時間はかかったが繋げると、善次郎の狂騰はおさまらなかった。和助は何度か善次郎の口に手拭いを噛ませ、脚を突っ張らせる度に焦る体を撫で摩っては嵐が過ぎ去るまで抱き締めた。
「旦さん……っ、旦さん……っ!」
「声。落として、な」
店番も忘れて肉欲の虜になってるなどと、誰に見られても世間体は終わりだった。若旦那が陰間茶屋で囲いの少年と乳繰りおうてたと噂が広まり、畳んでしまった店もある。
しかし善次郎には難しいことだった。最後の一線を上手く乗り越えたのは今日が初めてだが、幾度か挑戦してはお互いの健康や時期を逃して華を咲かせるまでには至らなかったのだ。
待ち望んできた主人の肉棒が己が内を擦りながら侵入してきたとき、善次郎は今まで自分は何を気張っていたのか。強情を張らずに早う素直になるべきやったと愛撫に身を任せながら思った。
「来る……! ほんま、ああっ……。あぃ……っ、ん、っ……ああぁぁ! いいっ、だん。旦さんは。旦さん、は?」
「ええで」
「嘘や……あんさん、嘘ばっかや……! あっ、ぁあ」
和助は正直なところ歳も歳で、鈍感なる器官からの刺激はさほどなかった。しかし汗ばむ全身を自ら放つ体液でどろどろにしながら、狂おしく快楽に躍る善次郎の姿を観るのは愉しかった。
「滅茶苦茶ええで」
「もっ、もっと……! もっと、強くしてええ、んで。もっと、強く」
「嵌まると恐ろしから。な」
「ずっと嵌まってたら宜し……っ」
「あんまり動いたら、壊れるわ」
「壊して……ッ! 旦さん、壊して」
譫言は和助の隆起を膨張させる結果となり、善次郎は尚も悦んだ。湿った音を出し続ける芯を更に奥まで捉えようと自分から腰を使えば、これまでとは違う呻き声が降ってくる。
「なんや、もう終わりですの」
「――挑発したら、あきまへん」
本領発揮とばかりに足首を持ち、開脚した奥を高い位置から叩きつけるように挿入する。善次郎は声もなく断続的に弾けた。野良犬の交尾の如く征服しようとしてくる雄の男根を締め付け、自分の意思とは裏腹にあんあんと女のように啼いた。
病人であるからして従来の丈夫さも敵わず、一瞬意識をとばす。白くなった視野の向こうに長年愛し続けた男の皺だらけの顔を見ても、善次郎は痙攣し続けた。
「ほ、欲しい。欲しいんや」善次郎は精一杯囁いた。「ずうっと、欲しかったんや。そやさかい」
名残の接吻は短いものだったが、善次郎は満ち足りていた。
「――へてから?」
「抱いとくれやす。ずっと。抱いといておくれやす」
主人は番頭の言う通りにした。
「歳は取りたないわ。なかなか逝かんようなってしもて」
「――女遊び、まだしてはったんか」
「善次郎。怖いで」和助は怯えた。「そんな銭、何処にもないやろ」
蒲団の後始末をこっそりと終え、吐き出しきった熱で治りかけている風邪もぶり返しては困ると新しい寝具と寝間着に善次郎を包み、和助は喉を鳴らした。葱は互いの熱で臭かったので、処分した。
「いやや」善次郎は半ば眠りかけながらいった。「旦さん、わてのもんや。もっと」
「もっと?」
「もっと、ようさん――」
善次郎は自分が放った言葉に呻いた。和助は残念でならなかった。はっきりいっとくれやっしゃ、となじりたい。次がしやすくなるからだ。
「そやな。ほんなら、毎朝店先でやろか」
善次郎は蒲団を被り、和助には背を向けてしまった。あらら、機嫌を損ねてしもたわと盆を手に座敷を出ようとした。
「店先で抱かれたら、旦さんのこと独り占めできますやろか」
和助はその低い響きに笑いを堪えた。「真剣やな」
「店先で目一杯叫んだら、旦さんのこと」
「そないせぇへんでも、わてはあんさんだけのモンやで」
「嘘や」善次郎も少し笑った。「でもええわ。旦さん、好きでっせ」
和助は動揺を隠した。鋭く飲んだ息を吐ききり、振り返らず口ずさんだ。
「――よう知ってまっせ。善次郎」
了