小説(両性) | ナノ

▽ 11


「隊長!隊長!こんなところにいたんですか?!」

ぼんやりと太陽が地平線に沈んでいく様を見ていたライルは、隊長との叫び声で後ろを振り向いた。

「どうした?そんなに慌てて」

ライルは士官学校を主席で卒業したあと、首都を飛び出し、ここ国境警備隊に所属していた。ライルほどの家柄と首席で卒業した経歴があれば、近衛兵でも中央の役職でもすぐに得ることはできたはずだった。だが、ライルはそれを良しとはせず、首都から一番離れた辺境にいることを選んだ。

破れた恋から一番離れた場所でいたかったからだ。

「大変ですよ!首都から、特使の方が見えています!隊長にお会いしたいって、待っているんですよ」

「明日でも良いだろう……今日はもう勤務時間は終わったんだ」

辺境に来ても、待遇は隊長でライルが一番若いのだが、地位は一番上だった。そのせいか、横柄な物言いは直らなかった。元々が大貴族の一人息子だ。部下たちも気にしないので、若干18歳ながら傍から見ればかなり嫌な貴族の司令官に見えただろう。

「俺たちでは対応出来ませんよ!隊長がなんとかしてくださいよ!」

「特使が何なんだ……しかも俺に用?」

ライルにはこんな辺境に皇宮じきじきに使いが送られてくる理由が分からなかった。特に切迫した国政状況にもないはずだ。辺境警備もほとんど名ばかりのものとなって久しい。

とはあれ元老院じきじきのご指名なのだ。断ることもできない。

「仕方が無い……行くか」

「どうせ、隊長は仕事が終わったら寝るだけでしょう。それだけ良い外見をしていて、公爵家の令息なんですから女がほっとかないのに、飲みにも行かないんですし。ほんと勿体無いですよ」

「はあ……もう枯れてるんだ。放っておけ」

「枯れているって……隊長まだ18歳でしょうが!今が一番やりたい盛りの歳でしょうに!」

「子どもの時にやり過ぎたんだ。それこそ毎日ってくらいな……年上の既婚者に手ほどきを受けて、獣のようにな」

12歳の頃からと自嘲して部下に話してやれば、呆気に取られて口を開けていた。

「珍しい話でもないさ。大抵、暇をもてあました貴婦人たちの、暇つぶしの遊び道具にされることなんか、良くある話だ。男になるのは、年上の女とってわけだ」

そして、弄ばれて本気になったところで、捨てられる。ライルの他にも同じような経験をした貴族の少年は山ほどいるだろう。それほどありふれた話なのだ。

ただライルがそんな覚悟をしていなかっただけ。本当だったら手も触れられない至高の存在だったあの人と、自分に未来なんかあるはずはなかったのに。

そんなことにも気がつかないほど、夢中だった。



「ご用件とは?」

特使に会うのに相応しい格好に着替え、ライルは砦に戻ってきていた。

「実は……ある方が行方不明でして」

「それで?国境警備隊長の俺に迷子探しでも依頼されたいのですか?」

どんな重要なことだと思ったら迷子の相談に思わずライルは失笑を隠せなかった。

「それが皇太子殿下でいらっしゃってでもですか?」

「皇太子……?」



――――ライル、皇太子が生まれるかもしれない。だからもう終わりだ



そう残酷に言い放って簡単にライルを切り離した最愛の人の子ども。

彼の希望通りに皇太子が生まれたが、その子どもが原因でライルはユインの人生から締め出されたのだ。しかもあの皇后の息子。

「皇太子殿下が誘拐でもされて、それが何か俺に関係が?」

一度も見たこともない彼の血を引く皇太子のことなど厭わしいばかりだ。ここまで来れば何を言いたいかライルにも分かった。

「皇太子殿下は皇太宮から忽然と姿を消されました。おそらく誘拐されたのだと……陛下に退位しろという強迫文もありました」

「それで誘拐犯の検討はついているのか?」

「いいえ……それではまだです。しかしこちら方面に連れ去られたことだけは掴みました。あとは辺境に詳しいライル様に捜索の指揮をとのご命令です」

「それは元老院の命令か?」

「いいえ…陛下のです」

その言葉にライルは凍り付いた。自分を簡単に切り捨てることのできたユインはあれだけ自分を傷つけながら、またこうやってライルの心に血を流させるのだろうか。

「陛下がおっしゃったのですか?……俺をと」

「はい。公爵令息にお任せするようにと」

「……分かりました。全力を尽くしましょう」

そう答えながらも、ライルは疑問と不満で一杯だった。どうして今更、自分の人生に簡単に踏み込んでこようとするのだと。

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