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2024/04/13 |
金「エスフロストはグリンブルクに増して塩が高いですなあ。脱税取り締まり政策と塩の密売を阻止していけばいくほど、税金を取らないと管理そのものが行き届かず。何をどうやっても為政者にだけ金が入る仕組み……町には小銭欲しさにいちいち命を削り取る極悪人しか残っていないと来てる。これは私のような者には非常にやりづらいのも確か。小悪党がのさばっていたハイサンドが懐かしい……」 主「とんでもない独り言を言っているが、少し話を聞かせてくれないか。ライオネル」 金「!! これはこれはセレノア様。ごきげん麗しゅう」 主「おはよう。比べられるものではないが、グリンブルクのことはどう思っているんだ?」 金「……極悪人と小悪党のハイブリッドといったとこですな。一方に振りきれてるほうが政治家が余計な仕事をたくさんしてる証拠とも言えます。見ての通りエスフロストの民のストレスは天井知らず。小悪党も移民も奴隷産業もまとめて塩の女神信仰で『そういうもんなんだよっ! 贅沢いうな!』と平等大合唱し叩いていたハイサンドに比べれば、グリンブルクも貴族や民の不平不満も幾分はマシ……」 主「正直にいってくれ」 金「では遠慮なく。ハイブリッドなぶん最悪ですね。女神信仰による倫理抑制も隣国の話なので、悪徳商法が蔓延してても気づかず平和ボケが加速していきますぞ」 主「……」 金「ひひひ。ウォルフォート領は特におひとよしな民たちで溢れている。自国が攻められてもほとんどの民は声を上げようとせず、貴族たちも余裕があると思うのか助けの手を伸ばそうとしません。私は貴族の腐敗を撤廃した上でセレノア様を稼がせる目標ができたので民には手出ししませんが、フリーなら脱税しまくるかステルス値上げオンパレードで粗悪品を売りまくって暮らしていたと思いますね! 悪巧み商売たのしい!!」 主「正直すぎるが、聞かせてくれてありがとう……一応は信頼してくれているのだな」 金「やれやれ。これだから良家のお坊っちゃんは。口約束で繋がっている信用ならない詐欺師でございますよ」 主「青二才にもわかることがあるんだ。真の善人はときおり自分のことを悪人のようにいう。かつてこのような悪いことをしたのを後悔しているとか、自分はとても浅はかだったとか。悪人は絶対自分のことを悪くは言わない。ライオネルはいいやつだ」 金「……油断させて寝首をかこうという者もおりますよ。手口を晒してるので私はセーフ案件だとしても。アンナの報告はベネディクトから聞いてるんでしょ」 主「肥りすぎた貴族に痩せ薬を売って大成功してたって話かい? ……ふふ、冗談だよ。不老不死薬みたいに言ったら逃げ場がなくなるじゃないか。過剰広告には気をつけて。会計仕事中に邪魔したね。また後で」 金「…………。食えない人だ。ウォルフォート家の名前さえあれば商売がはかどると考えたこともあった。今は拠り所のない弱小領土の当主様だが。ネームバリューだけではあんまり稼げんのですよ。それに加えて、最近は妙に居心地がいい。人たらしの唐変木の青二才の面白いことときたら、まったく。やりづらいったらありゃしな………………ウワッ! アンナ……盗み聞きは商人の基本だが突然現れるのはやめろ。心臓に悪い!!」 忍「しばらくは見張れとベネディクト様が仰せなのだ。肥ってるのが悪い。お前こそ又聞きした情報で商売するのはやめろ。形の無いものの価格を吊り上げる戦法だと、長い目で見て信用をなくすぞ」 金「へいへい。まったく、誰の金勘定のお陰で食えてると思ってるんだか……」 忍「とりあえず痩せろ。話はそれからだ」 金「……!! 人が気にしてることを……!! きいっ!!」 忍「……というような話をライオネルとしておりましたが。申し訳ありません。セレノア様のほうには途中で気づかれて手を振られる不始末」 執「…………」 忍「? ベネディクト様。ライオネルは口は軽いですが我々の損になることは致しません。全体利益最重視の治世を目指すのであれば、ご心配には及ばないかと」 執「セレノア様が利益最重視であればな。あの方はmoralが2100、benefitが1000、freedomが700回答……つまり道徳が邪魔をして自由な発言が三分の一しかできず、利益を考えるためには道徳を半分にせねば、つりあいが取れん方なのだ」 忍「ご本人の想像以上に道徳が多い結果だった、と……?」 執「アンナ。私はなぜか最近、夢を見る。セレノア様に剣を向けて何かを訴えている夢なのだ」 忍「…………」 執「おまえは内気などではない。私を気遣って何か言うべきことを黙っているなら、はっきり言ってほしい」 忍「……私はもともと、天秤の選択のメンバーの中では、一番意思のない立場です。しかしそんな私が、セレノア様に唯一反論したことがあります。夢の中の話です」 執「うむ……」 忍「多数決で覆ることはありませんでしたが、そのときのセレノア様の顔が忘れられないのです。はじめは反対をした私に残念がっておられるのだろうと思いました。しかし、あの方は。セレノア様も……本当は」 執「本当は?」 忍「本心では、少数の策を望んでおられたのかもしれない、と。その目を見て、そう感じたのです。夢の中の話なのに、おかしいですね」 執「……報告の件、心に留めておこう。さがっていいぞ」 忍「はい。ベネディクト様。あと、もうひとつよろしいでしょうか」 執「なんだ」 忍「ライオネルの金勘定にはかなり驚かされるものがあります。セレノア様をどうこうする気はないみたいなので、お灸を据えるのは待ってやってください」 執「…………苦言するとなぜわかった? ん?」 忍「おやすみなさい」 劇終。 |