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2016/10/08 

「この間三ン下とっちめたやろ。頭に剣山刺して――なんで剣山?」

「兄貴」中田はか細い声で言った。「華道はええでっせ。スポンジに水がしみるまで待っとる間中、バケツ抱えて胡座かいて中を覗いて。俺の唯一の楽しい時間を、商談だの仁義だので邪魔しにくるんや」中田は横を向いて嗚咽をもらした。「――俺はな、兄貴。俺は孤独や」

「しばくぞ」西野は同じ精神疾患を抱えつつある自分を棚にあげて、泣き声をあげる相方を面倒に思った。そして今はケロリとしている布施の会長も、二十年ほど前には泣き暮らしていたなと思い出して、ハムスターか子ウサギでも飼おうと胸に決めた。「更年期なんやな」

「あきまへんで、若頭。ハムスターやウサギは」清水は西野の口の動き――ハムちゃんウサちゃんハムちゃんウサちゃん――をすかさず読んで言った。「ハムスターは殖えるし死ぬし、餌をあげ忘れたらお互い食べ合うしで地獄絵図。子ウサギはちょっとの物音と撫でさすりで即死。獲物にくわえられても痛みを感じないよう心臓発作まで起こす手の入れようですからな、うちのような大所帯では……」
「やて。すまんな中田」

 中田はソファの背に顔を伏せ「コッコちゃんでええから飼おうや……コッコちゃんでええから。死んでも食べるから。市の指定廃棄物にするような無駄にはせんから……!」と肩を震わせた。

 親父の田舎にチャボくらいならおったかな――と要は頭を巡らせた。中田の田舎はとうにないのだが、寝ている間に顔の上を這うチャボの可愛く憎たらしい様は覚えていた。両者の間に共通項目は片手の指ほどもないが、チャボの名前がピヨちゃんということだけは合っていた。

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「誰や。中田がクッキー焼くのにハマッとるって噂流しとんの」
「あれ本当なんですか」
「『蕎麦打ちしたいんや……蕎麦職人になりたいんや』て泣きつかれたことならあるで」西野は遠くを見た。「機材から材料から揃えたったら丸三ヶ月蕎麦ばっかでなあ。ある朝、頭から蕎麦を被った山姥みたいな中田が夢に出てきてな。もう辛抱たまらんて下のモン連れてこっそりうどん食いに行って戻ったら、座敷で拳銃構えて正座して待っとってよう。……蕎麦屋開いたるから勘弁せえって震える両手をポケットで隠しながら小銭数えとったんやけど――若衆みんな腰抜かしとったし、いきなり襲われたら飛び道具に敵うもんなんぞあらへんしな――清水がひょっこり顔出した思たら正座して説得し始めて。中田も正気取り戻して、『兄さん、土産のうどん俺も食いたい』とか『蕎麦は諦める、うどん屋開く』とか言っとるうちに」

 花菱でこの話はしばらくテッパンだったが、ある日誰かに「補佐、うどんお好きなんですってね」と聞かれて、「えっ……俺、麺類苦手や。喉詰まるし」と答える中田がいたとかいないとか。



クッキーの話もおそらく若頭の創作。中田サンプルを最初に画面で見たとき、このS見さんだけは何故か全力で弄り倒さなきゃダメだと思ったから、うちの中田がいるんだろうなと思います。触り甲斐という意味では親分さんでもなければ勉さんでも小野田さんでもなく、perfect humanなんです。NakataはNakataです。私にとっては最初からこういう→中田1 中田2 中田3イメージです。

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