【寒天問屋】


05



 切羽詰まった和助の大きな塊を目一杯中に納め、善次郎はその身を振り乱して全身で応えた。

「旦さん、旦さ……!」
「善次郎」
「蕩けて、おかしなる……っ! いやゃあ……あぁッ」
「声。声やで。でもな、ええんだす。わても訊きたいしな」
「口、口吸うてくだせぇ。旦さ、……ッ! ……!」

 和助のほうでもおいそれと夜伽の時間など持てなかったが故に、溜まりに溜まったモノが汚ならしく濁るほどだった。善次郎が腹をくださぬよう溢れる先走りは外に出すようにした。抜けそうになる都度に粘り気のある体液を搾り取ろうと、善次郎の臀にも力が入る。

「寒天溶かした後みたいやな。完全に乾いて皺くちゃになるまで出したるよって、覚悟しなはれや」
「っ……! ッッあぁ」

 腰が些かきつくなってきたため、繋がったままひっくり返すと、善次郎は激しく退けぞった。主人を置いて勝手に逝っては申し訳がたたないとばかりに、己の芯を鷲掴みにする。和助の理性はその姿で弾け、より一層動きに励むこととなった。

「わても酔うとるわ。あんさんのせぇや」
「奥、っまで。奥に、奥に……!」

 揺すられるうちに善次郎が泣き出した。涙脆い面があることは承知の上だが、生理的な反応というよりも、快楽の波から無駄に足掻こうとしているように和助には思えて、善次郎が声を出せない間に自分のほうから耳に吹き込んだ。

「善次郎。ええで」
「んぁ……! ん、んんッ。い、逝きたい。逝かせとくれやす、旦さん……ッ」
「ああ、待っとり。今逝くで」
「旦さん、旦さん……!」
「――ッ!」

 最後の瞬間はどちらが先に果てたのか、判然とはしなかった。和助はこれも外で出そうと努力したのだが、善次郎の下半身が何としても逃がすまいとしがみついてくるので、そうはいかずに中で精を放った。生暖かい迸りが善次郎の胎内に注がれると、おそらくもう先に逝っていたと思われる逸物から、彼も手を放した。

「これ以上はよういかんかった。長ごなくて御免やで」

 荒い息で話せぬ善次郎を抱きすくめ、和助は寝静まる長屋のシンとした空気に耳を澄ませたが、誰も起きてくる気配はなかった。

 あんな風にいった手前、善次郎には到底云えることではなかったが――気づかれないに越したことはないのだ。だがしかし、和助の遠くなりかけている耳が拾ったのは、善次郎の言葉だけだった。

「わて――わて、旦さんの、太いんが好きやねん」

 和助は不意を突かれた。

「なんやて」

「意地悪せんとって、……ッ、ください」和助をずるりと引き抜き、善次郎はいった。「太い、から。気持ちええんだす」

「――ほんまか」
「太うて、硬うて。ほんま。力強うて。ご寮さんは、幸せなお人だっしゃ。こんな立派なモンを、ほんの一ッ時でも味わっておったんやから」

 善次郎の声の調子に、和助はにやりとした。「今は善次郎ひとりのモンやで」

 善次郎は溜め息混じりにいった。

「松吉やないけど、寒天でこのカタチに固めて広めたいんや。浪花だけやのうて、あちこちで。でもそんなんしたら、わては嫉妬で気が狂ってまうんやろうから、やりまへんのだっせ。もうとうに墓の下に入りはった、ご寮さんにさえ、わては毎晩、妬いとんのでおます」

 しかしながら、嫉妬というのは己も気づかぬほど徐々に大きく高まり、おかしなものでその感情自身から快楽を得るとがある。和助はそれを愉しんだ。

「おおきに。善次郎」
「旦さん、今晩は――」

 ふたりは寝間着だけ着替えて、そのまま一つの蒲団で眠りについた。

 主人を起こしに来たのがお里ではなく、その種のことには無知で鈍感だが誰よりも勤勉で早起きな松吉であったため、酒盛りが過ぎて寝惚けたとの言い訳で事なきを得た。






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