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2024/04/14 

弓「ハイサンドには女神像の方角を向いて食べれば不老長寿を約束されるという縁起物があるらしいんだ。ぜひ食べてみたいもんだぜ」
爺「ほお。それは面白そうじゃ。どんな味がするのやら」
婆「美味しいけどね、商売としては問題もあるんだよ。ハイサンドの連中は塩を独占することに夢中で、グリンブルクから渡ってきた古米の整理に手間取ってるんだ。土地もただじゃない。行商人が考えた策さ」
爺「古米とな。はて、米は腐らんが、場所を取るからかのう? グリンブルクでは米は小麦と並んで安いんじゃ。ハイサンドに輸出できるならグリンブルクの農家も助かるはずじゃが……」
婆「普通に売っていればね。食べろと過剰に宣伝するのには訳がある。あれは作れば作るほど儲かる仕組みで、実際には半分以下しか商業に並ばないんだよ。ハイサンドは上下の軋轢も苛烈だから、中流階級はみんな贅沢品が主食だろう? 貧民にまで良心に訴えて食べろというのには、裏があるのさ」
鷲「ああ、売れなくなった分を廃棄処分している話は聞いたことがあります。でも、それならお金のある我々が大量に消費すれば……ああ、なまものでしたね」
弓「売れるとなったらさらに作るんだろうな。雇用は確保されるが消費が追いつかないわけか」
婆「腹はひとつさね、ルドルフ。あんたらはちょっと農耕できる土地についての知識が薄すぎるし、実際慣れすぎだ。グリンブルクの国庫はほとんど潤ってないだろう。ハイサンドは砂漠。エスフロストは雪。穀物の類いは貴重だから、国が管理をしている。グリンブルクは見たところ、ウォルフォート家をはじめとする三族を中心に、貴族が牛耳ってるね」
爺「しかも天災や人災時に隣国からの輸入に頼らねば生きていけぬほど、圧倒的に危機管理が足りてなかったわけじゃからな」
婆「米や小麦がなるのは何年もかかるし、畑は十年ぽっちじゃ天災や戦争から守れない。消費しようがしまいが作らせるだろうね。グリンブルクにはそういう縁起物はないのかい?」
鷲「甘いものを食べる風習がエスフロストから渡ってきましたね。グリンブルクは塩鉄大戦のとき何も得られなかったため、焼き払われた土地の自給自足を政府が促したと聞いています。幸か不幸か水だけは豊富なので」
弓「ちょっと待て婆さん。ハイサンドはなんでそんなややこしい産業に手を出して、儲けられてるんだ? あんたの話じゃ、全体の半分しか流通してないんだろう。利益が得られるようには思えないんだが」
婆「婆さんじゃないよ。私にもよろず屋さんにも名前があるんじゃ」
爺「そうそう。名前が……はて?」
婆「……お互い二つ名の方で覚えて貰うんだったねぇ……」
弓「悪かった。グローマ」
嫁「皆さん、お食事のご用意ができましたよ」
爺「フレデリカ。ハイサンドではこれこれこういう商売が人気らしいんじゃが」
鷲「なぜ利益が出るんでしょう? わかりますか?」
嫁「……ええ、と……縁起物……足が早い……流通が、半分……? ジーラ、貴女にはわかるかしら?」
癒「運搬業にヒントがありそうですね。ハイサンドは他の二国と比べ流通経路が確保されていると本で読んだことがあります」
婆「御名答。さすがエスフロストの学者さんだね。ハイサンドでは貴族の中抜きを許さない代わりに、教会がすべて持ってっちまう。あまった金は運搬と広告に注ぎ込んでいくのさ。最終的な利害のバランスが一番取れるからね。まあ三国が丸く治まっているうちはこれでやっていくつもりだろう」
癒「戦争が始まると、どうしようもありませんわね。私は実際、懸念していることがあるのです。以前のままグリンブルクの農家から買い上げはじめると、ハイサンドの農家の穀物や野菜は安くなりますよね。ハイサンドは三国の中では確かに大きな国です。しかしこのままだと両方の農家が衝突をはじめてしまう」
嫁「地続きの都市から、崩壊する可能性が高い……?」
爺「消化に悪い話はあとにするんじゃ。行商の端くれとしては、起こってから対処するしかないとも思うぞい」
婆「あんたの言うことも一理あるね。人ひとりできることは限られている。まあ老婆心ってやつさ、心に留めておいておくれ」
弓「……こんな情勢でもシャバで飯にありつけるなら文句は言えねぇよ。今日の飯はなんだ?」
嫁「それが、その……エホウロール……です。本当に、すみません!」
弓「……おお!」
鷲「なんと!」
婆「懐かしいねぇ」
爺「では、皆でいただくとしようかの。うまいものに罪はないからのう」



劇終。





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