小説(両性) | ナノ

▽ 12


「どうしてアーリエルスが……」

部下にこのあたり一帯の調査をさせた結果、すぐに皇太子の行方は知れた。相手が杜撰というよりは、軍事帝国としての情報収拾が勝った結果だろう。

別段ライルの能力というわけでもない。

アーリエルスはユインよりも少し前の皇帝に攻め滅ぼされて、今はほんの少しの領土しか持たない小国に成り果てている隣国だ。今更反抗する勢力などないと思っていたが。

「隊長!大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ」

皇太子を助けるために無茶をしたせいで、ライルは怪我を負っていた。偶然情報を耳にしたとき部下は出払っていてライルと一人の部下しかいなかったのだ。そのまま部下たちが戻ってくるのを待っていたほうが救出には有利にちがいないが、皇太子はまだ小さくかなり衰弱が激しいと、一二を争うような状況だったため、無茶を承知でたった一人いた部下を連れて向かったのだ。

「俺はたいした傷ではないが、皇太子殿下の様子は?」

「かなり弱っているご様子で…無理もありません。この辺境の暑さでは……私たち大人でもはじめて赴任したばかりの時は辛かったというのに、皇宮育ちの殿下では体が持つはずがありません」

「早く首都にお戻したいところだが、あのご様子でまた数日の移動では、命に関わる」

はっきり言ってライルは義務で皇太子を助けたが、これ以上あの子どもを見たくなかった。ユインに少しも似ていない外見。皇族特有の黒い髪はきっと皇后に似たのだろう。

そう思うだけでライルの苛立ちは募っていった。

「それで陛下も大変皇太子殿下を案じていらして、こちらに向かっていると連絡がありました。そろそろ着くようです」

「陛下が……ここに来る?」

悪い冗談にしか思えなかった。会いたくなくてこんな辺境までやってきたというのに。

「俺は……怪我を治療してくる。陛下がいらしたらお前が対応してくれ」

「そんな!俺みたいな身分のものが陛下になんて無理ですよ!隊長が」

「陛下は身分なんて気にされない……あとはアーリエルスのことを調べておいてくれ。犯人は皆死んでしまったせいで分からないからな」

治療が終わったらしばらく休むと言い、部下の悲鳴も無視して自室に駆け込んだ。勿論治療などしていない。逃げるためだ。



やらなければならないことが沢山あるのに、他に何も考えられない。きっと会えば身分も考えず喚き散らしてしまうだろう。

「どうして…こんなところまで来るんだ」

会いたくないから、皇后とその子どもと、ユインなんて見たくなかったから、ここまでやってきたのに。

怪我の手当てなどもせず、部屋の片隅で蹲った。

会いたくなんかなかった。二度と。

皇太子だって見たくもなかった。関わりたくもない。

涙なんか出ないけれど、罵りの言葉なら幾らでも出てくるだろう。

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