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2024/04/11 

主「エスフロストの大書院は素晴らしいな! 先人の知恵と歴史と文化が詰まっている……惜しむらくは万人に拓かれた知識ではなく、自由という名の金銭と出世によって得られる立場で読める産物を制限している。古今東西、物ではなく情報を金で取引できると勘違いした者はもれなく詐欺師と呼ばれ、晩節を汚しているというのに」
執「重要な書物の管理は鉄の管理の五倍手間がかかります。万人に拓かれれば魔導書を悪用して全体を燃やす者が現れたり、三面記事数行だけであらぬ噂を立て始める者も現れます。非常に合理的な手段でしょう」
主「…………しばらく一人にしてくれと頼んだだろう」
執「ハイサンドに行かなくて正解でしたな。若様はウォルフォート領の広大な自然の中で畑を耕したり鳥を追っかけたりして育ったため、平和ボケしすぎております。鉱山地帯に囲まれた雪国の厳しさを思い知る絶好の機会」
主「……おまえが四六時中、領土を守ることだけが人生と吹き込んでこなければ……父上と共にあんな重要な話を死ぬ直前になって言わなければ、親友も妻も移民も隣国も捨てて悪特商法万歳合唱し、全力で領土を守ったぞ。おまえが正しいのはわかったから頼むから話しかけないでくれ」
執「何を言っているのかわかりかねます。感情で治世をどうこうしてはいけません。時には非情と思える決断こそ、真の平和と秩序をもたらし……」
主「40そこそこ50手前くらいのベネディクトに言われてもあんまり響かんのだ。私の代わりにhard人生5周してこいスキップなしで」
執「……私の説得に感情論で推してくるのはおやめください。私であって私ではないような記憶が邪魔をする」
主「感情論ほど真剣に聞いてくれるから、最後まで甘えた結果ではあった。どれだけ民が都合よく増長しようと、今度は領土を見捨てたりはしないから安心してくれ。頼りにしている」
執「…………freedom回答はもうおやめください。最近抜け毛が増えたなとエラドールに指摘されましたゆえ」
主「『暑いのは苦手だから寒いとこ行こう』はさすがに選択してないぞ!」
執「うう……頭の上に『主』という文字が見える……言葉の合間にも文字が……セレノア様も従来の生真面目さが失われ能天気に見える……私は疲れているのだろうか?」

筋「若! 理性的と褒めていただいてたらしいのに、不正塩の件では隙を見せすみませんでした!」
主「理性と知性は同じじゃない。その両方を持ち合わせる人間に愛が欠けている場合が一番厄介だ。あんな見るからに怪しい冷酷そうな御仁にまで恩義を感じてしまうところがエラドールらしいなあ。それよりフレデリカについて相談したいのだが」
筋「は? いや、若の頼みとあらば一肌脱ぐのもやぶさかではありませんが……相手を間違えておられませんか。恋愛事に不得手なのはわかるでしょう。ベネディクトを呼んできます!」
主「絶対やめろ。全力でやめろ。幸せな家族計画が一瞬で崩壊するだろう」
筋「…………若。ああ見えてベネディクトはロマンチストな一面があります。ただそうですね…………花。花を贈るのはどうでしょう?」
主「花? 花か……安直ではないかな。前世では一切まったくこれっぽっちもそういった努力をしてこなかったのだ。最終的に星を眺めた思い出くらいで」
筋「……!! 星! 花! いいですねえ。武骨な男と頭でっかちな男に囲まれていては無理もありません。星空の下で花を贈りましょう。フレデリカ殿は繊細で素直な女性なので、変化球を投げても気づかれない可能性まであります。ここは率直にいきましょう!」
主「エラドールの強い後押しの言葉はやはり頼もしいな。母上の墓石にも誰が供えてくれているのか、いつも花が添えられている。よし、フレデリカに花を贈ろう」
筋「……そうですね。そういったことについても、ベネディクトが詳しいのです。本当は誰よりも」
主「こっそり聞いておいてもらえると嬉しい。花か……フレデリカは喜んでくれるだろうか」

嫁「毎晩夢に見るセレノアとの別離……選択肢の半分以上で別れが待っているなんて、よもや考えもしなかった。よく知らない相手との政略結婚に不安を抱えてきたのも事実……ただ、私の立場は思えば最初から無いも同然だった。これ以上同じ時間を共有しても、別れがつらくなるだけ……好きになってはいけない……」
主「どうしましたフレデリカ。暗い顔をして」
嫁「……!! セレノア!」
主「何か困ったことでもありましたか」
嫁「い、いえ。皆さま本当によくしてくださって……私の出自や立場を気づかってくださり、ありがとうございます」
主「……その様子では、ひょっとして。我が家の執事が遠回しにあちこち彷徨くなと言っておりませんか?」
嫁「故郷では私には選択の自由はないのが当たり前でしたので、気にしておりません」
主「言ってるんですね。言ってそうだとは思っておりましたがね……!」
嫁「あの。セレノア。つかぬことをお尋ねしますけど、顔を合わせる度に環境保護だとか移民問題について語り合う家庭環境って、どう思われます?」
主「世間一般では素晴らしいということになっておりますが、まったく健全ではありませんね……失礼。立派なことだと思っておりますよ。そういう貴女の理想論を追ってもいいなと思ってついていったのですから」
嫁「そして私だけ新天地に……貴方は死んでしまった」
主「貴女だけではありません。謂れのないカースト制度に喘いでた民族は解放された。そしてところがどっこい、私も生き残ってる説があるのですよ。昔見かけた覚えがあるのです。販促が捗ればフレデリカルートの続きがある……と」
嫁「ええっ……!?」
主「私の理想としては、記憶喪失になって流れ着いた私と貴女の恋愛譚……戻らないと知りながら主君を待ち続け、悪徳の道を極めていた執事を改心させる物語……捨てられた民衆の怒りを真っ向から受けとめ、親友の王子には貴女とのラブロマンス回避のため一身の都合上で死んでもらう」
嫁「あの、ロラン王子以外にも人気の方がいますよね……?」
主「そっちがお好みでしたか。たしかにかっこいい……仕方ないのでローゼル族の若き長には最初のエピソードで死んでもらいます。半ば復讐譚の弔い合戦で大陸に挑むのです」
嫁「えっ……そんな……! あ、あの、そもそも私が貴方だけを思って、一生泣き暮らしたではいけないんでしょうか」
主「そんな物語として綺麗な生き方は私が赦しませんよ絶対に。たとえ会話が領土問題と治世に関する家庭内会議だけになろうとも、新しい恋をするのです」
嫁「やはり根に持っておられたのですね。すみません。……エスフロストでの生活は、まさしくそういう環境だったのです。私は側室の子供ですし、出自の問題がありますから。義理の兄弟や親戚のなかで、唯一かばってくれたドラガンも……私はいったい、どうしたら」
主「……問題にしてきたのは両国の謎宗教のせいで、貴女のせいではありません。歴史も全然関係なかったでしょう。貴女が望むなら覇王道もありだなと思っておりますよ。男は基本的に闘うように心も体もつくられております。ひとりで悪徳産業を全うしても敵は次々わいて出てくる。野心まみれの国々に囲まれては平穏な治世もそう長くは続かないと思いますが、それでもよければ」
嫁「セレノア……考えさせてください……」
主「……行ってしまった……貴女さえいればが……遠い……渡しそびれてしまったな」


劇終。

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