【寒天問屋】


05



 誰ぞ万が一でも起きて入って来ないようにと、万全の注意で主人の着物を着せて済ませた。暑い空気がひしめき合い、乾いた皮膚をねじり伏せ、善次郎の襟足を押さえた指を取りその胸をはだけて、鬼摩羅を揉みしだかれつつ和助は笑った。

「――……っ。こりゃ、ええわな。確かに」
「んっ……んぐ……ぷは。だ、旦さん、火ィ。消して」

 胡座をかいた主人の膝に顔を埋めたまま、善次郎は唇を嘗めた。

「あんさんが点けたんやで」
「噛みきって怪我させたなかっただけで。そない見んとってくんなはれ」
「い。や。や」
「――云うこと訊かへんのやったら、目隠ししますで」
「頬被りで?」

 善次郎は身を起こして、件の布がないか手探りした。目当てを見つけて振り返ると、和助は既に眼を瞑ってあろうことか手を叩いた。

「鬼さん。こち、ら」
「旦さん――!」
「手のなる、方へ」

 膝伝いで歩いて戻ると、手首をぱっと取られる。抱きすくめられれば己の上半身で覆い被さることとなり、番頭は赤面した。

「善ちゃん。見っけ」
「……だ、ん」
「生温かくて最高やった。天にも昇る気持ちや。ご来光が見えたわ」
「まだ終わってまへんで」
「一晩一回が限度やて。玉子か高麗の根っ子でも食うたら別やけど」
「もう一寸」

 許可する暇も与えず横にして、食い尽くして酔い痴れる。腐り爛れる味の前では、質素な塩気のない食事続きだったことを怨むしかなかった。生臭いばかりで強いて歓びを得る行為ではない。しかし珍しく共に喘ぐのを抑え、堪えている和助の声を一瞬耳にすると、善次郎は顔を上げた。

「……して。わてのも、可愛がったって。頼んます」
「ええけどな。もう少し目に焼き付けときたいわ」
「此れからなんぼでも」
「反対向いたら?」
「跨ぐんは無理や」
「目隠し!」

「ええんでっか」善次郎は布を取って、にやつく和助の頭に腕を回した。「画ぇでは遣られるほうがされてましたで」

「――挿れる?」
「あきまへん。旦さんのことやから気持ちええな云うて、二度としてくれへんようなるわ」
「そんなええんか」
「知りまへん。タチでしたことあらへんのやから」

 善次郎は和助の顔を跨いだ。足側を向き、ぶらりと半分垂れ下がる己をちらりと見て、妙に安堵した。目隠しが無ければとてもではないが見せられない。

 懐紙で拭ったとはいえ、精の交換があった場所を曝している恥ずかしさが、躯を添わせることを躊躇わせた。和助も其れを知っていたため、着物を摩繰り上げている善次郎の片手を握り、舌だけ伸ばして玉の裏を擦った。

「ぅ……ん……! んんっ」
「しょっからい」
「待っ……――ぅん、ァ」
「菊は苦いわ。わての種やな」
「あ、やめ……! う、後ろは、もう」

 もどかしさが我慢ならず、腰を落とすと熱い粘膜に包まれた。タマ遊びが好きなのは主人も同じである。小豆や琵琶やと口に含んで、いつまでも噛んだり呑み込んだりせず舌先で転がしていたりするのだ。善次郎は斜め向かいでその姿を見るたび、乳首の先に爪を立てられたような反応を喉の奥で感じていた。

 肥えた舌で全体を食まれると、天草の査定でも受けている気分になってくる。善次郎ははぁと息をついて主人の棒を嘗めほどいた。武骨な指が互いの芯に触れ、あとはぴちゃくちゃと雨垂れの応酬である。途中で和助が「てんから、こんから」とふざけて唄うのに合わせ、夢中で貪った。

「あかん。逝くで」
「ン……! 厭、や。一人で……っ」

 震える腰を上げて和助を跨ぎ覗けば、臨界に達しそうな逸物は本人の手がいつの間にか握っていた。唾液と先走りで光った唇を拭いもせず、口の端だけ持ち上がる。

「挿れるか。自分で」
「そんなんできまへん」
「見えてへんよ」
「――」
「こっち向いて、腰下ろしたら後はやったるさかい」

 善次郎は舌先に滞る重いものを呑み込んだ。



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