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 ずっと昔にこの部屋で、ジェスと過ごしたことがあった。

 あの時はジェスは自分のことをリヤだったと知らず、どこからか送りつけられてスパイだと思い込んでいて、警戒ばかりしていた。ダリヤを抱いていても、いつも冷めた男だった。女が嫌いで、女を侮蔑していて、ダリヤもその中の一人で、復讐のために抱かれていた頃とは比べ物にならないような技巧を凝らした抱き方だったけれども、まるで物のような扱いだったのは、昔と変わりはなかった。

 この部屋を昔のままにしていたことで、あの頃のことをむしょうに思い出した。この部屋はずっと昔に使わないままになっていて、元々デュース側が用意したものだったが、組織自体が崩壊したので誰も処分しないままになっていたのだ。久しぶりに来て見て、かなり荒れ果てた印象を受けた。何年も誰も入らなかったままなのだから仕方はないだろう。

 埃だらけの部屋に一人ポツリと立ち尽くして、ほとんどない家具のうちのベッドに横たわった。埃っぽい匂いがして、少し咽た。

 運命は自分には優しくないと、あの頃はずっと思っていた。でも今もそうだ。何も自分の思う通りにはなってくれない。


「気持ち悪い」

 一通り掃除を済ませて、太陽の匂いのする布団で寝ても、埃臭い布団で横たわっていた時と同じ、倦怠感を感じる。何を食べても砂のようにしか感じられない。苛酷な環境で自分の身体を酷使するのに慣れていたはずなのに、ここ数年穏やかな生活を続けてきたせいだろうか、すっかり体が柔になってきていると思った。

 このくらいのストレスはたいしたことはないはずなのに、吐き気や眩暈が止まらない。精神的な弱さがもろに出てきているのだ。

 誰も味方がいなかった頃周りは敵だらけで、ユーシスを守ることだけで精一杯だった頃を思い出せば、なんてことないはずなのに、守られて過ごすことに慣れてしまった体は、すぐに悲鳴を上げる。

「何て様なんだ……」

 やるべきことがあるはずだろうと、自分を叱咤して起き上がる。なんのために、ジェスとユーシスから離れたのだ。これでは。何の意味もない。

 無理矢理起き上がると、ある書類の束を魔術で封をした扉から取り出した。ダリヤはジェスを殺した容疑がかけられた際に、デュースに関する証拠の書類のほとんどは提出した。だがその中でも、関連が薄いとされるものなどは提出しないままになっていた。それがこれらだった。

 使うことなど二度と来なければいいと思っていたが、そうはいかなかったようだ。この書類を用意していた頃を思い出した。あの頃の自分は何を思っていただろうか。やっとユーシスを救い出せるかもしれないことに、一縷の期待を寄せていた。今よりは少なくても希望があっただろう。それなのに今は失う物しかない。得てしまえば、あとは失うのを待つばかりだ。

 ダリヤはたくさんのものを失っていた。平凡な家庭、弟、母、初めて出来た子ども。自由、父、そしてジェス。再び得たものもあったけれど、またダリヤの手のひらをすり抜けていくようだった。

「でも、分かっている。自分が何をすべきなのか」

 だって、そうやって生きてきたはずだだろう、自分は。



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