【全員悪人】


06)「なんも知らんクセに」(簡単に云いはるわ)



 山王会の人間は櫛の歯を抜くように始末されていった。石原に屈辱的な扱いを受けていた白山と五味も当初は例外ではなかった。

 布施は西野と中田を呼びつけた。

「更地に城建てるより、生臭坊主騙くらかして伽藍乗っ取った上でそれらしく飾るほうが手間ないわな」
「生臭坊主の質にもよりますわ」

 中田は黙っていた。布施は唸り声をあげて、腕を組んだ。西野は更にいった。

「山王会、追い込むのやめますんか親分」
「手玉残して戒律だけ内側から変えることはできへんか?」

「そりゃ」西野は返事を返して中田を見たが、彼は視線を落としていた。「俺か中田が糸引くんやったら――いずれにせよ加藤は無理でっせ。腐れっぷりが半端やないんで、毒気にあてられてアイツにつきよる男が出てこんとも限らん。実際、進退極まった今でも慕っとる奴等がおりますんでな」

「オイ猿公」布施の声は冷えていた。「確かに巧いことやれとは云ったけどな。あの程度の雑魚に弱音吐いとったら、シマの拡大なんぞ夢のまた夢やぞ」

「大きくなりすぎて、右にも左にも首回らんようになるよりマシや。会長、アレの頭欲しいんちゃいますんか」
「お前らに今よりチィとでも大きい組遺せるんやったら、気に入らん男の失脚見れんでも辛抱するわ。先代もそうやって退陣したんや」

 西野はふっと頬をゆるめた。中田はその気配に顔を上げ、西野の横顔を眺めた。

「俺には花菱の代紋より会長や。――ようわかってますやろ」

 布施は腕を組んだまま眼を瞑り、着物の袖から出した手で顎やら鼻の脇やらを掻きながら横を向いた。

「聞かんかったことにするで。跡目相続より前にお前の情夫に殺される」
「誰の話で」
「隣で睨んどる奴」
「――もとよりこんな顔です」

 中田は舎弟に車を回させ、本邸を離れようとした。頓挫した市街地再開発事業の跡地である場所を、新たな歓楽街として組の活動に盛り込む算段がある。当面の山王会の処遇については静観するのが得策であった。

「待ち」西野だった。「乗せたる。こっち来いや」

「無理や」
「なんで」
「冬が来るまでに国選弁護士の手配しよらんと、市を丸めこまれへんので」
「そっちの仕事は誰かに押しつけたらええ。加藤のほうが先決じゃ」

 後部座席で膝をつき合わせてからも、西野は悩んでいるようだった。

「寝ぼけたこと言うてはったな」
「会長の言うことも一理ありますわ」

 伽藍を乗っ取る――二人は同時に口ずさみ、どちらともなく首を振った。




06) 「なんも知らんクセに」

(簡単に云いはるわ)






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