善次郎は身動きするのを一瞬やめ、膝を閉じようと無駄な足掻きをした。
「あっ……ぁっ、はァ……ッ!」
「此処やな」
「も、ちょっと。も、右。や、痛っ」
「火ィ点けなおしたら、あかんか?」
見られたないんや、と掠れ声で白状するので、月明かりだけでもと襖に手を伸ばせば止められる。「あき、あきまへん。まだ、裏手の屋根の上で松と梅が……」
「あの二人、出来とんかいな」
「算盤の練習やて……っ、云いましたやろ」
「タマ弾きも好きなんやろ。師匠と同じで」
「阿呆なこと、云わんとってください」善次郎は肩で息をしながら、徐々に侵入してくる逸物に慣れるよう躯を弛めた。「松吉は竹の奴に……狙われとったけど、もう」
和助は愕然として半分身を起こした。「わて、聞いてまへんで」
「旦さ、ん! 閨での最中に、悠長に噺なんぞ……ぁっ。も、またやめんので?」
「それ、いつの噺や。ヤられてしもたんか」
善次郎は抜けたモノに執着するのは諦め、躯を入れ換えて和助の上になった。恥じらいを無くしている自覚はあれど、真っ暗闇で行う珍事の機会は滅多にない。場所を見定めて互いを擦り合わせ、上下しながら和助の躯に身を伏せた。
「旦さんの耳には入れんといてくれ、……て、泣きつかれましてん。松吉やのうて、梅吉に。未遂で済んだらしいんで、それ以上は……」
「小僧ッ子の、とき? 確かにめんこかったけど」
善次郎はむっとした。「拾てきはったときも怪しい思いましたけど、旦さんこそ、松吉のこと」
「あんまり云うこと訊かへんのやったら陰間に売り飛ばすぞ云うて、何処かの鬼番頭が脅しとんのやったら訊いたわ」
「今でも人買いに任したら高う売れまんのになって、算盤の蛇腹で横ッ面叩く度に思とりますさかい」
「角使わんのが優しさやな」和助は善次郎の逞しい臀から背中にかけてをゆっくりと撫でた。「でも、そんなんしてんの、一遍も見たことあらへんで」
「旦……ッ、さん」
「憎まれ口。ばっかり」
陰嚢を弄りながら腰を落とさせると、汗か泪かわからぬものが和助の胸にかかった。反らして引けた下半身をぐっと引き寄せ、横抱きに変えた。無理な体勢のまま挿入する。
「――……ッ!」
善次郎は畳を叩いた。
和助も小刻みに息を吐いた。「堪忍な。家何軒も建てられる御大尽さまやったら、辛抱なんぞさせへんで、たっぷり喘がせたれんのに」
「……――! ……ッッ!」
「我慢は毒やし、肩噛んでもええで」
そんなこと、と囁いた声も消えるほど、捏ね合い交り合い互い、打ち付ける肉の奴隷となって一体感に浸る。善次郎は云われた通りにした。
「……っ! ッ……! ――……ぃ……」
遠慮がちに弾力のある肉に歯を充て、束の間の安息も底知れぬ快楽でかき乱される。飽かずに和助の皮膚の滑らかな部位を舌で味わい、善次郎の腰は闇に溶けた。
物見のため櫓に足掛け嬢さんを引き上げた先で、曙が此方を見て彼方から這い出し、眼を細めて光を捉えた一瞬の出来事が――善次郎の脳裏に浮かんだ。
「だ――だ、ん」
ぐっと閉じた瞼で泪を流ししがみつくと、和助も気がつき動きを抑えた。往きすぎたり戻ったりの応戦が、愛情深いゆったりとした揺すりに変化する。
会話の先は無かった。胸の高鳴りは水音が消した。浮き上がる輪郭だけが頼りだった。顔を撫でる思いやりに満ちた手が、遠い記憶を心の淵に鎮めた。
「逝」
「うん――」
花蜜の色に濡れ、口に差し込まれた親指をはんで善次郎は果てた。