山王会。会長の加藤は舟木について花菱に探りを入れたが、返答は思わぬものだった。石原は加藤を気遣ったが、叱りの言葉を受けると舎弟に八つ当たりし殴る蹴るの暴行を加えた。
――所詮は石原も凭れだと西野は云いたいのか。
石原は拳を握った。口の軽い舟木は牛糞でパンパンになったその身を海に沈められていたが、加藤には知りようのないことだった。ただ舎弟が次々と殺され、自分が前会長の裏切り者であると世間に知れている事実に怯えた。
「株価が急激に降下しているようだが。石原。どういうことだ」
「……それが、その。申し訳ありません」
取引所の緊急停止は世界的な混乱を引き起こし、山王会が貯めていた円以外の為替を一日足らずで紙切れに変えていた。さながら端を取られたオセロのような現実である。
石原は汗を拭った。小心者の屑である。加藤は溜め息を吐いた。他の人間を退室させる。
「金のほうはもういい。お前はよくやった。腹は空いてないか?」
「いえ。大丈夫です」
「そうか。ところで」加藤は調子を変えた。「木村という男は知ってるな。奴は大友に顔を切られて、相当な怨みを持ってる。接触しろ」
石原は血の気が引いた。「木村にですか」
「何か問題があるのか」加藤は冷たかった。罠の可能性は充分あるが、さらに続けた。「お前の不手際のせいで、うちは追い込まれてしまった。金も必要だ。大友を差し出してくれるとアチラさんがいうんだから、お前にとっても悪い話ではあるまい」
石原を切れば何とかなりそうだという確信が加藤にはあった。これ以上の裏切りは御免だ。舟木は自分を脅してのしあがったわけだが、石原は慕ってついてきているとばかり思っていた。
「石原――白山と五味、その舎弟が酷い歩き方をして顔を出してな。心当たりあるか」
「……ッ」
「情けねぇ面しやがって。俺に掘られたい癖にあんな三下を相手によく勃つな」
石原の目は歓喜に歪んでいた。
「会長。――会長、俺は」
「糞ビッチ。靴下とネクタイだけそのままにして服を脱げ。躾が何なのか俺が教えてやる」
石原は加藤の言う通りにした。期待に満ちた全身が真っ赤に染まる。ノンケの加藤にとっては石原の青剃り顔は気味悪いばかりで、全裸になった股間の汚物に至っては吐き気を催すような存在感を放っていた。
「尻を向けてソファに横になれ」加藤は引き出しから自前の拳銃を取り出し、首をふった。「お前のハジキ貸してみろ」
石原は急に不安になった。バリタチで大友組の組長以外全員を食ってきた自分だが、後ろの穴に関しては処女である。体格のよかった若頭にだけ掘られそうになったが、ベッドに縛りつけて死守してきた聖域だった。
与えても奪われても悔いはない相手が加藤一人なのだ。どうせ殺されるなら絶頂に浸っているときがいいと、注文をつけるか迷った。
石原の上に片膝をつきながら、渡されたリボルバーの弾倉を空にしつつ、加藤は舎弟を見下ろした。
「仔猫みたいに怯えてんな。安心しろ。俺はお前と違って加虐趣味はねぇんだよ」加藤は云った。「よがる手下の写真なんぞ求めちゃいねぇぞ。欲しいなら代わりで満足すんな」
加藤の顔が近づくと、石原は胸を高鳴らせて両手でまさぐった。無遠慮な遣り口に加藤は無表情だった。
「尻を向けろといったろう」
「会長……っ、会長!」
「三度目はない」
石原は高々と腰をあげた。加藤は溜め息を吐いて、弾倉を床に落とした。硬い音が室内に鳴り響く。
予告なしに捩じ込まれた銃口に扉の外まで悲鳴が届いたが、舎弟たちは目配せしただけで黙りこくった。石原の喚きが嬌声に変わるまで数分もかからなかったことで、過剰に薬物が使用されたことは明らかだった。
一時間もすると加藤は一糸乱れぬ姿で部屋を後にし、腰の立たなくなった石原を担いで行けと側近たちに命令を下した。
ソファの上では口から涎を垂らし、糞やら吐瀉物やら精液やらで血塗れとなった石原の醜い骸があったが、死に損ないの当人は念願叶った悦びで全身を痙攣させていた。