【寒天問屋】


02



 拒絶は長くは続かなかった。倒れこんでる隙を見て和助は蒲団を剥いだ。「旦さん。あきまへんて」

 蒲団の中に潜り込んで来るに至っては善次郎も諦めた。主人は汗ばんだ着流しを捲り、帯を手早くほどいた。

「見んようにしたら、恥ずかしないやろ」
「臭いますし」
「後で拭いたら済む噺や。ほんに熱いな」
「風邪やいうてまっしゃろ。誰ぞ帰ってきたら、なんて」
「戯れてたと白状したら宜し」

 和助の囁きが耳を突いて、善次郎は昼下がりの陽気を襖越しに浴びながらぼんやりとした。冷たい指が腰を這って、びくりとする。

「旦さん、頼んます」
「すまんすまん。冷たかったな」
「ちゃいます。もう、やめて」

 和助は切実な響きに眉を潜め、覆い被さっていた善次郎の体から僅かに離れると、顔を見てぎょっとした。

「善次郎。泣くほど厭なんか」
「泣いてまへん……っ」

 目尻に溜まった光るものと、籠った行き場のない熱に喘ぐ表情が扇情的で、和助はごくりと唾を呑み込んだ。

「ようわかった」
「旦さん」
「無理強いして悪かった。堪忍しとくれやす」
「旦さん、旦さん!」

 蒲団から出ようとした和助の腕を、決死の覚悟で善次郎は握った。

「ああ。何とゆうたら」
「善次郎」
「……ゆっくり、お願いします。風邪のせいで朦朧としとるし、何を口走るやらわからへんので」

 和助はぱっと蒲団の中に戻った。はねあげた下では善次郎が身じろぎするのも赦さず、接吻を交わす。ん、んぁ、あっと息つぎする度に股間を両手で刺激し、夢中になって自らの屹立を善次郎の太股に擦りつけた。布地越しでも湿っぽい音を立てる性急な求愛行動に、善次郎は首まで紅く染まった。

「なんちゅうことを……ッ」

「善次郎、ええか?」苦労人とはいえ世間知らずの坊もいいところの和助は、それ以外の睦言をよく知らなかった。「ええか……ええのんか」

「わかりゃしまへん。旦さん……っ、わか、わからへん! やめておくんなはれ、もうっ……あかん……っ」
「ええんやな。うん」

 和助は右腕を半裸の善次郎にまわし、胸を突いてくる野太い手首を捉えて浮き出る脈拍に口づけた。

「だ、旦さん……!」
「指。挿れるで」
「あかん。待って。今日は」

 抗議の唇を唇ですくいとり、吸い上げられる儘に善次郎は背中を反らせた。蒲団と体にできた間を、和助の手がそろりと這い降りる。善次郎には、臀の割れ目を行ったり来たりする主人の手のことしか考えられなかった。

「あっ……ぁあっ……! 旦さん! いやや、ああぁっ……中、中は! うぅん……いいっ、いやっ」
「まだやで。でも、そない動いたら挿入ってまうかもしれんなあ」
「んっ」

 乱れた肢体を直視したい欲求に駆られたが、和助は堪えた。お互いの紅い顔が、濡れそぼった下半身の久しぶりの出逢いを促し、ふたりの距離を無くした。

「旦さん、顔真っ赤や」
「あんさんの熱が移ったんとちゃいますか」
「ごっつ、助べえな顔してはる」
「善次郎ほどやない。好き者の顔や」
「病人やのに……」
「欲しいんやろ」

 善次郎は視線をさ迷わせた。密着した胸の鼓動が五月蝿く、弛んだ腹の出っ張りが邪魔であった。菊門をぴちぴちと弄り始めた中指と、少し先走った前の暴走を食い止めんとする反対の手が怨めしい。

「あっ……あかんてぇ。中は!」
「腰蠢かして、そない強情はったところで訊かれへんわな」
「っ……、挿れんとい、て。て、ゆうてますのに!」

 しかし快楽に慣らされた体は、自然と横向きになった。うずきが最高潮まで達するのも時間の問題だと、善次郎にはよくわかっていた。一本が執拗に入り口と中を掻き壊すうちに、前から滲み出た精液の滴を塗りつけられる。

「あっ、いいっ! い、いや、いい……っ、旦さん、もっ、もっと、やるんやったら、本数増やして」
「もっと? ほな、挿れますよって。腰、あげて」
「やめっ……ぁ!」

 一気に差し込まれた指を呑み込み、善次郎はいたたまれず腰を上下させた。耐え難い波が押し寄せ、胸元の乳首を食んでくる主人の頭を、髷が崩れるのも構わず押しつけた。

 くちゃくちゃと上でも下でも行われる性交が、善次郎の残り少ない理性を全力で犯し始めた。

「やめんといて。厭や、まだして」
「なんちゅう顔しとるんや。お里には面倒かけとない言いはるから、わてがこないして……」

 主人は少し考えた。







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