【全員悪人】


01.丁重にお断りします



 陪審員長。起立。礼。着席。本日の議題。二十一歳被告人の無罪か有罪かを決めること也。

「出前取るなら私も」
「では僕が書きます」
「レスカワン。プリーズ」

 はいレスカね、と書き出してハタとする。婚約者有。恋人無。子供無。女子高の体育教師。教え子とどうにかなるような面白みもなく日々迫り来るオッサン化に格闘。レモンスカッシュ。なるほどな。爽やかな感じ。これで決まりだろう。

「珈琲あります? ホットで」
「あ。俺アイス。レイコ」

 レイコ。婚約者の名前だったりする。お見合い。一回り下。正直相手にされてない。俗にクリスマスケーキと言われる年頃を過ぎ、大晦日目前で焦っているのかもしれない。レイコは却下。当たり前だろう。

「クリームソーダ」

 なんだ。みんな甘党じゃないか。外は暑い。でもソーダ水なんて頼んだら炭酸が抜けて気持ち悪くないか。

「烏龍茶」

 お茶か。無難だけどトイレに行きたくなっても困るし。進行役がはずしちゃマズイ。烏龍茶は絶対無い。レイコも無い。レイコ怒ってるだろうな。ネズミーパークに行く約束だった。でも仕方ない。陪審員はこれで二度目だが役割を果たさないと。いつまでも引きずってたら、そのうち半世紀が過ぎてしまう。もう目の前だし。

「書けました?」
「ぐちゃぐちゃになっちゃった」
「ええと、ヤクルト三つ?」
「僕の分です」

 ヘラッとした笑いが気に食わないと、子供の頃から何度苛められただろう。ああやめよう。強く意見を言わずに済む立ち位置。

 誰かにじっと見つめられて、視線をはずす。何番だったか。自分は1だ。隣に来られたら恥ずかしいな。2か12でなければいいわけだ。よし。

「番号の若い順から、こちらへどうぞ」
「あ。俺隣だわ」

 ――12か。また目を合わせてヘラッ。まあいいか。悪い人ではなさそうだ。

「ねぇ」12号さんが近づいた。「これ終わったらさ、飲みにいきましょうよ」

「いいですね」酒は意外とイケる口。突き出しがメインなんだが。「でも、どうなんだろう。接触規約に反しないかな? 後で皆さんにこっそり聞いてみますね」

 違うちがうと12号。

「二人きりでだよ。好みなんだよね、アナタ」
「ああ――」

 なぜ驚かないかって? 昔からそうなのだ。女を前にすると口下手が災いして逃がしてしまうのに、男には好かれる。線の細いタイプ。年下。

「駄目?」

 にっこり。駄目に決まってる。断りを入れようとうつむいたら、その角度いいねぇ! なんて上機嫌。水を差すのも悪い気がしてしまう。

「後で話しましょう」

 言おうとした別の言葉は排気管に吸い込まれてしまった。咳き込むご婦人。煙草を注意。よってたかって変人ばかり。長い一日になりそうだ。逃げる手はずを整えて、断りの文句を考えておかなくちゃ。



 ここでタイトル。これが始まり。





prev | next


data main top
×