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2024/04/12 |
執「今日皆に集まってもらったのは他でもない。最近の若様の言動についてだ。不可解な点が多すぎる。何か知る者はいないか?」 筋「なあベネディクト。若のいない定例会議という時点で怪しいとは思ったが、おまえ最近、干渉が過ぎるぞ。若も子供ではないのだ」 執「エラドールは発言を許可するまで黙っていろ」 筋「やけにピリピリしてるな……」 鷲「……セレノア殿は『エラドールだけ挿話登場が多すぎる』と言っていました。皆さん、心当たりはありますか?」 筋「まったくわからん。それよりヒューイット。俺の目がおかしいのか、おまえの頭の上に文字が見える」 鷲「!! 実は私もあなたの頭の上に……見たことのない象形文字で、内容もわかるでしょう。おかしいと思っていたのです。まさか集団幻覚だったとは」 執「私語はつつしめ鷲遣い。もう一人の屈強な鷲遣いはどうした」 鷲「は、はい。『お互い被るとややこしい上に挿話が回収できてない』とかなんとか……被るというのは鷲のことでしょうが……挿話ってなんなのでしょうか? 言葉のまま意味を捉えるなら……」 執「『挿話』。物語の合間に差し込まれるささやかなエピソードだ。フラナガンは『鷲』のほかに『血塗られた盾』の二つ名があるから『盾』でよかろう。誰か呼んでこい」 忍「……恐れながらベネディクト様。発言してもよろしいでしょうか」 執「発言を許可する。アンナ」 筋「その制度は採用するのかよ……!」 忍「私を始めとする第二陣営はそもそもセレノア様との接点が少ないかと。あまり大人数で事を話せば口の軽い者がセレノア様に漏らしてします。私は下がっていたほうが……」 筋「いや、その理屈でいくとアンナは第一陣営に決まってるだろう。ベネディクトのことだ、何か考えがあるんだろうが……コソコソすること自体、俺は反対だ」 執「アンナ。ことは我が主君の病状とも言うべき妄言の出どころに関わるため、信念の天秤を左右できる者だけでは対処しきれない。おまえの言うのは『樽』と『金』だな?」 忍「……デシマルとライオネルです」 鷲「ああ……すぐにわかるのが嫌ですね」 筋「金さえ積めばライオネルなら若からうまく聞き出してくれそうだけどな。しかし『嫁』と『友』はどうした」 執「お二人は今回のことに一枚噛んでいる気がするのだ。セレノア様が話してくださらないことを、他から聞き出そうとしても難しい」 筋「だったら答えは最初から出てるんじゃねぇか……? 認めるのはつらいだろうが、ベネディクト。この婚姻がおまえの父親としての卒業式ってやつだ」 執「………………」 筋「……お、おい? 大丈夫か。顔色が悪いぞ」 鷲「エラドール……たとえ事実であっても黙っておいたほうがいいことはあると、貴方が教えてくれたのではありませんか?」 忍「ベネディクト様。セレノア様の件は私にお任せください。必ず掴んで参ります」 筋「そ、そうだ! 息子は巣穴から旅立っちまっても、娘がここにいるじゃないか! なあアンナ!」 鷲「そそそ、そうですよ! しっかりしてください、ベネディクトさん! アンナ! ほら貴女も何か言ってください!」 忍「……申し訳ありません。私はベネディクト様の養子ですが、過ごした時間は限りなく少なく。上司と部下といった間柄が適切ですし、どちらかといえば師匠であるアーチボルト様のほうが……」 執「………………!!」 鷲「アンナ!! それ以上は駄目です!!」 筋「ベネディクトの数値がみるみる減っていくな。集団幻覚でもこれはわかりやすくていい」 爺「おお、アンナここにいたのか。会議中すまんが、デシマルが故障してパニックを起こしておってな。誰も手をつけられんのじゃ。詰所のほうに来てくれるかの」 忍「かしこまりました。ベネディクト様。退室の許可をいただいてよろしいでしょうか」 執「……」 筋「ああ、ああ! 俺が許可するからとっとと行ってこい。話はつけとくから」 爺「すまんな。ところでベネディクト。儂にとってアンナは孫のようなもんじゃ。不肖の息子が何人いようともな。ふぉっふぉっふぉ借りていくぞい」 鷲「さすがの地獄耳……御老人、侮れませんね……」 筋「頭数には俺も入ってんだろうなあ。おい、ベネディクト。もういいだろ。傷が増えてんじゃねぇか」 鷲「これは珍しい……気力がゼロに近い! あの人を人とも思わないような軍師とは思えません! 非常に興味深いです!」 執「」 筋「興味深いって、おまえ……いや、気持ちはわかるが……天然な分ときどき容赦ないな。女ってみんなそうなのか?」 鷲「回復役のジーラが不在なのにトドメをさしてしまった。そっとしておきましょうか……あとエラドールさん。それは女性に対する差別発言です。女性がデリカシーがないのではなく、デリカシーがないのが性別が女である私だっただけに過ぎません!」 筋「はいはい。開き直る元気があれば、こいつもなあ。若の前では粘着質なストーカー気質なおしとけよベネディクト!」 執「……………………」 樽「ご主人! ご主人! 直してくれて、ありがとうございます!」 忍「シッ……寝ていらっしゃるから。……いや、これは起きている。のか? あの……ベネディクト様。先程の件ですが」 執「……セレノア様のことは私自身でなんとかする。世話をかけたなアンナ」 忍「はあ。……差し出がましいかもしれませんが、放っておかれるほうがよいこともあります。……私はそうでしたから」 執「アンナ……」 樽「ご主人! ご主人! 私は放られるのはもう嫌です! 聞いていますか? ご主人!!」 劇終。 |