抱き合って静かに寝入ろうとしている時だった。和助は珍しく二戦目は無理でも戯れて夜を越そうと、己の種火も絶やさずに、交じあった善次郎の濡れそぼつ肉体を触っていた。
心身共に強靭で最も種の健勝な男盛りである。老境に足を踏み入れ朽ちり往く和助の相手だけをさせるのには忍びなかったが、然りとて他の男に譲るつもりもない。
雁字搦めにして軒先に吊るして置けば、野鳥でもその身を喰らいつくして誰にも渡さんで済むんや、と和助は指だけを幾度も幾度も往復させた。
「……ァ、ああ――……」
「濡れてな」股関節の脇を爪で掬うと、善次郎が悶えた。「ふぐりも熟れて、鬢の生え際がほどけて。月代に汗浮かべて全身で叫んどるのを眼にしとるわけやないのに、揉みしだかれて鼻で啼いてんのを訊いてたら――商いなんぞ忘れて、朝から晩まで狂うてたいと思うわな」
「何ぞ」善次郎は主人の声の響きに、放してやらへんでと云われた気がして震えた。「何ぞ。くわえさせてくだすったら。声なんぞ出さんで済むかも」
「手拭いで縛って欲しいんか」和助は乾いた唇を、善次郎のざらりとした顎に当てて吸った。
「せやのうて」
唐突に耳打ちされた単語の意味を謀りかね、和助は首を捻った。
「笛なんぞ吹いたら、井川屋の丁稚どころか向こう三軒隣まで、みぃんな怒鳴りこんで来るで」
呻き声と共に躯が離れる。微かな衣擦れに小用でも足しに行くのかと思い、襖を開けた音に耳を澄ませたが――暫く後に隣の和室で小箪笥をごそごそやる音が聴こえると、善次郎は戻って灯籠に火を入れた。
主人の無知に奉公人が進言するが如く、善次郎は正座して簡潔に述べた。
喩えの熟達している和助だが、下世話な類いの娯楽には不慣れなのだろう。比喩の殆どが見聞きしたものと云うより自作であったのか、此の提案には仰天した。
「善次郎。あんさん、何でそんなこと知っとるんや?」
「厠の手前で梅吉のヤツが、春画を焼いとったんです。叱りつけたら男と男やった」
「――外で余計な口叩かんよう、教育頼んだで」
「承知しとります」
「松吉はほんまに大丈夫なんやろな」
善次郎はため息を吐いた。「正直なところ、わかりまへん。梅吉如きにおとなしゅうヤられるようなタマやったら、其れまでや」
和助は眉を掻いて同じく嘆息した。
「まあ、此れで納得やな。けちんぼの善次郎が、なんで行商人の噺を持ち出したもんかと――どこぞにええお人でも出来たんやないかて、昨夜は疑って要らん気ぃ回したわ。堪忍しとくれやす」
「旦さん」善次郎は息を吸い込んだ。「――わて、旦さん以外には考えられまへんねん。何十年もかかってからに、可笑しいな自分でも思いますわ。せやけど」
和助はうなずいた。そしていった。
「性具をわての代わりにしたいんは、下のほうやなくて上の口やな?」
俯いて下から悪戯心で見上げると、善次郎は視線を逸らしながらぽつりと云った。「旦さんの得手公、食べたいんだすけど。味見。さしとくれやす」