【寒天問屋】


03



 善次郎の体を蒲団に俯せ、腰だけ突き上げるようにさせる。和助は在りし日にはひょっこり鬼瓦とまで詠われた怒張を菊門に押しつけた。

 善次郎は慌てた。ふざけるにも流石に限度というものがある。

「無理っ、無理や、旦さん! やめて。痛い」
「最初だけでっせ。ほんなら、もうちょい解そか」

 そういう問題では、と断りを入れて叫ぼうとするのだが、抜けていく異物が恋しくて善次郎は首を横にした。これ以上付き合っていると、気が変になると思ったからである。

「や、矢ッ張り葱は、ま、松吉に頼みますさかい、呼び戻しておくれやす……っ!」
「――松吉に?」
「そうだす。はじめっからそうしとけばよかったんや! 松吉やったら、松吉やったら……なんぞ眈々と葱だけを。……あっ」

 くるりと肩口で反転させられ、善次郎は間近で和助の半開きの目と対面する羽目に陥った。

「ま つ き ち、に?」
「旦さん、怖い……」
「若いモンがええんやな、と思っただけや」

「そ、そんなことあらしまへん」善次郎は片手の甲を口許にやった。「恥ずかしいだけや」

「何十年ひとつ屋根の下で暮らしてると思っとるんや。善次郎」
「恥ずかしいんや! 無理なんや!」

「今さら体ひとつわてに預けたかて、減るもんなぞありゃしまへんのやで」和助は善次郎の逞しい首の付け根を深々と吸った。「ええから、体の力抜いて」

「ん……ぁ」
「あんさん元気やな。まだまだ現役。こっちも触るで」
「や……! だめ……ぁっ」
「気持ちええんやったら。声」

 善次郎は悶えて、無意識に自分とは違う主人のすべすべの指で逸物を慰めた。あっ、うぁっと嬌声としか言い様のない呻き声が善次郎から漏れ、和助はええか、と何度も利いた。そのうち切迫した様子が煩わしくなり、善次郎は明瞭に応えた。

「ええ……っ! ほんまに、ええんです。けど。旦さん、なんで……脱がはるんで?」
「暑いからやな」
「嘘や……絶対嘘や!」

「あちゃ」和助はぱちんとでこを叩いた。「ばれてしもた。前が窮屈でな」

 善次郎は溜め息を吐き、和助の逸物をそっと触った。和助はその手を放さないと言わんばかりに、善次郎に竿を握らせた。

「硬い……熱いんやな」
「なに呑気なこと言うとんや」
「わて、わからへんので。こんなこと、初めてなもんで」
「男同士はな、時間ぎょうさんかかるねんで」

「そうやのうて」善次郎は引かれるのではと和助を上目遣いで見上げた。「寝所で、誰かとおるんが」

 案の定、忙しく全身を動きまわっていた和助の指がぴたりと止まり、善次郎を見下ろした。しかしその理由は思いもよらぬものだった。

「――すまんかった。気ィつかなんだ。なんや、勝手にわてが盛り上がっただけやしな。もっと若くてべっぴんさん、今から捜して見繕うから。少なくとも、初めては大事にしとこか」

「なんでや!」善次郎はむかっ腹を立てて抗議した。主人の襟ぐりを両手で捕まえて至近距離でにらみつける。「こないなってんのは、誰のせいやと思てはりますん。途中でやめんのやったら、仏壇の前で、一緒にご寮さんに土下座しとくれやす。ずっと……ずっとやで!」

 下からの噛みつくような口づけを和助も受け止め、眉間に寄せられた善次郎の深い皺を丹念に伸ばすよう、額を手で押さえて仰向けさせた。顎を引き上げて互いの唾液を飲まんばかりに交換し、離れて糸を引くそれを舌先で舐めとると、善次郎がはぁと嘆息しながら和助を見つめた。

「旦さんのせいや」
「善次郎」
「旦さんが悪いんや。わては生まれも育ちも地獄やった。地を這いずりまわって一人で生きてきたんや。拾ってくれたご恩は若旦さんのときから感謝しとります。でも、こんな。こんな、気持ちには」

 主人は善次郎の熱い体を丹念に舐めほどき、了承も得ずに再度善次郎の中に挿入る準備を進めた。今度は善次郎も抵抗しなかった。



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