユインを思って一生独身を貫くつもりでいた。だが今は違う。

「公爵家の跡取りが結婚しないなど許されるはずはないだろう!ましてやお前は一人息子だぞ!」

「そんなことは分かっています…」

「これまで自由にさせておいたが、これからはそうはいかない。良いか?お前はこれから皇太子殿下付きの近衛隊隊長に就任する事になる。命をかけて殿下をお守りするように」

「まだ真犯人が分かっていません。究明が先かと思いますが」

アーリエルスが関わっていることは突き止めたが、宮廷で手引きしている者の存在を突き止めなければ二の舞になりかねない。

だから父親にはそう進言したが、実際にはただ皇太子付きの近衛隊隊長など真っ平だからだ。顔も見たくも無かった。

「そんなことは部下に任せておけば良かろう。だが皇太子はお前しか守れない。
結婚の話はこの件が片付け次第話を進める。それまで殿下をしっかりとお守りするんだ。良いな?」

ライルは黙ったまま、イエスともノーとも言わなかった。こうなった父親を止めることはできない。いざというときには何も持たないで帝国から出て行こうとライルは思った。どうせここにはライルが守らなくてはならないものもない。結婚を強制されるのなら最後にそうしようと思えば大分気が楽になった。



ただ気になったのは、どうして父がそんなに皇太子のことを気に留めるのかライルには分からなかった。帝国を守る将軍家だが、父親には野心も人一倍ある。皇太子がいなくなれば皇族の血を引くライルにも皇帝の座か回ってくる可能性だとてあるのだ。父親なら野心のほうを優先させて当然という性格なのに、何故か皇太子を優先している。



「結婚だって?」

「ザリアス……来てくれたのか。だが結婚はしない」

「公爵の言う通り陛下のことは忘れて、新しい恋でも探したほうがお前のためだと思うけどな。どうせ自由な結婚なんて出来ないことだし」

親友の親切なのかお節介なのか分からない言葉だった。ライルがこの親友とも連絡を絶って出ていったことの当てこすりに違いないだろう。

「陛下のことはもうケリはついた…自分の中で。でもそれと結婚は別だ」

「ならいいけどな…当分一緒の職場だ!よろしく!」

「お前も皇太子付きの近衛か?」

ザリアスが近衛隊に入隊したのは知っていたが、ライルと同じく皇太子付きとは知らなかった。

「いいや、俺は陛下付き。でも同じことだろ。皇太子は陛下ベッタリだからな……反対に皇后には全く懐いてないがな。まあ仕方ないだろ」

「何で仕方ないんだ?皇后にとっても待望の皇太子だろう。世継がいなくて散々責められていたはずだ」

それに皇太子が生まれれば国母として権勢は確かなものになるのだ。厭う理由がない。

「何でか知らんが皇后は皇太子を毛嫌いしている。寄り付こうともしないぜ……それよりはよっぽど公爵のほうに懐いてるくらいだ。皇太子殿下はな」

「父上に?」

「そう。公爵もあの顔からは想像もつかないほど可愛がっているし、事実上の後見人と言っても過言じゃあないぞ」

「想像もつかん」

一人息子のライルにすら厳しい顔しか見せたことがなかったというのに。

「ライル……皇太子の命が狙われているのは間違いない。毒殺未遂も何度かあったくらいだからな。陛下との確執は分かるが皇太子殿下のことは別だ」

「分かってる……」

どんなにユインのことを憎んだとしても、あの皇后に似た皇太子のことを見殺しには出来ないだろう。だってユインの子どもだから。

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