「ダリヤ・ハデス…来ていたのか。わざわざ現場まで赴かなくても、報告書は君にも渡すつもりだったが?」

 ジェスが周りを部下に固めて、皮肉気に笑って立っていた。

 お前など邪魔だとばかりの態度のジェスに、ダリヤは無表情のまま答えた。どうせ歓迎されていないことは分かりきっていた。彼も、彼の部下もダリヤに露骨にダリヤの存在を厭ってる。だったら勝手にやるだけだ。

「ユーディング中将のほうこそ……中将ほどの地位の方が、直接足を運ばれることでもないと思いますが。指揮官たるものは司令部にいるべきではないんですか?」

 少なくとも、他の将軍たちはそうだった。自分は執務室の豪華な椅子にふんぞり返って、命令だけをする。それで終わりだ。そしてそれは軍上層部では普通のことなのだ。ジェスのほうが規格外といって良いだろう。

 本来なら中将の地位にあるジェスに回ってくる仕事でもない。憲兵がやるべき仕事のはずだった。それをジェスに回されているのは、この事件に魔術師が絡んでいるからだった。

「それに……こうして実際見ないと分かりません…この女性に、魔術の関与があったのか否かは」

 ダリヤは女性の死体を見ながら、淡々と言葉を紡いだ。

「顔色一つ変えないのだな?」

 そんな冷静な様子のダリヤにジェスは皮肉で返した。

 地獄ならとうに見た。今さらこんなことで顔色を返すほど、そんな可愛げのある性格もしていないのだ。

 過去を思い出せば当然痛みは伴う。だが、それをダリヤが顔に出すことはない。そうさせたのは、この目の前の男だということに、ジェスは気がついてはいないだろう。気がつこうともしていなかった。

「それで君はどう思う?せっかくここまで来てくれたんだから、君の考えも聞いてみたい。最近はろくな魔術師が揃っていなくてね……仕方がなく、医療魔術は専門外だが私が来ているというわけだ。やつの仕業だと思うかね?」

 お前もろくな魔術師じゃないと言いた気なジェスに大して気にも留めず、問われたことのみを答えた。ダリヤは生体医療の専門家で、彼は攻撃魔法の専門で、畑違いだが、全く関わりがないといえばそうでもない。ジェスは人を壊す専門家で、自分は治す専門家だ。

「間違いないと思いますよ……明らかにこの女性は魔術の影響を受けて死んでいます。しかし…一見、魔術の干渉を排除して見せている。俺たちのような専門家ではないか、区別できません。ここまで見事な魔術の使い手は一人しかいないでしょうね」

 かつて軍にも所属していたことがると言う、その容疑者以外にはこの犯行は不可能だった。




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